植物鑑定と武闘会の日程

【痛みと共に生きるもの】

 幾多の痛みを経験し、それを生きる意味ととするものに与えられる称号。被ダメージ−15%。全ての被属性ダメージ−3%。



 ふーん、強いじゃん。



 俺は新しく進化した称号を見て、満足げなため息を付いた。

 ……名前には到底納得できませんけどね。

 何なの、痛みと共に生きるものって。プレイヤーを被虐趣味みたいに言わないでくれます? たしかにわざわざゲームの中でステータスの変わらないトレーニングをするなんて、普通に考えたらそういうことだけどさぁ。下手に効果が強い分、文句も出なくなってしまう。

 ホログラムウィンドウを閉じて、掃除に戻る。



 修行をやっていないときは、基本的に雑用をしている。

 家事をしたり買い物をしたり……ごめん嘘、買い物はしてないわ。店員さんと会話できないし。無人販売店とかあったら便利なんだけど。それかネットショッピング。

 電子空間なんだから、ボタン一つで買い物くらいさせてくれたらいいのに。もしかすると電子空間だからこそ、現実と同じような苦労をさせたいのかもしれないけど。

 考えてみれば、ボタンを押すだけで何でもできる世界なんてつまらなくてしょうがないだろうから。



 やけにでかい箒を持って、何処から現れたものなのか知らないが枯れ葉を払った。

 いやまじでこれ何処から来たん? 見たところラインの家に生えている木は常緑樹だし、そもそもこの街に四季があるのかもすら不明だ。ヨーロッパ風だとは思うが、果たして植生まで再現されているのか。まぁ異世界っぽいからそんな細かいところまで考えなくてもいいとは思うんだけど。

 そう言えばこの様な植物とか動物とか、一から人が作ってるんだよな。きっと凝り性な人がいて、設定とかもしっかり作ってあるんだろうな。

 そういうことに気づくと、意識がどんどん持っていかれる。



 ハッとしたときには三十分程度経過していて、新しくスキル【植物鑑定】が取得できるようになってしまっていた。スキルが手に入れられるようになったのはいいことだが、サボっているところ見つかると師匠にどやされてしまう。

 俺は何でもないようなふりをして、再び掃除に戻った。



「――――おーい、ポチ!」



 それからすぐに。



 呼びかけられた方を向くと、ラインがニコニコしながら手を振っていた。

 多少慣れたが彼女は美少女だ。実際の年は知らないが、少なくとも見た目はとても美少女。

 そんな人が俺みたいな陰キャコミュ障に手を振るだなど、ありえなすぎてたまに頭がバグる。

 しかし頭を振って正気に戻ると、一体何があったのかと首を傾げた。



 師匠が俺を呼ぶときは、大体雑用か修行の時。

 修行は数時間前に終わったし、現在進行系で雑用をしているからどちらでもあるまい。

 では一体何故呼ばれたのだろうと思ってはてなマークを作っていると、



「武闘会の日程が決まったぞ!」



 ……そんなのもありましたね。

 色々ありすぎて忘れてたわ。
























 武闘会。

 師匠であるラインが俺の成長のために参加を勧めてきた大会で、聞くところによると我強さに自信ありという者共が一対一で戦うトーナメント戦らしい。

 DEX以外のステータスがほぼゼロな自分は、強さに自信など到底持てないのだが。

 まぁスライム相手に余裕を持って戦えるようになったから、だいぶ強くなったんですけどね。プレイヤー相手だとどうもなぁ。その大会にプレイヤーが参加するのかは知らないけども。

 


 ライン曰く、それが開催されるのは一ヶ月後らしい。

 それまでは実力を高めるために修行三昧だな! などと言われてしまい、俺は恐怖した。

 有言実行とばかりに殴りかかってくる鬼畜ロリ。

 持っていた箒を遠くへ放り投げようとして、急に重くなって持てなくなったからその場に置き去りにする。恐らくだが、この様な日常的に使うアイテムはその用途のときは持てるが、戦闘となったらSTR値を参照して持てるかどうかを決めているのではないだろうか。そうでなかったらろくにアイテムが使えなくなってしまうし。



 何とか応戦したが、やはり実力不足。

 十回程度技の応酬をしたあと、ばっちり地面に転がされていた。



「技術は高まってきたけど、どうにも“力”が足りないなぁ。筋トレしてる?」



 してらぁ!!!



 いっそ叫んでやろうかと思った。キツイ筋トレを課しているのはお師匠だろう、と。

 まぁコミュ障だから言葉に出せないんですけどね。

 大の字に転がるのをやめ、身体のバネを利用して起き上がる。跳ね起きってやつだな。

 現実世界では決してできないことも、ここだったらできる。そう、VRMMOならね。多分MMOである必要はないが。

 そう言えばアクロバットをするためのスキルが取得できるようになってたよなぁ、と思い出した。

 こういう技術を極めればオサレな戦闘ができるんじゃないだろうか。ゆくゆくはニンジャに……!



「――よし、ポチ! ダンジョンに行くぞ!」

「………………?」



 どうしてそうなった?



 ◇



「準備できたかー?」



 大丈夫です。だって荷物とか持ってないし。

 アイテム類はすべてアイテムボックスの中だ。だから基本的にプレイヤーはバックとかを持たない。

 勿論アイテムボックスがいっぱいになったら、亜空間バック(某青狸のポケットみたいなやつ)とかアイテムボックス拡張アイテムとかを使うことになるんだが。LUKが低いせいか俺はほとんどドロップアイテムを手に入れることができない。そのため、普通のプレイヤーよりも収納に余裕がある。

 それを埋めるほど茶葉を押し付け――くれたサラって一体…………。



 全てを悟った猫みたいな顔をしつつ、その小さな体に反してとても大きなカバンを背負うラインの元へ歩いていく。

 ここは男の甲斐性的なものを発動させて「あれ」を持つべきなんだろうが、あいにくSTRのせいであれを背負った瞬間に潰れる。だらしねぇな。



 思い立ったが吉日というが、彼女はまさにそれを実行した。

 ダンジョンに行く発言からまだ三十分しか経過していない。それなのに、でかいカバンを背負って頭には冒険家みたいな帽子を被っている。さては結構楽しみにしてるな?

 何故ダンジョンに行くかというと、どうも「強くなれるから」らしい。

 レベルが上がるとかそういうことなんですかね。

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