お金がないなら人にたかればいいじゃない

 そうだ、人にたかろう。

 お金がないことを自覚した俺は、あまりにも情けなさすぎる決心をした。

 まぁ待て。一旦冷静になって、その大きく振りかぶった石を握り込んだ拳を下げるんだ。

 考えてほしいのだが、自分のようなクソ陰キャに世間一般で思われている“たかり”などできるだろうか? できないよな(食い気味)。つまりこれからするのはたかりではない。QED。量子電磁力学じゃないぞ。

 じゃあ一体何をするんだと言われたら、薬草を持ってそうな知り合い――ブルハさんにいただけないか相談しに行きます。勿論ただでなんてありえないので、お金で解決できればそれで、できなかったらクエストを受けます。どうもクエストは一度に何個でも受けられるようだからな。

 クリアまでに期限があるものもあるらしいが。



 路地裏から表通りをちらりと見てみると、まだラインは門の前にいた。

 しかし門番と歓談に勤しんでいるというわけでもなく、腕を組んで仁王立ち。とてもじゃないが見た目ロリが出していい雰囲気じゃない。

 あれが拳聖か……と少々ずれたところから納得を得、そんな凄い人が師匠だなんて俺の強さからすれば分不相応にもほどがあるなと悲しくなった。

 せめて堂々と『拳聖の弟子』であると宣言できるように、もっと強くならないとな、と拳を握る。



 それはそれとして人通りが多い場所を往くのは恥ずかしいので、このまま路地裏を通ってブルハさんのお家を目指そう。

 ホログラムウィンドウを開いて、メニューのところから地図を表示。行き先にピンを刺すと、最短ルートが視界に浮かび上がってきた。

 さて、ところでこの機能、もしかするとバグでは? と感じることがある。それは一体何故か。



「狭い狭い狭い狭い狭い狭い狭い狭い狭い狭い狭い狭い……!」



 何か五十センチ位しかない隙間とかをガンガンおすすめしてくるからだ。

 いや、これキャラクタークリエイトのときに太い設定にしてたら絶対通れないだろ。

 ほぼほぼ現実と同じようにしたからいいものの、弄りまくってるプレイヤーは苦労するだろうなぁ。俺みたいな初心者は電子空間で動くことに慣れていないので、基本的に現実をそう大きくは変えないことを推奨されているのだが。

 それでも、自分のように完全に弄っておりませんぜ、なんてのはそうそういない。リアルバレとか色々とあるだろうから。あまりVRに触れてこなかったから何も考えずにこの見た目にしたものの、よく考えてみれば真っ青になるほど考えなしの行動だった。

 幸運なことに【黒霧のローブ】を手に入れることができて、顔を隠すことができるようになったのだが。

 


 ……いつか完全に顔を覆い隠すような装備を手に入れないと。

 絶対に――本当に本当にありえないことだが、俺の妹がこのVRMMOすることになって、もしもばったり遭遇してしまったとすると、気まずいどころの話じゃなくなるからな。

 その時に仮面とかをしていれば、バレない……んじゃ、ないかなぁ。多分。
























「や、やっと着いた……」



 俺はさんざん鍛えた体力が底につきかけながらも、何とか目的地に到着した。

 目の前にあるのはブルハさんの家。

 しばらく膝に手をついて体力の回復を図っていたため、急速に疲れが取れていく。ラインとの修行のときに気づいたのだが、このように「いかにも休んでますよ」みたいなポーズを取ると回復が早くなる。

 おそらくMPを回復したいときは瞑想とかすればいいんじゃないだろうか。いやしらんけど。多分。



 バッチリと歩けるようになったので、いざお家へGO。



 意気揚々と足を繰り出していたわけだが、どうにも近づくにつれて足が重くなっていく。

 何も考えずに薬草を貰おうとしていたが、コミュ障にはちときつかったか。



 扉を前にしてウジウジ。

 そんなこんなで三分くらい経ってしまったから、もう駄目だと踵を返そうとしたその時。



「あん? 坊主じゃねぇか。そんなとこで何してんだ」



 おやっさんと出会った。



 ◇



「薬草を貰いに来ただぁ? やめとけやめとけ。あいつは人のことを困らせるのが好きなんだ。そんなこと言ったら、無理難題をふっかけられるのが目に見えてる」



 ところ変わって工房。

 俺は机を挟んでおやっさんと向かい合っていた。



 たどたどしく自分があそこにいた理由を話すと、帰ってきたのはそんな答え。

 彼は腕を組んでため息を付いており、「あそこから出たあとはしばらく素直だったのに……はぁ」だなんて唇を歪めている。あそこ・・・って何処だろう? 疑問が湧いてきたが、それを尋ねる前におやっさんが話し始めてしまった。



「というか、何で寄りにも寄ってブルハなんかに薬草を貰おうとしたんだ。ポーションがほしいなら、店で買えばいいだろに。……あぁ、そういえばお前は錬金術師だったか? だったら自分で作ったほうがいいな」



 え、俺が錬金術師であることなんて言っただろうか。

 困惑が顔に出ていたのか、おやっさんが再びため息をつく。



「…………お前が初めてここに来たのは、魔法の釜を手に入れるためだろう。あんなもんを使うのは錬金術師しかいねぇよ」



 あぁ、そういうこと!

 びっくりした。まさか個人情報もといステータスが流出しているのかと思った。

 


 その後オススメの薬草群生地を教えてもらったり(何で鍛冶師がそんなことを知っているんだろう)、ダンジョンを目指していたら、師匠が門番で止められてしまったから暇をつぶしていることなどを伝えると、驚いたように目を見開いた。



「何だ、ダンジョンに行くのか? そうか……ちょっと待ってろ、俺のお古で良ければ冒険用のアイテムをくれてやる」



 そう言って立ち上がったおやっさんは、スタスタと扉を開いて奥へ行ってしまった。

 申し訳ないのでいいです、なんて言う隙もない。俺の場合は時間があっても言えないけど。



 戻ってきた彼は、肩に小さなカバンを背負っていた。

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