お腹ならセーフ

 俺が彼を全力で蹴ったせいで、人の体から出たとは思えないほどの音が鳴り響いた。

 勢いよく宙を舞う相手。せっかくだからここで仕留めようと思い、再度顔に攻撃しようとしたのだが……。



 ――顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを。



 はっ、あなたは!

 ……そうか、顔を攻撃することによって、相手に与える精神的ダメージを心配しているのか!

 普通に生きている人ならば、日常生活で怪我をすることなど滅多にない。

 それなのに顔に何度も何度も思い拳を食らったら、トラウマになってもおかしくないかもしれない。

 そうなればまず間違いなくゲームはできなくなるだろうし、今後の人生に多大なる影響を与えてしまうかもしれない。



 俺はゲームを始めるときに『ゲーム内で多大なる精神的ショックを受けた場合:ログアウト後にも影響するような状況に陥ることはまずありません。年齢によるテクスチャの制限、またショッキングな描写は基本的に制限されます。ゲーム内で攻撃を受けた場合ですが、痛みは反映されず少し押された程度の衝撃に変換されます。その時の視覚情報による精神的ショックはAIにより自動的に緩和されます』という説明を読んだ気がするが、まぁ気の所為だろう!



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」



「ぐ、ぐふっ!?」



 膝、肘、拳、脚と体全体を使った殴打をぶち込み、彼のHPをどんどん削っていく。

 す、すごい! まるで掘削機だ! ステータスが高いおかげで体がものすごく軽いし、攻撃力も高い。一撃一撃を叩き込むたびに、目に見えて体力が減る。

 おぉ、何か別のゲームしてるみたい。いつもだったら物凄い長時間戦い続けてやっと倒せるレベルだもんなぁ。これがステータスの恩恵か……ちょっと浮気したくなっちゃうな。



「これで、終わりだ……!」



 最後の一撃をお見舞いして、俺は何とか第二回戦を勝ち抜いたのだった。



 ◇



「あと何回戦くらいあるんだろう…………」



 俺は街中を歩きながら、ホログラムウィンドウをいじっていた。

 調べていることは、武闘会の参加人数。

 ゲーム初の公式イベント……らしいから、多分結構いると思うんだけど。

 でも、それだとだいぶ試合数が多くなるよなぁ。さっきの試合でこっちの手のうちはバレちゃったから、出来る限り少ないと良いんだが。



「参加人数、参加人数と……お、あった。これか」



 えーと、なになに……参加人数、千二十四人……千二十四人?



「え”っそんないんの?」



 計算すると……一対一の試合で負けたほうがいなくなると考えると……優勝者が決まるまで十試合あるのか。嘘だろ。

 えー、俺魔法使いに見せかけた近接戦闘職なだけなんで、そこまで実力ないんですけど。

 いや、自分としては魔法職だと思ってるけどね!!!!!!! 錬金術師は魔法使いです!!!(自己暗示)



「――ん? 何か追加で説明があるな……」



 ――第三回戦からは、六十四人が同じフィールドで戦うバトル・ロワイアル形式になります! 


















 バトル・ロワイアル?

 それってアレか、多くの人が同時に戦うとかいう。

 ふーん、どうして第三回戦からやるんですかね?(困惑) どうせやるならはじめからすればいいのに……というか参加人数が多い最初からやるべきでしょ。もしかして運営は何も考えていないのか?

 いや、まさか…………そんな、その場その場で展開を考えているなんて……あるのか? VRMMOの運営だぞ? ありえなくないか?



 俺はこれ以上考えてはいけないと不思議な感覚を覚え、その先へ思考を巡らすのを止めた。

 まぁ、とりあえずは次の戦いのことを考えるべきだろう。

 バトル・ロワイアルというくらいだから、戦術も大事になってくるはず。例えば人が数人になるまで芋るとか。自分は陰キャとして影が薄いから、ワンチャン最後まで残れる可能性もあるか?



 索敵系のスキルがなければいいが。……俺レベルになるとそれすらも貫通するかもしれないけど。

 学生生活でクラスメイトに存在を認識されなかった男としては、そこらへん自信あります。

 言ってて悲しくなるけども。アーナキソ。



 ◇



「……静かだな」



 煩い門を開くと、そこに見えたのはお屋敷。

 現在、俺はラインの家に来ていた。



 ここで結構な期間生活していた。

 半ば強制的に打ち込まれた場所だが、流石にそれだけいると愛着も湧く。

 まぁやってたことといえば雑用に、体罰じみた修行とかだけど。某カンフー映画の大スターかな?



 それに、考えてみればここはラインの家だ。

 何を当然のことを、と思われるかもしれないが、彼女の見た目を考えてみよう。ロリだ。

 ロリをそういう目で見られるだろうか? 見られる人もいるだろうが、とりあえず俺は無理だ。ロリコンじゃないからね(棒)。当たり前っすヨ。



 で、そんな彼女の家で生活……つまり、ひとつ屋根の下で暮らしていたわけだ。別に暮らすってほどゲームをやってたわけじゃないけど。

 それでもリアルではあまりやることがないから、ほとんどログインしてたね。ほら、俺って友達いないから。遊びに誘ってくれる人もいないしさ。ハハ、その御蔭で思う存分ゲームが出来るぞぉ!!!(強がり)



 これ超絶リア充じゃね?????

 いや、超絶超えて究極くらいかもしれん。おれは非リアをやめ・・・・・・・・・るぞ! ジョジョ――!!



 しかし、静かだ。



 きっと、ラインはここに帰っていないのだろう。

 もしかすると監禁じみたことをされているのかもしれない。逃げるのではないかと。

 だからこの家の主人は、多分しばらくは帰ってこない。その間は、俺が掃除なり何なりをしよう。

 それくらいしか出来ることがない。大会で優勝すればもとの生活に戻れるかもしれないが、保険くらいはかけておく。ラインも久しぶりに戻ってきた家が荒れていたら悲しいと思う。



 俺は少し泣きそうになりながら、地面に落ちていた葉や、床のホコリなどを片していくのだった。

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