演技

 シロは魔法も使えるらしい。

 まぁあんな杖を持っているというのは、私は魔法使いでございと主張しているようなものだが。

 おや、では最初の頃の俺は……? やめよう、これ以上は考えてはいけない。



 腕を貫いた槍はすぐにかき消え、継続ダメージもなかった。

 若干動きが遅いような……麻痺か?

 雷系の攻撃で麻痺状態になるというのは王道だが、自分が食らうとなれば嫌なものだな。

 こちらが攻撃するならば毒とか滅茶苦茶使うけど。当たり前じゃないっすか。



 奴は再びこちらに杖を構え、詠唱を開始していた。

 そんなことさせるか、と飛び出す。



「――なんてね」



「ッ!?」



 と、思ったのはどうも罠だったようで。



 低い姿勢で飛び出したことで、急に進行方向を変えられない。

 その進路上に彼女は剣を置き、自ら切られに行くよう仕向けた。

 当然そんなもの食らうわけにはいかないので、根性で避けようとリンボーダンスのように状態をそらし、滑り込む。



 だが、下を通過するのを見逃してくれるはずもなく。



 そのまま斬り伏せてくれようと剣を落としてきた。

 わざと態勢を崩し、転ぶことで直撃するのを回避。

 ついでにシロの脚にパンチを食らわせ彼女のバランスを崩し、それ以上の追撃を防いだ。



「…………やっぱり、遠くも近くもキツイとなると、戦う手段が限られるな」



 若干上下する肩を無視しながら、俺は呟いた。

 爆発ポーションも在庫切れだし、後は毒状態にするポーションくらいしか。

 それも遠くからじゃ絶対に当たらないし、かと言って近くから投げてみようかとすると攻撃される。

 八方塞がりじゃないか。



 こうして遠くから様子を眺めている間も彼女は詠唱をし、攻撃を仕掛ける準備をしている。

 運がいいことにどうやら動きながらの詠唱は出来ないようで、そのたびに止まっている。


  

 でも魔法って別に詠唱いらないはずなんだけどな……?

 そこまでロールプレイにこだわっているのだろうか。



 まぁどうでもいいか、と気を取り直して、背中に回した手に毒ポーションを出現させた。



 今シロは魔法を使おうおうとしている。

 こちらをはめようとする罠かもしれないが、何もしていないときよりかはやりやすいだろう。



 馬鹿の一つ覚えのように、また走る。 

 さっきまでは面白そうに輝いていた彼女の目が、薄暗く淀んだ。

 もしかして「つまらない」とでも思われたのかな? それは重畳。ずっとそう思い込んでいてくれ。



「召喚!」



 わざわざ大きな声をあげ、左手にカルトロップを出現させる。

 アイテムボックスから取り出しただけだから、勿論声など必要ない。

 だがこの局面、ブラフが重要なのだ。どれだけ相手を騙せたかが、勝敗を決める。



「へぇ、やっぱりそんな見た目だから魔法使えるんだ」



 少しは気が引けたのか、シロは口角を上げた。

 いやまぁ魔法じゃないですけどね。

















 手に出したカルトロップを、思い切りシロに投げつける。

 それは金属製のマキビシだから、結構な速度が出た。

 だからといって彼女に命中するかどうかなど分からないのだが。



 悠々と、何個も放り投げたカルトロップは回避されてしまった。

 えぇ…………。

 なんだろう、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという言葉を否定するのやめてもらっていいすか?



 まぁ良いけど。

 別にこの武器の目的は相手に当てることじゃないし。

 


 そう、カルトロップは、相手にふませることが目的なのだ!

 歩兵相手とか難しいことは分からないです。とりあえず踏んだら痛い。

 そしてそんなものが戦場に散らばったとなれば、とても動きづらくなるよなぁ?



「……なるほど、こちらの動きを制限するためのものか」



 彼女はぽつりと呟いた。

 ところで、あなたそんな口調でしたっけ? もしかして戦闘中は口調が荒くなるタイプとか。

 ひぇー、ハンドル握ったら罵詈雑言吐きそう(偏見)。勿論俺はこれ以上ないくらいに精神が綺麗なので、誰かに対して暴言とか吐きませんけどね。リア充? 爆発しろ。そもそも助手席に誰か乗せることがないから、口が汚くなっても関係なかったわ。凹む。



「だけど、それはそっちも一緒でしょ!!!」



「ッ!」



 言って、マキビシのないところを上手く蹴って走り寄ってくる。

 うーん、どうも少ししか意味をなしていないようですね。

 だってさっきまでと比べてちょっとしか速度落ちてないもん。



 俺は片手で振るわれているとは思えないほど重く、速い剣を躱しながら、地面に目を凝らしていた。



「………………?」



 若干首を傾げながら、攻撃を続ける彼女。

 対処するために戦場を縦横無尽に駆け抜けながら、移動していく我々。

 やがてカルトロップ地帯に入り、やっと俺の意図が分かったとシロは獰猛に笑った。



「私がそのトゲトゲしたやつを踏まないのなら、自らそこに飛び込むことで踏ませようって魂胆? あまり舐めないで欲しいな……!」



 横に並ぶカルトロップがまるで川のようになっているところで、それを挟んで俺達は対峙していた。

 ニヤリと笑って、川を飛び越えようとする。

 つまり、ジャンプする。

 ということは、空中に身を躍らせる。

 畢竟、そう簡単に進路変更ができなくなる。



 ならば。



 ガッシャアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!



 大きな音を立てて、ガラス瓶をその身で粉砕するシロ。

 おぉ…………何と毒ポーションを浴びてしまったではないか。何と不幸なのか(投げた人)。きちんと天気予報は確認しましょうね。天気予報士が『本日は晴れのち毒ポーションでしょう』って言ってたじゃないか!



 彼女が地面にいたら回避されて当てられない。

 だったら、絶対に回避できない状況にしてしまえばいいじゃない。

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