ロイコクロリディウム

 大前提として、この大会に参加している人は全員同じステータスに調整されている。

 つまりステータスが高い人は「クソ、体が重い……!」ってなってステータスが低い人は「体が軽い……!」ってなるんですね。

 おそらくゲームを始めたばかりの初心者でも戦えるようにしているのだろう。

 そのため、普段DEX以外のステータスが基本ゼロな俺は、(いつもと比べたら)高すぎるステータスに対応しなければならないのだ。



「【寄生された――」



「喰らえええええええええええ!!!!」



「ッ!」



 そんな事を考えていたら、タナーカが大剣を振るう。

 思考に没頭していた俺はそれを回避しきれず、ゆっくりとこちらに向かってくる剣を眺めるしか出来なかった。



 ――不味い、死ぬ。



 せめてダメージを減らそうと、何とか体と剣との間に腕をねじ込んだが……。



「………………あれ?」



 生きてる。

 …………? 完全に負けたと思ったんだが……ちらりと横目でHPバーを見ると、真っ赤に染まったバーが二割ほど残っている。

 スライムの攻撃数発で沈む俺が、あんな勢いの乗った大剣を食らって生き残れるはずがない。

 ということは……。



「せぇい!」



 対戦相手はすかさず連撃を叩き込もうとするが、流石にそれは回避する。

 一撃でここまで体力が減るあたり、やはり大剣は攻撃速度は劣るが攻撃力に優れているらしい。

 いやしかし、攻撃を食らっても生きていられるというのは、ステータスが一定にされているからだろう。

 ……あっぶねぇー! その設定じゃなかったら負けてたー!



 油断しすぎだ。気を引き締めてけ。



 回避ついでに【反撃】を叩き込んで、相手のHPを減らしていく。

 奴は俺の攻撃にバランスを崩し、どてんと音を立て転んだ。

 このまま追撃してもいいのだが、今後の戦いを考えるとここで接近戦が出来ることはバレたくない。

 魔法を使ってとどめを刺すべきだろう。



 いざ、初めて使う魔法。スキルかもしれないけど。



「――【寄生された触角】」



 俺が右腕を伸ばすと、そこに紫色の魔法陣が現れた。

 それはぐるぐると回り、いかにもな雰囲気を醸し出す。

 まるで魔法使いじゃないか……と感動していたら、うにょうにょ……と魔法陣から芋虫みたいな奴が這い出てきた。



 うぞぞぞぞぞぞぞぞー。



「ひぃっ!? なんだそいつは!」



「………………」



 うわぁ。うわぁ。



 タナーカは思わずといった様子で引いた声を出すが、声を出していないだけでそれは俺も同じ。

 自分で召喚しておいてなんだが、アレだな、虫が好きな人じゃないとこのスキル使いづらいわ。



 びたんっ! と地面に叩きつけられ、しばらくうぞうぞしていたと思ったら、対戦相手ににじり寄っていくロイコクロリディウム。

 実際のロイコクロリディウムが移動できるかどうか知らないが、とりあえず「こいつ」は動くらしい。

 ショッキングな見た目のこいつは、魔法陣からどんどんと出てきたと思えば、タナーカの方へと這い寄っていく。



 ……何かこれ、傍から見たらとんでもなく悪の魔法使いっぽくないか?






















「きっ、きめええええええええええ!?」



 大量――というほど数は多くないが、それでも十匹のロイコクロリディウムを見て絶許するタナーカ。

 なんだろう、申し訳なく思う。

 それはそれとして魔法使うの楽しい(クズ)。



 うふふ、やっとちゃんとした魔法っぽいの来たなぁ!!

 まぁ見た目はアレですが。ノーカンノーカン。

 対戦相手は虫どもを自分に近づけまいと、大剣を振り回して牽制する。

 気持ちはよく分かる。気持ちはよく分かるが、そんなことしてしまっていいのかな……?



 俺がローブの下で薄笑いを浮かべるのと、それ・・が起こるのは同時だった。



「――ッ!?」



 大剣がロイコクロリディウムを裂くと、ただでさえ低いHPが全損する。

 あの武器は高火力だからな。一体一体が非常に弱いらしいロイコクロリディウムでは耐えられないだろう。

 だがそもそも、このスキルはこいつらで直接攻撃するためのものではない。

 倒されたあと、そこがいちばん大事なのだよ。


 

 HPが消滅し、虫どもの体がポリゴンと化す……と思った瞬間。

 爆発音とともに、ロイコクロリディウムの体の中から紫色の液体が飛び出してきた。

 俺は結構離れているからいいものの、タナーカは回避できない。

 彼は「うおっ!?」という驚きの声を上げて避けようとしていたが、流石に広範囲に広がる液体を避けるほどの技術はなかったようだ。



「まさかこれは……毒状態……!?」



 ふふふふふふふふふふふふふふふふふ。



 ふあっはははははははははははははははははっ!!!!!!!!!!!!!!!



 馬鹿め!!!!!! 虫というのは見た目だけ!!

 その正体は自走型の爆弾みたいなものなのだ!!!!



 いやぁ、見た目はキモいし、倒したら毒撒き散らすし、ホント害悪だなぁ。

 まぁ俺の魔法なので全く問題ないんですけど。

 何なら苦しんでいる相手の姿を見て、愉悦で口角が歪む。

 これが恋……?(勘違い)



 ちらりとMP量を見ると、まだまだ使えるようだ。

 ステータスが上がっているおかげで、魔法も使える数が増えている。

 つまりこれは、遠距離から虫を召喚しまくって、そのまま削りきれということですね!?



「【寄生された触角】」



 再び魔法陣を作り出し、その中から気持ち悪い虫が這い出てくる。

 いやー、ホント敵じゃなくてよかったわー。

 俺あんま虫好きじゃないもん。嫌いでもないけど。

 


「……そう俺が何度も引っかかると思うなよ! こいつらを倒すと爆発するんだろう! だったらそのままつっきってしまえば――」



「残念」



 タナーカは虫を引きずってこちらに近づこうとするが、その衝撃だけでHPが全損した。

 爆発。毒。彼のHPは減る。

 


 そう、あの虫ども、なにか衝撃があっただけで死ぬのだ。

 おぉ、相手に害を与えるためだけに生まれてきた存在……悲しいなぁ……。

 召喚しているのは俺だけど。



 俺は毒で削られ、そして虫の体液で転んだ彼を見て、そろそろ狩るか……♠ と悠々歩き出した。

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