参加
「武闘会の参加者ですね? こちらにお名前をお書き下さ――」
「俺は文字が書けねぇ!」
「――なるほど、では、お名前をお聞かせください。私が代筆します」
俺は今、とても大きな円形闘技場の入口付近にいる。
入り口からは長蛇の列が伸び、ここまで来るのに四十分ほど待っていた。
ゲームで待ち時間それだけかかるって、だいぶ不便だよなぁ……とか思ってたら、『待っている間はログアウトできます』というポップアップが視界の隅に出ていた。
しかしそれに気づいたのは、既に受付にたどり着きそうなところだったから、泣く泣くそのまま。
ショッキングピンクのポップアップに気づかないなんて、相当集中しているな。
いい感じのコンディションみたいだ。
俺の前の、その、なんだろう。口に出すのは憚れるのだが、あぁ…………まぁ、スキンヘッドの人が、受付の人に名前を聞かれて、先程のように答えていた。
流石中世ヨーロッパ風ファンタジー。識字率はそこまでないようだ。
まぁ中世って滅茶苦茶範囲が広いから、どこなんだか知らないけど。
「お次の方、どうぞ」
「あっ、はい」
「お名前は?」
「ぽ、ポチでござる」
「……ござる?」
「忘れてください(ものすごい早口)」
緊張で変な言葉を口走ってしまったでござるよ。
羞恥で死ぬでござる。
当然俺もこのゲームの文字なんて分からないから(おそらくスキルで書けるようになるものがある。何に使うか知らないけど)、受付の人に代筆してもらった。
「――はい、大丈夫です」という言葉を聞き、そのまま後ろにある闘技場への入口へと足を向ける。
「すっごいおっきい……」
馬鹿みたいな感想しか出てこないが、本当に大きいのだ。
というかこのゲームの建物ってスケールでかくない? ダンジョンしかり、闘技場然り。
視覚情報は最も異国情緒を表すものだろうから、それを狙ってるのかな。異世界感マシマシのために。
しばらく驚きから立ち止まっていたが、後ろの人に「早く行けよ」と言われてしまったので速攻で退く。
「すっ、すいません!」
「はっ、お前みたいなどんくさい不審者が勝てる戦いじゃねぇんだよ。魔法使いのビビリ野郎は、とっととお家に帰ってママのお乳でも吸ってな」
何か言葉強くない?
怒りよりもまず、そんな素朴な疑問が湧いてきた。
そしてよく見れば、後ろにいたのは「いかにも冒険者でござい」という装備のプレイヤー。
……もしかして、『粗雑な冒険者ロールプレイ』してるのかな。
それだったら納得だ。いや、だって、俺そんな事言われる行為はしてない……はずだもん。
ちょっと心に傷を受けつつ、しかし彼の言葉でより一層勝利を目指す心に火をつけた。
俺はまず見た目で舐められている。
そりゃそうか。こんな魔法使いっぽい奴が、武闘会なんかに参加するとは思えないもんな。
記念受験的な奴だと思われてもしょうがない。
だが好都合。油断してくれていれば、俺の勝率が上がる。
――だからこの格好は、相手を騙して勝ちを手に入れるための戦術なのだよ!
俺は内心涙を流しつつ、素知らぬ顔で嘯くのだった。
ザワザワザワ。
闘技場の入口をくぐった俺は、案内人的な人に促され、参加者の控え室に来ていた。
そこには強そうな人達が蔓り、出来れば帰りたい。
いや、無理だけどさ。ここで帰ってもラインが戻ってくるとかなら普通に帰ってた。
控室も一つだけというわけではなく、人数に応じて追加されるようだ。
凄いよね、事前に用意されてるんじゃなくて、その場で対応するって。
流石ゲームって感じ。
どうもそこでは武器の貸出とかが出来るらしい。
初心者でも戦えるようにするためかな? と言うか、おそらく初心者のためにステータスを一定にするのだろう。今更気づいた。
でも、それだとステータスが落ちたときに身体能力が大きく変わってしまうだろうから、対応難しそうだなぁ。
貸出スペースに行って、そこにある武器を観察する。
正直、俺に武器は必要ない。
そもそも拳聖の弟子だしな。やっぱこの拳こそが最強の武器よ。
これから戦うに当たって、スキルを見直す。
必要のないスキルがあったりするかな? それと、これはいるでしょ、ってスキルも……。
しばらくイジイジ。
それで色々した結果、スキル構成はこんな感じに。
スキル:器用上昇Lv.5
寄生された触角Lv.3
反撃Lv.4
近接戦闘Lv.5
格闘Lv.5
まぁまぁ、落ち着き給え。
【強打】がないじゃねぇか! という皆さん、これには理由があります。
まず、使ってみたかった。
あっ、石を投げないで! 石は投げないでください! ちゃんと説明しますから!
俺の使える魔法は、相手を黒くするものだけだ。
これは戦闘中、ものすごい集中しているときなら有効かもしれないが、でもその時ってこっちもギリギリだから、魔法を使う一瞬の隙が命取りになる。
これが並行詠唱的な練習をしていたら良かったんだが、生憎そんなものしたことがない訳で。
流石に土壇場でやるのは、ねぇ……?
ピンチでそういうことしていいのはジャンプ主人公だけってそれ一番言われてるから。
そしてこの見た目。
まるで魔法使いだろう? だから、俺の持っているスキルの中で最も魔法っぽいスキルを選んだ。
こういう戦いでは、いかに自分の情報を与えないかが重要だ……多分。
その時勝ち進めたら、さっきまで魔法しか使わなかった奴が急に拳をうねられせたらどうだろう。
反応できなくて死ぬんじゃないかな。それを狙っているのです。
はい言い訳終わり。
俺はローブの下にいるドクを撫でて、ついでに手に持っていたロウも撫でた。
反撃された。悲しい。
これが反抗期って奴なのかしら……と涙目になりつつ、俺は周りに人から「懐に手を入れて弄ったあと、自分の杖で自分を殴る変態」だと思われていないかと、挙動不審になりながら心配した。
お、俺は変態じゃないですからね! この大会に出るのは合法ロリを手に入れるためですけど、誓って俺は変態じゃないです!
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