GAMEOVER

 帰還。鉛のように重い足(標準装備)を頑張って引きずって、俺はついにクローフィの館にと辿り着いた。

 いやあ、ほんとに時間かかったぜ。それこそ数ヶ月レベルで時間かかった気がする。

 ま、気の所為か!



 いかにもラスボスだか強キャラだかが住んでいそうな館を視界に収め、「なんであんなに存在感あるのに、他のプレイヤーは気づかないんだろうな……」と疑問を浮かべる。

 ゲーム的ないい感じのアレがアレしてるんだろうけど、やはり違和感は生じるものだ。

 周りに誰かが現れる可能性がなくなったからか、ドクが引きこもりを卒業して住処から出てくる。そうして「早く歩けよ」とでも言いたげな様子で、少し前に行くとちらりと振り返り、また少し前まで行くという動きを見せた。



「少し待ってーな……」



 疲れとんねん。ゲームだから肉体的なものではなく、精神的なもの。

 ずっとPK生活を続けてきたからね、いつ復讐されるかと怖怖してたのだ。



 気持ち小走りでドクのもとまで行くと、圧倒的な威圧感を与える扉に近づいていく。

 うお、(扉)でっか……この威圧感でパンピーの館は無理でしょ。こんな威圧感で存在感なしを名乗るなんて各方面に失礼だよね。

 失礼しまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!!!!!!!!!



 ガチャ(デカい扉の隣にある小さな人間用の扉を楚々として開ける音)。



 まぁ、あんな大きな扉を普段遣いするなんて不便すぎるよね。そりゃ(常識的に考えて)そう(いう結論に至るから儀礼用じゃない扉を用意する)よ。

 小さな音だったが、開閉音は存外に広々とした空間に響いた。陰キャボッチである俺はそれにビクッとし、肩を小さくして覗き込んでみたが、クローフィはいなかったので助かった。

 これで話しかけられたりしたら驚いて心肺停止しちゃ――、



「おぉ、ポチか」

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」



 俺は死んだ。突如として後ろに現れたクローフィに耐えられれなかったのだ。残当(残念ながら当然)。

 驚いた衝撃で吹き飛んだ体のパーツを拾い集め、正の呪力を回す。これが反転術式……!



「なんじゃ、そんな急に叫んで」

「あっ、いやっ、その…………スーーーーーーー、あっ、いい天気ッスね」

「曇天じゃが」

「……吸血鬼的に」

「たしかにの」



 妾は太陽など疾うの昔に克服したから、長らく気にしておらんかったわ。などと呑気に空を見つめる彼女を放っておいて、俺は全力で胸をなでおろしていた。

 っぶねぇぇぇぇぇぇ……危うく俺が急に人に話しかけらることを苦手とする陰キャだとバレるところだったぜ…………。上手く誤魔化せたな、ヨシ!



「あ、ところで、一体ど……どこに行かれていたので?」

「野暮用じゃ」

「やぼ」



 あっ、ふーん(察し)。俺には言いたくないってことね。

 泣くよ?????????????

 陰キャは勇気を出して質問したことに対して、このように返答されると非常に悲しくなるのだ。だから、陰キャに話しかけられたときは、まるで乳幼児を相手にするように、やさしーく反応してあげようね!



 まぁ冗談は置いておいて、やはり真祖の吸血鬼ともなると色々忙しいのだろう。多分秘密結社的なやつのボスとかやってる。俺は詳しいんだ。

 しずしずと扉を譲り、彼女が館に入っていったあとに入場する。(ホラー系の)テーマパークに来たみたいだぜ。テンション下がるな〜。

 萎縮した俺を迎えてくれたのは、大きな階段とそれに添えられた首達。よく見る剥製的なアレだろうか。問題なのはその種族が動物ではなく人間であることだが、まぁニンゲンも動物だからな! 無問題モーマンタイか!!!



 後ろ手に扉を閉じて、階段を登っていくクローフィを見送る。別にこの館に俺の部屋があるとかいうわけではないから、これと言ってすることがないのだ。

 じゃあなんで来たのかって話だね。九割九分九厘温泉のためだね。残りの一厘は安全な場所でログアウトするため。ずっとフィールドでログアウトしてたから、偶にログインしたらデスルーラしてたことがある。

 


「きゅー」

「あっ」



 なんて見たこともない、ここから一番近い街から館まで辿り着くまでにあった、奇々怪々で一期一会な旅を想起していると、足元にいたドクが彼女を追って階段を登って行ってしまった。というか君階段登れるんだね。段差無理だと思ってたけど、そういえばジャンピング体当たりとかしてたからできないわけ無いか。



「ってそうじゃない」



 実は二階は俺も行ったことのない未知の世界。もしも人に見せられないものが置いてあったりしたら、



『見てしまったようじゃな……』

『お、お助け……』

『見たものは生かしておけん。貴様も訪問者歓迎用インテリアの仲間入りをさせてやろう』

『ヒェーッ! 剥製はイヤダーッ!』

『ポチ死ぬべし慈悲はない』

『アイエーッ!』



 みたいな……。



 ま、まずい! ドクを止めなくては!

 俺は思い切り足を床に叩きつけ、もちもちのそのそ階段を這い上がっていく眷属に肉薄する。動きがゆったりしてて可愛いね♡ 捕まれよ。



「きゅー(ちょっと動きがぎこちなさすぎるんじゃないかい、お坊ちゃん)」

「あああああああああああああああ!?」



 しかしドクは寸前で迫っていた手を回避すると、俺の顔を踏み台に二階に侵入してしまった。

 GAMEOVER!!!!!!!!!

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