世の中金だよ金!

 サッササッサとホログラムウィンドウを上から下へ。

 俺の目は目まぐるしく動き、流すようにして数多くある機能を見ていった。

 中には掲示板機能とかもあって面白そうだとは思ったが、あいにくネット上でもコミュ症を発揮してしまうために断念。顔が見えなくても、相手のことを考えると身体がすくんでしまうのだ。

 いつかROM専として掲示板デビューしてやろ、と固く心に決めつつ、その他に気になった機能を表示した。



「トレード機能、か……」



 長考の姿勢に入るため、石畳にあぐらをかく。

 人通りの多い道ならば迷惑この上ないことだが、ここは人っ子一人どころか光すらまともにささない路地裏。ちょっと道に座り込んでいる人がいた程度で話しかけてくる人などいない。



 トレードと言えば、まぁアイテムだろう。

 生産職のプレイヤーがアイテムを作り、果たしてそれをどうしているのか気になっていたが、ここで交換しているらしい。一部のギルドなどで囲まれているプレイヤーもいるのだろうが。

 ま、俺は(多分)生産職ではない(はず。きっと。そうであってほしい)ので、そこは結構どうでもいいんだ。

 それよりも何よりも重要なのは、システム的にこれで通貨と交換したアイテムは即時物質化するという点だ。つまり、コミュ障故に店でアイテムを購入できない俺だが、これでなら対面する必要もないし会話もする必要がない。チャットなどを行って売買するシステムもあるようだが、当分関係ないだろう。



 問題は今いくら位お金を持っているのか、だが……。



「全然ないじゃん」



 単位はエンドルらしい。円とドルかな?

 一エンドル=一円の価値であるようで、非常に日本人プレイヤーに優しい。

 そりゃプレイヤーの殆どが日本人だから当然だけどさ。

 現代の数多くあるVRMMOの中でUnendliche Möglichkeitenは新参者だ。俺は今までこういうのをやったことがなかったから興味を惹かれたが、世界中の人々がプレイするには知名度が低い。

 そんなにプレイヤーが増えてしまうと、同じワールドに多人数が存在するという仕組み上とても重くなってしまいそうだけど。その時はワールドを増やしたりするのかな。



 このゲームが人気になってほしいという気持ちと、ある程度古参(プレイ歴一ヶ月程度)の視点から人気になってしまうと寂しいという気持ちがあって、何とも言えない感覚だ。


 

 そんな感情の動きは置いておいて、お金がない。 

 今の所持金二千エンドル。クエストのクリア報酬で少しばかり稼いでいたようだが、雀の涙。

 一体どうやって金策するのだろうか、と思ったが、ゲームでの王道はドロップアイテムを売却することだろう。しかしLUKが低いせいでドロップ率が低く、ろくにアイテムを手に入れることができない。

 だったらDEX以外のステータスにポイントを振れやカス、という意見が聞こえてくるようだが、今更他のステータスに浮気するのは何だか嫌だ。縛りプレイのようなものだ。失踪……もとい他のステに振るのは敗北宣言。本当にどうしようもなくならない限りはDEX極振りを貫く所存です。



 最悪、モンスターを狩りまくってアクセサリーを集めるという手もある。

 ドロ率が低いから死ぬほど大変だろうけどね……。



























 さて、お金がないことは周知の事実だが、一応トレード機能を見ておこうと思う。

 ボタンを押すと、いくつかのアイテムの種類が表示され、取り敢えず「薬」を選んだ。するとズラーッと出るわ出るわ様々な情報が。

 情報の洪水に目が回りそうだが、かろうじて気になる欄があったので選択する。

 


【眠りの薬草:等級五】

 摂取すると相手を眠りに誘う薬草。主に睡眠導入剤として用いられているが、多量に取り込むと薬草に含まれる魔素と人体の魔素とが反応し合い、最悪の場合死に至る。その性質を利用して眠るように死ぬことができる安楽死用の薬として用いられたこともあった。土属性の魔素が多く存在しているところに群生する。

 


 ……怖いのだが?

 何で説明に死とかそんな事が書いてあるんですかねぇ。

 もう毒を作れと言っているようなものでは? ボブは訝しんだ。

 俺のステータス的にモンスターと正面切って殴り合うことはできない。正確には頑張れば可能なのだが、相手にダメージを与えることができない。そのため主な攻撃手段が爆発ポーションを使った属性攻撃や、毒ポーションなどの固定ダメージ戦法しかない。眷属をまとわりつかせるドーピングみたいなこともできるが、やりすぎると好感度がなくなって殺されます(三敗)。



 だからこの様な新しい毒げほんげほんポーションの材料には興味津々なのだ。

 サラッと説明を読んでみて、【等級】とやらの数字が小さければ小さいほどポーションなどに加工したときの効果が大きいことが分かった。

 多分等級が一番低いのが五で、一番高いのが一なんだろうね。

 ではでは一体いくらなんでしょう、と値段を確認したとき、俺は笑顔が固まった。



「せ、千エンドル……!?」



 馬鹿な、高すぎる。

 現在の所持金の半分じゃないか。そもそもポーションを作るのに薬草一つでは足りないのだから、全財産を使ったところで新たなポーションを作ることができない。

 輝かしい未来が急に消えたような気がして、膝をついて絶望した。



 いや、高すぎるでしょう。

 冷静に考えれば、本当に高い。

 だって爆発ポーションの材料になった何か爆発する草(多分爆発の薬草とかそんな名前。薬草ってなんだ……?)なんて、そこら辺にたくさん生えてたぞ。フィールドは違うけど。

 それを考えると、これはあくまでも運送費というか人件費とか諸々加えたお金であるはず。それでもこの値段はエナジードリンク並みの利益率だよな。ちょっと外に出て雑草刈りしてれば儲かるんだもん。

 いや、この世界ではモンスターが存在するから、おいそれと街の外に出ることができないのだろうか。

 自分は何度でも生き返ることのできるプレイヤーだからいいが、一度死んだら終わりのNPCにとっては高い壁だろうな。



 トレード機能ってNPCも使えるんだろうか、なんて考えながら、今の所持金だけじゃ何も変えないという事実を受け止めていた。草がこんなにするんだったら、他のものなんてもっとだろう。

 世知辛いなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る