エピローグ

ガチコミュ障のVRMMOソロ攻略

 ふわふわとして仮想と現実とが曖昧になっていく。

 次第に現実が薄れ仮想が現実になってしまう。

 気が付くと、俺は真っ白い空間にいた。



『ようこそ、Unendliche Möglichkeitenへ』



 何処からともなく声が聞こえてきて、目の前にホログラムウィンドウが表示される。ゲームを始める前の俺だったら驚いて腰を抜かしていただろうな。

 しかしずっと遊んできた俺には届かないぜ——! と不敵に微笑み、ホログラムを観察する。【ログイン】というボタンと【セーブデータを削除】という二つのボタンがあった。



【ログイン】を押すと真っ黒なローブを纏った不審者が現れる。随分と見慣れた姿だ。直接は見えないが、その下の相貌が容易に想像できる。

 だって自分だし。何度も鏡の中で見てきた顔かたちそのもの。



「……適当にキャラメイクしたから、現実の顔そのままなんだよな」



 流石に前髪を伸ばして見えないようにはしているが。

 しかしそれが余計に不審者感を増しているような。



『不満ですか?』

「うおっ」

『付き合いも長いんですし、そろそろ慣れてくださいよ』



 コミュ障にはちっと厳しいお願いですね。VR初心者だった頃はホログラムウィンドウに驚愕して、今は慣れて。けれどもいつになっても人と話せるようになる気はしない。いや彼女はNPCなんだけど。



 デーアさん。

 初めて出会ったNPCで、気恥ずかしいが「友達」。

 こうやってゲームにログインするたびにちょっとした会話を続けてきたから、なかなかに好感度が上がっている気がする。まぁ上がっていたところで活かす機会はないんだが。コミュ障ゆえ。



『……最近はどうですか』



 彼女は抽象的な質問をしてきた。普段はこざっぱりとした雰囲気を崩さないため違和感を覚える。

 ……おそらく、俺を気遣ってなのだろうけど。



 最近はクローフィを守るための戦いを勇者率いる大勢のプレイヤー相手にやっていた。それは非常に精神を摩耗させるもので、ひと時はログインするだけで若干頭が痛くなったりも。

 たくさんのプレイヤーを見送る中でデーアさんの観察眼も磨かれたのだろう。感情を隠すのは得意だと思っていたのだが、俺の憔悴は見抜かれてしまっていたらしい。



「楽しいですよ」



 しかし、今は別だ。



 クローフィは自ら死を望んだりしないし、見たことのないエリアを日々探索することが楽しくて、むしろ時間が足りないくらい。

 旅を続けているとたまに知り合いに出会ったりもする。最も頻度が高いのは以前PVPをしたテイマーの少女。彼女と出会うたびになんらかのモンスターに襲われているので、実はそういう感じの趣味があるのではないかと思っている。



 加えてラインだろうか。ラインとクローフィはお互いに嫌いあっているという姿勢を崩さないが、俺は結構相性がいいのではないかと予想していた。雨降って地固まるではないけど、心の底から嫌っている様子でもないのだ。

 例えるならツンデレ。出会ったそばから喧嘩を始めるものの、険悪なムードにはならず道中を一緒に行ったりもする。



 あと【黒衣の魔王】なんて大層な称号も貰って俺の知名度が上がってしまったようで、プレイヤーとエンカウントすると五十パーセントくらいの確率で「魔王だ! 魔王が出たぞ! 討伐しろ!」などと言われるようになった。

 あの勇者すら打倒したんだから余裕かというと、意外とそうでもない。

 なんせステータスが低いから正面から戦うのには向いていないのだ。一対一ならまだ何とかなっても、一対多だったらそれはもう。数えきれないほど敗北してしまった。



 そしてそれらを統合して考えると、やはり「楽しい」という結論になるのだった。



『ふふ、よかったです』



 デーアさんは喉の奥でころころ笑ったような声を漏らす。

 彼女はしばらく白い空間の向こうに身を隠すと、「そういえば」と呟いた。



『私のお友達にですね、イザベルという子がいるんですけど』

「ぞ、存じて、おります……」

『その子経由で聞いた話なのですが、どうやらポチさんのことをサラさんが探しているらしいですよ』



 え? サラが?

 一体どういう理由だろうか。彼女が積極的に俺を探そうとする理由が見当たらない。強いて言うなら紅茶の布教と、あとイザベルの布教。極々たまにサラが俺のいるところにやってきて――神様ぱわーで居場所を発見しているらしい――、鬱憤を晴らすかのようにお茶をしばき倒しているのだ。

 しかしそれも緊急性の高いものじゃないだろうし。



『なんでも「アルレー教徒にイザベル様を馬鹿にされたので頭にきました。宗教戦争を起こします。宜しければポチさんにも手伝ってもらいたいのですけど……」なんて言っていたそうですよ』

「何をしているの!?」



 訳が分からない。アルレー教というのは教会を訪れた時にサラが話していた存在ではあるが(彼女が狂信者っぷりを見せつけてきたときだ)、まさか宗教戦争を起こすなんて。そもそもイザベルを信仰しているのが一人しかいないのだから、およそ勝てる相手じゃない。



『えっと……ここから見ている限りだと今にもアルレー教の教会に突撃しそうな感じなのですが……』

「本当に何をしてらっしゃるの!?」



 こんなところで油売ってる暇ねぇ。すぐログインしないとサラがとんでもないことをやらかしてしまう!

 俺は急いで【ログインする】ボタンを押して瞳を閉じた。



 瞼の向こうから強くなった光が差し込んで、全身に感じる浮遊感が強くなる。

 


『それでは頑張ってください、ポチさん。……友達の活躍ですから、いつでも見てますよ』

「えぇ、友達ですからね! 恥ずかしくないような活躍をしてみせますよ!」



 焦りが急かしているせいで、詰まることなく言うことができた。そんな俺の発言に対し、デーアさんが苦笑している気配を感じる。やっぱり苦笑するよな。宗教戦争なんて苦笑するよなぁ!



『ふふふ。いってらっしゃい、ポチさん』



 ついに光が薄目すら開けられないほど強くなり、いよいよ足元の感覚が覚束なくなった。浮遊感が極まり、あの世界に行くのだと・・・・・・・・・・――!



 俺の冒険はこれからも続く。

 初めはなんてことないきっかけだったが、今ではこのゲームはかけがえのない存在になっていた。

 ラインやクローフィ、おやっさん、ブルハさん、サラ……。

 ここで出会った人と見紛うNPC達。

 それらすべてが、今の俺を、そしてこれからの俺を作っていく。

 相変わらず本当にぼっちだし、コミュ障なのは変わっていないが。

 


 これからも、ずっと。

 俺のVRMMO攻略は――………………いや。



 ガチコミュ障のVRMMOソロ攻略は、続いていく。










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これにて「ガチコミュ障のVRMMOソロ攻略~ぼっちが勘違いと地雷てんこ盛りステータスでトッププレイヤーになるまで~」は完結です。ここまで読んで下さり本当にありがとうございました。

フォロー、☆評価を頂けると次回作のモチベーションが上がるので、よろしければお願いします。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330656763382546

それとこちら現在執筆中の「ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない」という作品です。もしも興味がありましたら読んで下さると嬉しいです。

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ガチコミュ障のVRMMOソロ攻略〜ぼっちが勘違いと地雷てんこ盛りステータスでトッププレイヤーになるまで〜 音塚雪見 @otozukayukimi

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