第三回戦開始
ライン亭をあとにした俺は、闘技場へと戻ってきていた。
ガヤガヤと煩い人達に、思わず緊張してしまう。
やはりコミュ障的にこのような沢山の人がいる場所にいるのは非常にストレスが貯まる。最悪死んでしまうかもしれない。うさぎは寂しいと死んでしまうが、俺は人がたくさんいると死ぬのだ。
『参加者の皆さん、これより第三回戦を開始します』
そんな事を考えていると、会場全体に響き渡るアナウンスが聞こえてきた。
おっ、ようやく第三回戦が始まるようだな。
初戦からではなく、何故かここから始まるバトル・ロワイアル。
アナウンスが聞こえてきてから数秒後、目の前にホログラムウィンドウが表示された。
『これより第三回戦、バトル・ロワイアルに参加します。よろしいですか? Yes/No』
俺はつばを飲み込みながら、Yesを選択した。
◇
「…………ここは?」
Yesを押したあと、急にまばゆい光に包まれ、浮遊感を感じた。
そして気がつけばここ。もしかして転移したとかそういう感じかな。
キョロキョロと周りを見渡せば、そこに広がっていたのは土が露出した地面だった。
「……闘技場は?」
『なお、試合風景は記録され、公式ホームページにリアルタイムで放送されています。優勝者や、目立った人には豪華景品が用意されていますので頑張ってください!』
「――うおっ、びっくりした!」
俺が疑問を言葉にした瞬間、アナウンスが聞こえてくる。
いっそこっちの反応を待っていたのではないかと思うぐらいのタイミングの良さだった。
少しばかり恥ずかしくなりながら、先程の説明を振り返る。
ふむ、つまりは現在も放送されているということか。
試合に参加しないで放送を見ている人がどれくらいいるか分からないが、まぁ数百人ということはないだろう。それなりに人気なゲームの公式イベントだからな。
そしてそこにいる不審者こと俺。わぁお恥ずかしい。
その後も試合についての説明がなされ、ついに第三回戦が本当に開始した。
「さてと…………まずは芋るか」
◇
ここは茂みの中。
薄暗い場所は非常に心地が良いな。もう寝ちゃいそう。流石に試合中だからそんなことはしないどさ。
試合が始まってから、まず俺がしたのは引きこもる場所を探すことだ。
このゲームよりも前にはあまりゲームをしてこなかった俺だが、バトル・ロワイアルの定石というか戦法に芋るというのがあるのは知っている。
そして戦闘狂でもなければ必ず勝つ理由がある俺は、優勝できる確率が一番高い芋りを選択した。
キョロキョロと辺りを見渡しながら動き回る全身ローブ。
傍から見たら不審者そのものだが、誰も見ている人がいないからセーフ……と言いたいところだが、どうにも放送されているようで。
その放送方法を知りたいなぁ。一人ひとりにカメラ的なものがついているのか、それともめぼしい人のところだけなのか。
俺は知らない誰かに見られているかもしれないという緊張を感じながら、何とか優勝してやるぞと再び気炎を上げていたのだった。
成長、だよなぁ。
俺は茂みの中から周囲を索敵しながら、一人感慨深く肯いていた。
昔の自分ならば、今のこの状況――つまり、誰ともしれない人に見られている可能性がある状況で、まともに行動など出来なかっただろう。
いや、何なら普通ならまだ動けないかな?
それでも動けているのは、ひとえに理由があるから。
成し遂げねばならないことがあるから。
しかし、流石に試合が開始してから数十分が経過して、未だに会敵していないので。
「…………暇、だなぁ」
茂みの中、一人呟く不審者。
まぁ俺のことなのだが、誰とも会っていなかった。
芋り戦法をしているのだからそのほうが良いのだが、それはそれとして暇だ。
ちらりと視界の隅に浮いているホログラムウィンドウを見ると、そこには試合の残り時間が書いてある。
残り時間、あと二時間三十分。
「えぇ……(困惑)」
やっぱり長すぎるだろうと。
ちょっとゲームすっかー、位の気持ちで武闘会に参加していた人達は困ってるだろうなぁ。
そのための棄権システムなんだろうけど。
というかこのフィールドってどれくらいの広さなんですかね。そこそこの大きさならこんなに長時間取る必要はないと思うんだが。逆に考えると、非常に広いというのが正解ではないだろうか。
俺はあまりにも暇なので考察(笑)を繰り広げつつ、いつ敵が来ても大丈夫なように緊張は緩めない。
そして地平線――ただの表現なのか実際にそれほどフィールドが広いのか、今俺がいる場所からは地平線が見える――の向こうから、僅かな影が見えた。
「…………!」
来たか。
緊張感に全身をわずかに硬直させながら、俺はそちらの方を鋭く睨みつける。
俺は芋、俺は芋、俺は芋…………。
拙者は何処にでもいる芋けんぴでござる。芋けんぴ、髪についてたよ(カリ)。
「クソ、冗談じゃねぇぞ! どうしてあんな化け物が参加してるんだ!」
ハァハァと息を荒げながら、ノロノロ走ってくるプレイヤー。
息を潜めて、万が一にも気配を悟られないように茂みに隠れた。
「……………………行ったか?」
しばらくそのようにして隠れていたが、辺りに足音も何も聞こえなくなったから多分大丈夫だろう。
思わず詰めていた息を吐いて、緊張で滲んでいた手汗を拭う。
何とかバレずにすんだ……正面切って戦うのも良いんだが、それだと体力が心配だ。このゲームの大事なところは体力配分。いかに最終決戦まで体力を使わずに生き残るかが肝要なはず。
……いやしかし、ホントにバレなかったな。
自分でも真っ黒なローブで茂みに潜むのか……とか思ってたんだが、意外にも彼はこちらに全く視線をくれずに走り去っていった。やっぱここでも、日頃磨いてきた気配を殺す技術が生かされちゃったかー。
ここからは、ステルスポチの独壇場っすよ!!
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