神業

 我、現在絶賛大ピンチ中でおじゃる。

 対戦相手はナイスガイ、使用武器は弓。

 武闘会に遠距離職業が参加するなんて……(自称魔法使い)。クソ、これは予想外だったぜ!

 俺の魔法は彼には通用しない。元々これの目的は相手に毒状態を付与すること。

 近づいた状態で倒されれば爆発するから良いものの、あいつは弓で遠くから攻撃してくる。そのため、ロイコクロリディウムは意味を成さない。



「ホラホラホラ、逃げてばっかじゃ勝てないわよ〜?」



「…………ッ!」



 流石ゲームと言うか、相手は同時に三本くらいの矢を射ってくる。

 それを何とか躱し切るが、若干体にかすった。

 近距離かつ拳対拳ならばかなり有利に持っていけるのだが、遠距離武器相手というのは初めてだ。

 魔法相手ならしたことあるが、アレもハッタリを使いまくったしなぁ。



 何故か途中で軌道が変わる矢を躱して、ロイコクロリディウムを召喚。

 しかし撃ち抜かれる。駄目だ、やはり通じない。



「何度も何度も同じ事ばっかり。オネェさん飽きちゃったわ」



 彼は落胆したようにため息をつくと、俯けていた顔をあげる。



「だから、すぐに終わらせるわ」



 ――【必中の矢】ァ!

 今まで落ち着いた声だったのに、急に低い大声を上げる。

 俺は思わずびっくりして、転びかけてしまった。



 おそらくスキル名だろう先程の言葉が真実なら、次の矢は絶対に当たる。

 こういうのはギリギリまで引き付けてから躱せばセーフというのがお約束だが、果たして……。



「おらぁっ!!!」



 パワフルな声とともに、一本の矢が飛んでくる。

 俺はあえてそれに突っ込み、まるで自殺のような行動を取った。

 彼は怪訝そうな顔をしたあと、やがて何かに思い至ったかのように笑う。



「ギリギリで躱せば当たらないって? 残念! 『絶対に当たる』から【必中の矢】なんだよ!」



「…………!」



 こめかみに当たりそうなところで、首を横に傾けて矢をやり過ごす。

 そのまま走り抜けて奴のところまで行ってやろうかと思ったが、後ろの方で風を抉る音が聞こえてきた。

 勘に従って地面に倒れ込み、前回り受け身で立ち上がる。

 そのまま目の前を睨むと、そこには大きく回ってこちらに向かってこようとする矢の姿があった。

 


 オイオイオイ、まじかよ。



「…………おりゃあ!」



 再びこちらに飛んでくるが、躱しても無駄だろう。

 現実世界だったら理不尽に叫ぶところだが、ここはゲーム。

 魔法的なアレでこういうこともある。仕方がない。



 あのスキルの終了条件は知らないが、きっと「何かに当たる」までは止まらないはず。

 それで対象に当たるまで止まらないとかだったら泣くけど。

 ……だからとにかく、あの矢を何とか止めないとジリ貧で負けてしまう。



 風を切りながら飛んでくる矢を、横から殴る。

 基本的に矢は滅茶苦茶速いから、速度を調整するのは非常に難しい。ただでさえこちらが走っているから難しいのに、そんなことも加わったらもはや神業だ。

 だがしかし、俺はラインの弟子。拳聖の弟子だぞ? 不可能なことがあるもんか。コミュニケーションは不可能だけど。



 殴られた勢いそのままに落下していく矢を見て、俺はニヤリと彼に向かって笑った。



















 そこに さんぼんの やが あるじゃろ?

 それを こうじゃ!



 ドグシャァッッッ!!!!!



「あ、あなた魔法職じゃないの!?」



「魔法職じゃい!!!(半ギレ)」



 向かい来る矢を次々に撃ち落とす俺を見て、彼は思わずと言った様子で叫ぶ。

 それに対してこちらも叫び、集中を切らさずあちらの攻撃に対処し続けた。

 おい、あのスキルMP消費が少ないのか? 結構発動しているはずだが、一向にMP切れの気配が見えないぞ。まさか俺と同じような魔法職型……いや、こっちはMP初期値のままだったわ。



 しかし流石に連続で攻撃しすぎじゃないかと思って見てみれば、彼はスキル発動の合間合間に変な挙動をしている。

 弓の弦に矢をつがえ、放ち、しゃがみ込む。

 この時しゃがみ込むのは数秒で、スキルを発動するための動きかな……と思ったが、どうにも様子がおかしい。同じスキルの動きではなさそうだ。

 その根拠は、しゃがむまでの時間がバラバラなこと。



 同じスキルならば、動きがほぼほぼ同じになる。

 スキルは普通の人が出来ない動きをアシストするためにあるものだ。例えば剣術スキルだとかは、現代日本に剣が使える人はあまりいないから、それを使えるようにする。

 まぁそんなものがなくてもDEXさんがあれば出来るようになるんですけどね! ダメージは与えられないけど! 見た目だけ。



 で、彼の動きをよく観察してみると、しゃがむまでの時間……膝の動き、腰の回し方、その他諸々が異なっている。

 というか俺、こんな観察眼鋭かったっけ? いつもヌボーっとしてたから、クラスメイトが髪切ってても気づかないレベルだったんだけど…………それは彼らと関わりがなかったせいか。ハハッ、ワロス(涙)。



 つまりあの動きには何か別の意図があるはずなのだ。

 じゃなければ、戦闘中に無駄な動きをする必要はない。

 一体何が目的で……?



「……………………ハッ!」



 そうか、だからMP消費が少なかったように見えたのか!



 おそらくだが、あの動きはMPを回復するためのものではないだろうか。

 しゃがみ込む……そのときによく見てみると、両手を胸のあたりで合わせている。

 お祈りとかそんな感じのスキルなのか? そしてその効果は、多分MP回復。



 使ったそばから回復をしていれば、そりゃあ継続してスキルが飛んでくるはずだ。

 ならば、あのタイミングで近づけばれる……!



 俺は彼の矢が飛んできたのを見計らって、全力で前に飛んだ。

 


「…………だからギリギリで躱しても当たると……いや、まさか……!」


 

 こちらの様子を馬鹿にしたように眺めていた彼だが、やがて何かに思い至ったかのように焦り始める。

 急いで立ち上がろうとするが、スキルの影響かその場にしゃがみこんだまま。

 オイオイオイオイ、全身がお留守だぜぇ?? 



「ッシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」



「ぐああああああああああ!?」



 俺は全身の力をかき集めて右足に持ってきて、そのまま彼の頭を蹴り抜いた。

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