二階
「しっ、失礼しま〜す」
「きゅ〜」
どうも、見つかったらGAMEOVERになるホラゲーみたいな状態に陥ってるポチくんやで。
どうしてこんなになるまで(ドクを)放っておいたんだ! 俺の怠慢です……。
入り口の生首パラダイスとは一転して、二階は瀟洒な壺や絵画が壁にかけてあって、いかにもお洒落なお金持ちが住んでいそうな家、といった様子だった。
正直俺も二階のことは気になってたから、このまま冒険続行しまぁぁぁぁぁぁぁす!!!!(ヤケクソ)
「それにしても扉多いな……」
魔法的なサムシングで空間を広げてでも居るのか、明らかに外観から予想される大きさ以上の長さの廊下を眺めて、俺はため息を付いた。
ドクは肌触りのいい絨毯でふかふかしている。呑気なやつめ。
「ポチ?」
「キェェェェェェェアァァァァァァァァシャァベッタァァァァァァァァァ!!」
「騒がしい」
ぐぇっ、と。
耳をふさいだクローフィが、空いた片手で俺をふっ飛ばした。体に染み付いた反応で、空中で体勢を立て直して壁に着地する。衝撃を逃したおかげでダメージは大して受けなかった。
「無闇矢鱈に騒ぐな。品性が落ちる」
「す、すいません……」
腕を組んで仁王立ちする彼女に、全く持って反論できない俺はしずしずと正座する。
あ、この絨毯本当にふかふかだぁ。全然足が痛くないぞぉ。
「それよりも、どうしてそんなにビクビクとしておったのじゃ。敵がいるわけでもあるまいに」
「アッ…………いや、その…………」
「……………………?」
首を傾げるクローフィに、俺は汗をナイアガラの滝していた。
言えない、まさか貴方に見つかったら殺されるんじゃないかと思っていましたなんて……!
何とか言い訳を頭の中でこねくり回して、ほとんど回らない舌でもって吐き出す。少し訝しげにしていたものの、どうやら彼女は納得してくれたようだ。
良かった……。
「もののついでじゃ。ついてこい」
俺がほっと胸をなでおろしていると、クローフィは踵を返してすたこら歩いて行ってしまった。
慌てて立ち上がり、毛の長い絨毯に足を取られながら走り出す。もちろん全力ダッシュだ。それくらいじゃないと追いつけないからね。
両方の壁についている扉を二十枚ほど過ぎた頃だろうか、彼女は髪をたなびかせ振り返った。
「ここじゃ」
「ここは…………」
クローフィが指指したのは、判を押したような造形の今までの扉とは違い、それは金色の縁で彩られ、ドアノブは繊細な細工が施されているものだった。
明確に他の部屋とは異質なそれに、俺は思わず唾を飲み込んでしまう。
やけに粘着質な、重たい音で扉は開き、徐々に徐々に中を視界に入れていくと……。
「剣……?」
まず目に入ったのは、ガラス製の容器のようなものに入れられた、輝かな黄金の剣だった。
豪華絢爛な装飾に加え、鈍く光る刃はかなり距離のあるここからでも、反射的に構えてしまうほどのもの。ジリジリと汗が滲んでくるような、嫌な威圧感を放つアレは一体……?
「あれはな、勇者の剣じゃ」
「勇、者………………」
クローフィは何処か遠くを見るような目で、あの剣の説明をした。
曰く、かなり昔に彼女を倒そうとやってきた勇者が持っていたものだ、と。
それを聞いた俺は心のなかで叫んでいた。
(なにそれレア武器じゃああああああああああああああああああああん!!!!!)
いやまぁいらないけど。
え、普通に考えて要る? 絶対厄ネタじゃんね。それにここからでも分かるよ、アレに俺が触れた瞬間死ぬって。どうせあれやろ、ポーションみたいに速攻ダメージ受けるんだ。そもそも使えへんし。
「そして…………まぁ、色々あってな。アレの持ち主とやり合ったあと、妾は人を殺さないよう契約を結んだんじゃ」
「え」
「なんじゃその『信じられません』という顔は…………玄関のアレは、勇者よりも前に収集していたもので、それ以降は増やしておらんぞ」
確かにそれもそうなんだけど、俺襲われたしな……。
「……何、初めて邂逅したときはどうだったんだ、じゃと?」
「アッ、ハイ」
「あんなものは襲ったの範疇に入らんじゃろ。妾少しも力出しておらんかったぞ」
それにあのときは眷属の散歩をさせていただけじゃ。珍しく気持ちのいい満月じゃったからな。
と、彼女は過去を回想しているのか指で髪の毛をクルクルしている。
そういえば、クローフィは後ろでふんぞり返っていただけで、シャドウウルフと戦っていたときにちゃちをいれては来なかったな。あれ、本当に襲われていない説あるぞ?
「そもそも妾が本気を出せば、まぁ人間の半分くらいは冥土の土産に持っていけるじゃろう」
「ヒェッ」
「冗談じゃ」
ほんとぉ? 目がマジだったよ。
「そこで…………最近、また妾を倒そうと人間が集まっておるらしいの」
「あっ」
掲示板で有名になってるとかいう話ありましたねぇ!
どうやらクローフィが何処かへ行ったりしていたのは、情報を集めていたりしたからなのだろう。もしかすると俺の試練とかそういう関係のもあるかもしれないけど。
「勇者との契約の中には『人間と戦わない』というのもあってのぉ…………はっきり言って、集団で襲われれば面倒くさいのじゃ」
「はぁ」
「それに妾もいつまでも全盛期というわけでもない。全盛期はとうに過ぎ、今や消えかけの蝋燭の如き様よ」
「は、はぁ?」
「そこで、じゃ。ちょうどよく何百年か振りに眷属を作ったじゃないか、と思いだしての」
「……………………」
なんだか雲行きが怪しいですね。私、その先気になりません!
「ポチ。少しその人間達のところまで行ってきて、獅子奮迅の戦いをしてきてみろ」
いやでェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェす!!!!!!(承諾)
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