ステータス確認
俺は重たい脚を引きずって歩いていた。
肉体的な疲労はほとんどないが、精神的なものが大きい。
ドクは自分で動くのが面倒くさくなったのか、ローブの中に潜り込んで休んでいる。
「はぁ……」
ヴァンパイアハンターとの戦いは結構な広範囲にわたり、気付いたらクローフィの館から距離が空いていた。ログアウトをしようと思えば安全地帯に行かなければならないわけで、いくら疲れていても移動を強要される。
肩を落としながらトボトボと歩く俺の姿は、きっと激戦を制した勝者とは思えないほどボロボロだろう。
涼しい風が頬を撫でていった。
フードを被って月影を遮る。
もうすぐで朝が訪れそうだ。
目線の先が少しずつ赤く染まっていく。たなびく雲が紫色を帯びている。
吸血鬼にとって歓迎したくない、新しい朝だ。
……それに目を細めていたから俺は気付かなかった。
遠い木々の陰から刺さる視線が一つ。館に入っていく俺の背中を、ずっとずっと追っていた。
◇
「ワックワクのステータス確認タイムだァ〜!!!」
「きゅー!!!」
さぁ始まりました、滅多にないお楽しみタイムです!
舞台はここクローフィの館。主人は現在おりませんので天下無双状態!
いわば家族がいない家……放課後、誰もいない教室……。
謎のハイテンションが襲い来るボーナスステージ!
ステータスを確認するためにホログラムウィンドウを表示する。
ヴァンパイアハンターとの戦いで試練をすべてクリアしたからな、多分なんらかの変化があるはずだ。
そうでなくともMPが増えていたしな。ドキドキが止まらないぜ。
【ステータス】
名前:ポチ
種族:中級吸血鬼
職業:錬金術師Lv.74
称号:■々の友達
痛みと共に生きるもの
悪辣なる悪魔
蛮族
曲芸師
ラットキラー
逃亡者
夜の加護
影に生きるもの
拳聖の弟子
武闘会優勝者
試練を乗り越えしもの
HP:100/100
MP:50/50【150】
STR:0(0)
VIT:0(0)
AGI:(0+5)×2(10)
DEX:820+100(920)
INT:0(0)
MND:0(0)
LUK:0(0)
スキル:器用上昇Lv.5
反撃Lv.5
反撃Lv.5
近接戦闘Lv.5
格闘Lv.5
種族スキル:吸血
使役
物理耐性
日光弱化
聖属性弱化
光属性弱化
装備スキル:使用不可
ステータスポイント:20
【装備】
武器:なし
頭:妖狐の面
体:黒霧のローブ
足:なし
靴:なし
装飾品:ビックコックローチの脚
破魔の短剣
【眷属】
ポイズンスライム:ドクLv.69
ロウワースピリット:ロウLv.30
流れるようにステータスポイントをDEXに振って、顎に指を添えて考える。
MPが増えている以上、変わっている「中級吸血鬼」という種族が原因だろう。
吸血を使ったときに本格化云々というアナウンスもあったしな……。
というわけで、種族をポチり。
【中級吸血鬼】
遥か古よりヒトを襲い、その血を食らって生きてきた魔物の上位種。個体によって日光や聖水などへの耐性の強さが異なる。
種族ボーナス:INT、MND、LUKを二分の一にする代わりに、STR、VIT、AGIを二倍にする。MP+50。日光によるスリップダメージの発生。聖属性、光属性のダメージ増加。HP回復速度、MP回復速度1.25倍。
種族スキル:【吸血】【使役】【物理耐性】【日光弱化】【聖属性弱化】【光属性弱化】
「ほぉ……」
なるほど、それほど大きな変化があるわけではないのか。
最も注目するべきはMP+50。ステータスの計算式的に大きな加算ではないが、DEX極振り勢の俺にとってはありがたい。きっと物理特化型の吸血鬼という種族への温情みたいなものだろう。
HP回復速度については、一発攻撃をもらったら基本的に終わりだから関係ない。MP回復速度1.25倍は嬉しいな。
念のために新しく取得した称号「試練を乗り越えしもの」も確認したが、名前だけで効果はなかった。
クローフィに貸し与えられた一室で、ゴロゴロと寝転ぶ。
ふかふかのベッドが優しく包みこんでくれる……。
重い疲れが溶けていくようだぜ。ドクは実際に溶けていた。
そうやってぼう、と天井を見上げていると、扉を開く甲高い音が聞こえてくる。
軽い足音から考えるにクローフィが帰ってきたのだろう。
一瞬お迎えに上がろうかと思ったが、コミュ障がそんなことできるわけないね。もしもそんなことをしようものなら、できあがるのは趣味の悪い置物だけだ。もしくは死体。
ゲームの中ではあるが眠くなってきた。
抱きまくら代わりにドクを胸の中に押し込んで、掛け布団の下に潜り込む。
うとうとぼやけた意識が吸い込まれるように薄くなって、自動的にログアウト……を……。
「ポチ」
「ひゃああああああああ!?」
突如耳元に囁かれる甘い声。
鈴を転がしたようなそれは電流が走るように体中に響き、染み付いたコミュ障の息吹が首をもたげる。
掛け布団を跳ね上げ壁際に後ずさった。胸に手をおいて肩を上下させれば、バクバクと荒い。
「……うるさいぞ。どうしてそうお主は騒がしいのじゃ」
クローフィが不満気に耳を押さえている。
いや、いつもは冬の山のように静かなんですけどね……急に近づかれるとびっくりするかなって。
お陰で眠気は遠く彼方に吹き飛んでしまった。情けない内心を押し殺して立ち上がる。
音は聞こえなかったが、なにやら彼女は俺に用事があるようだ。
そうじゃなければ部屋になんか来ないだろうからね。
「ポチ、お主つけられておったな?」
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