黒衣の魔王
二つ名。
以前調べたことによるとランキングに乗ることによって手に入れられるものらしい。
ちなみにランキングは十位までしかなくて、物凄く狭き門だとか。
「……………………」
それに俺が乗ったということ。
【勇者】の場合は【討伐数ランキング】において三位らしい。
んで自分は……。
「【カルマ値ランキング】ね」
見るからに悪そうなランキング。
生まれてこの方悪いことなんてしたことないんだが。なにせコミュ障ボッチなもんで。人と関わらない。
ちょっと悪いことをしたとすると、プレイヤーを罠にはめてキルしたり、馬鹿でかい寄生虫を召喚してトラウマを植え付けたりしか……。
これか。
これだわ。
あとPKの数。
今まで暗殺者っぽい作業を続けてきたのに加えて、今回の戦いで滅茶苦茶プレイヤーを相手取っていたからな。
きっと勇者を倒したので四位になるくらいカルマ値が溜まったのだろう。
気になったので【カルマ値ランキング】の一位を見てみる。
ふーん、【暴虐王】ね。
【暴虐王】。
【暴虐王】……。
聞いたことあるなぁ。
俺は武闘会の第三回戦を思い返していた。
あのナイフを持っていた少女。確かそんな称号を持っていたはず。
彼女そんな凄い数PKしてんの? 正直、今回の戦いでは自分でもどうかと思うくらいPKしてたんだけど。上には上がいるんすねえ。
「…………………………」
さて、と。
ランキング四位か。
滅茶苦茶プレイしている人口が多いこのゲームで、四位。
少なくとも三人を除いて俺より上はいない。
二つ名……固有称号を持っている者はトッププレイヤーと呼ばれるらしい。例えランキングから落ちても。
トッププレイヤー。
俺が。
ふっふっふ。
「ハーハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」
久しぶりにこの笑い方した気がするぜ。
スライムにわからされてからしてなかったか? 牙が抜かれていたのだ。
しかぁし!! クローフィが――完全にではないが――復活し、シリアス展開も終了。抜かれた牙の代わりに鼻を伸ばす。我天下一番天狗也。
負ける気がしねぇ。なんだって【黒衣の魔王】だし? 御主人様のクローフィは『黒紅の魔王』だ。ずっと装備している黒霧のローブを手に入れた時に考えていた二つ名がそのまま付くというのは、なんとも運命的なものを感じる。
黒衣の魔王か。かっこいい。
「ふふふふふふふふ」
「気持ち悪いぞ」
ラインがドン引きしたような顔をしているが気にしない。
今の俺は無敵である。例えスライムの大群が襲ってこようともボコボコにしてやりますよ!! ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッッッ!!!!
「うわぁ」
「坊主のあの悪癖はなんとかならねぇのか?」
「無理だと思うよ。少年の生まれ持っての性質だからね」
「調子に乗っているときはいつも反動が来ているのに……」
『妾これと一緒に旅するのか? 本当に?』
なんだが胸元に下げたクローフィまでも陰口に参加しているような気がするが、多分勘違いだろう! だっておやっさん達は五メートルくらい俺から距離をおいていて、彼女とはゼロ距離だ。それなのに声が聞こえない。自分の耳が「都合の悪いこと通さないイヤー」であるはずもないし。
なんだ、やっぱり気のせいだな!!!!
サラに貰ったお茶を一息で飲み干して口を拭う。
適温で淹れてくれていたおかげで火傷はしなかった。
お茶も決めてやる気も十分。なんだか楽しくなってきたなぁ!!
「じゃ、私達は帰るよ」
「おい離せ」
「だって放って置くとスタベン、君何処かへ行ってしまうだろう?」
「……………………」
「丸くなってもこれだから、ほんと世話が焼けるね」
やれやれとブルハさんが肩を竦めながら、おやっさんの首根っこをひっつかんだ。さながら仔を咥える親猫のように。
非常に嫌そうな顔をしているおやっさんだったが意外にも抵抗はしない。諦めているのだろう。もしくは慣れているのか。
そして彼女の魔法でフライアウェイ。始まりの街まで飛んでいった。
俺の足で帰るとなるととても遠い旅路だが、魔法を使えばすぐに着くはずだ。
「あ、私はどうすればいいのでしょう」
所在なさ気にサラが首を傾げる。
困ったように眉が下げられ、金髪の束がさらりと揺れた。
「私が送ってってやるよ」
「え、ですがラインさん……ポチさんは?」
「勝手に帰ってくるだろ。そんなやわに育てた覚えはないぞ」
ラインがどんと胸を叩きサラを送っていくと言う。
まぁ俺は旅をする予定だし、そろそろ師匠に頼り切りというのもかっこ悪い。なんたって黒衣の魔王だし。ここは自分の足で帰る、もしくは帰らずに新しい場所を目指すというのもありだな!
『妾、嫌な予感がするのじゃが……』
「き、気のせい……だと思います、よ……?」
戦闘の熱が冷めてしまったので舌が回らなくなってきた。
不満そうに揺れる短剣にどもりながら返答。
大丈夫に決まってるだろ、だって黒衣の魔王だもーん!
大船に乗ったつもりで居ていいですよ。
なんだったらお風呂に入ってもらっても構いません。
Vやねん! タイガース(ポチという犬が進化しまくって虎になったという意。虎はイヌ科とか気にしてはいけない)。
呆れ果てたような表情のライン達は、じゃあなと手を上げてクールに去っていく。
先程まで賑やかだったのにあたりには静寂。
少々物悲しくなってしまったが、これから新たな旅路が始まるのだと思えば。
「きゅー」
がさがさ。
音の鳴った方に視線をやるとスライムがいた。
しかも一般的な青いやつだ。
「おいおいおい」
他の種類……ポイズンスライムだとか、そういう上位種族ならともかく、今更ノーマルスライム? 相手にもならんわ。
お、丁度いいくらいの敵がいるじゃねぇか。こんな雑魚の敵なら俺でも殺れるぜ。
「記念すべき冒険の礎となれェい!!!!!」
俺は地面を踏み砕くほどの勢いで踏み込み、隙だらけのスライムに踊りかかった――!
『はぁ…………』
『お主は一体いつになったら学ぶんじゃ?』
「おん? ポチじゃねぇか」
『拳聖のチビ……』
「そっちだってチビだろ。吸血鬼のチビ」
『なんじゃと……!?』
「やるかテメエ!!」
犬猿の仲の二人が久しぶりの喧嘩をしている。
それを眺めながら、俺は復活地点で膝を抱えて泣き崩れていた。
スライムはね、やっぱり強敵だったよ――……。
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