検問

「ようやく、か……」



 俺は嘘みたいに大きな石造りの門を見上げながら、感慨深く息を吐いた。

 ここは国の中心、王都。

 最初の街から数日歩いたところにある都市で、武闘会が開催される場所だ。

 道中はロウとドクとで一対二をしつつ、絶対に優勝するぞと意気を高めながら来た。



 途中、「あれ、この移動速度だと間に合わないんじゃね?」と気づき、全力ダッシュをし続けたのは嫌な思い出。

 何かラインとの修行を思い出しちゃった。



「………………」



 それも、俺が大会で優勝できないと二度と得られないものだ。



 王都への入り口である門では、多くの人々が並んで検問を受けていた。

 いや、効率悪すぎだろ。某夢の国のアトラクションくらい人並んでんじゃん。なんかこう、便利な魔法的な奴でピュンピュン出来ないの?

 まぁ、実際はそういうやり方をすると、ちょっと魔法に長けた奴が誤魔化してしまうのかもしれないけどさ。あんまり詳しくないから分からない。でも隠蔽魔法とかありそう。



 長過ぎる待ち時間をイメージトレーニングで潰していると、やがて俺の番になった。

 門番はこちらの姿を見て一瞬ぎょっとしたが、すぐに無表情になって質問してくる。

 凄い、流石エリート門番(予想)だ。最初の街だと、これがずっと続くんだ。



「あー、どうして王都へ?」



「ぶ、武闘会……(小声)」



「え、何だって?」



「武闘会!!!(大声)」



「うるさっ」



 恥ずかしいいいいいいいいいい。

 


 門番の質問に対して、ボソボソと答えたら、聞こえなかったようでもう一度答えることを催促された。

 いつもはラインと一緒にいて、彼女は俺の小さな声でもとらえてくれたんだよな。それに慣れすぎた。普通の人は、コミュ障のうつむきながらの声は聞こえないんだ。

 それに思い至った俺は、反射的に聞こえるような声を出そうと大声を出してしまった。

 ここが普段人と話していない奴の悪いところで、声量の調整が出来ない。

 そのせいで、門番は上体をそらしてしまったし、周りの人の注目を無駄に集めてしまった。



 その後は、「あー、ローブの下の顔見せてくれる?」とか言われて死んだりしたが、何とか検問をくぐり抜けられた。

 こんな怪しい奴を通すとは、ガバガバな検問もあったものだぜ……(人目を集めて滅茶苦茶恥ずかしかったが、それを感じ取られないようにしている精一杯の強がり)。



 コソコソと門番の横を通って、王都の門を通過する。

 少し上を見上げると、影になった部分のひんやりとしていそうな石の重厚感に押しつぶされそうになり、門の大きさを再認識した。

 門によって影になったところを抜けると、ガヤガヤとした喧騒が耳に飛び込んでくる。



「ここが、王都……」



 国の中心。

 そして、武闘会の会場。



 城壁の外では「まー別に最初の街とそんな変わらないっしょ!(慢心)」とか思っていたが、全然違う。

 どれくらい違うかと言うと、カレーライスとドネルケバブくらい違う。

 


 俺はその発展具合に圧倒されながら、大きく口を開けてポカーン、としていた。

 まるで上京してきた田舎者みたいだぁ……(直喩)。


















 街を行き交う数え切れない人々。

 彼らは種族すら同じではなく、耳の長いエルフ、身長の低いドワーフ、皮膚が鱗のようになっている竜人など、いかにもファンタジーというものだった。

 他の種族の人は見たことがあったが、ここまでの規模のものは初めてだった俺は、思わず興奮してしまう。

 普通の服を着た人もいれば、頑丈そうな鎧をまとった、冒険者であろう人もいるのだ。



「……冒険者って、俺でもなれるのか……?」



 ふと、そんな疑問。

 全く情報を調べないでこのゲームを始めたせいで、どんな事ができるのかを知らない。

 というかチュートリアルってありましったけ???(今更な疑問) 初心者に不親切すぎるのでは? まぁ俺が適当にポチポチしてたときに、スキップしてしまったのかもしれないけどさ。



 しかし俺が王都に来た目的はそこではなく、あくまで武闘会で優勝すること。

 ローブの下でドクに叩かれて、ハッと意識を取り戻した。

 いけない、こんなところで飲み込まれてはならぬ。我武闘会優勝者ぞ?



「……………………」



 それでは早速会場へ向かおうとしたのだが、場所が分からない。

 ラインは日程は教えてくれたが、そこまでは教えてくれていなかったのだ。

 多分、彼女自身が案内するつもりだったんだろうけどさ。「あんなこと」があったから、その機会も失われてしまった。



 マップに載ってるかな……?



 そう思い、ホログラムウィンドウを開いてマップを表示する。

 スイスイといじり、やがて【イベント】武闘会のお知らせ、という欄を発見した。

 これだ、と確信した俺はそれをタップし、説明を読み込む。



 ……今の俺、傍から見たら完全に怪しい人だよな。

 空中に指を伸ばし、考え込んだりくるくるしたり。

 ま、いいか(思考放棄)。



 説明曰く、王都の南の方にあるコロッセオのような場所で、武闘会は開催されるらしい。

 えぇ、ということは見世物にされるんけ? ボク陰キャコミュ障なので衆目にさらされたくな〜い!

 冗談だが。いや、冗談ではないが、それよりも大事なものがある。



 と言うか、これプレイヤーも参加するんだね。

 俺てっきりNPCだけだと思ってたよ。そっかー、プレイヤーも参加するんだー。

 ……大丈夫か? こちらの知らない魔法とか、スキルとか出てくるよな?

 うーん、まぁ大丈夫だろ!(現実逃避) こっちだって相手の知らない(であろう)魔法とか(相手を黒くするだけ)、相手の知らないスキル(寄生虫を召喚)とかあるし!



 確か武闘会ではステータスが一定にされるんだよな?

 今まで「ステータスのみ」一定にされると思っていたんだが、HPMPも一定にされるのだろうか?

 そうなるのならば、このイベントは近接職向けだから、魔法職には不利になるだろうなぁ。



 そういえば、魔法職なのに武闘会に出場する馬鹿が居るらしいっすよ?

 まぁ僕なんですけど。優勝目指してます。



 俺は不敵に笑いながら(ローブの下で)、会場を目指して歩き出した。

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