【変身】とは。

 精霊とかそのたぐいが持つスキルで、自分の姿を自由自在に変えられるらしい。

 その力を使って、依代とは異なった姿を取って移動するとか。

 もちろんそこまで何でもかんでも変えられるわけではなく、元の体の大きさから乖離した大きさにはなれないし、例えば火の精霊が魚になったりは出来ないらしい。


 

 なるほど。

 俺は腕を組みながら納得していた。



 だから精霊さんは本体が木なのに移動していたということなんですね。

 つまりロウも彼女と同じくらいのことが出来る……?



 そんな事を考えていたことがバレたのか、慌てて否定される。

 どうもこの【変身】というスキル、使用者本人の実力も伴っていないと、そこまで変われないとか。

 ゲーム的に言うとレベルが足りないと変身できないということですかね。

 じゃあロウはどこまでだったら変身できるのだろう?



「あ”……ギ、ッボイ”ヤ"ヅナ”ラ”」



「ふーむ」



 訳すとあれか。

『木っぽいやつなら変身できますぜ』ということか。

 自分で言うのも何だが、ロウの言葉をここまで理解できるの相当コミュ力高いと思う。

 俺はコミュ強だった……?



 木っぽいやつってなんぞや。



 ちょっと疑問に思ったので、たどたどしい言葉で変身するようにお願いする。

 それに対してロウはキョロキョロとあたりを見渡したあと、お目当てのものを見つけたらしく意識を集中させ始めた。



「――あ”!」



 ポンッ。



 昔からの表現で、狸が変身するときって気の抜ける音するじゃん。別に狐でもいいけど。

 そのような感じで音が響いたあと、ロウから謎の煙が発生する。

 というか変身するときの煙って何なんだろう。どこから生まれるの? それ。



 モクモクと白い煙が晴れると、そこにいた……立っていた? のは腕を回せるほどの太さの幹の木だった。

 わぁ、そういうことか……!

 木っぽい、ってか木そのものだけど。



 その後ラインが(何故か)持っていた木彫りの熊に変身してもらったり(とは言っても結構大きかったが)して遊……スキルの使い方を模索していた。

 そして灰色の脳細胞を持つ俺は気づいてしまったのだ。



「あっ、こ、これに変身出来る?」



「?」



 アイテムボックスから取り出したるは、どこにでもありそうな杖。

 そう、俺が初期の頃武器として使っていたアレである。

 今ではSTRが足りなくてストレージを圧迫する要因となっているが、いつか使ってやろうと眠らせていたのだ。



 こちらの言葉に肯いたロウは、再び煙を発生させて変身する。 

 それが晴れたとき、そこにあったのはまるっきり俺が使っていたものと同じ大きさ、同じ太さの杖。

 都合よく杖がロウと同じくらいの大きさだったので、変身に差が出なかったようだ。



 緊張に唾を飲み込みながら、ロウを持ち上げる。



「……っ!」



 持てた。

 


 地面に転がるそれを掴んで、ヒョイっと。

 やった、やった、やった。

 やはり俺の考えていたとおり、この方法を使えば杖(正確には違うが)が持てるようになるのだ。 

 そもそも、STRによって武器が持てなくなるのは、それが戦闘に関わることだからだ。

 すべての力関係にステータスが参照されるのであれば、布の服すら装備できない俺はまともに動けないだろう。



 そうじゃなくてもドクを常に体に引っ付かせているのだから、少なくとも眷族はSTRの値に関係なく持てるという仮説は成り立つ。

 それを信じてロウに変身してもらったのだが、狙い通りだ。



「あっ、えっと、……俺と一緒にいるときは、それ、を基本状態……にっ、してもらっても……?」



「? あ”ぁ”(肯定)」



「ありがとう……!」



 そうして、俺は魔法使いらしく、再び杖を手に入れたのだった。
























 数日間の旅を経て、俺は再び最初の街へと戻ってきていた。

 一ヶ月の間離れていたからか、どこか懐かしいような感覚がする。

 これが帰省……?



 今の俺の姿は、顔の見えないローブに、立派な木の杖。

 どこからどう見ても、文句のつけようがない魔法使いだ。

 いや正確には錬金術師なんだけどさ。まぁ似たようなもんだろ。魔法使えるし。



 せっかく街に戻ってきたのだからサラのところにでも顔を出そうかな、と思ったが、やっぱりいいやと思い直した。



 ――どうせ武闘会が終わったらしばらく予定はないんだ。それから会っても遅くないだろう。



 そもそもコミュ力的に、知り合いに会いにいくというのはいささか厳しいものがある。

 あのイカレお茶狂いだったら、何も気にしないでいけそうだが。

 油断してるとなー、すぐ神様の話になるんだもんなぁ……。

 口を開けばやれ神様だのと、滝のように彼女の言葉は尽きることがない。



 サラのところに行くのは面倒くさいが、おやっさんのところには行こうかな。

 そう思っていたら、ラインが「一旦家に戻るぞ。武闘会の会場に行かなくちゃならんから準備をな」と言って俺を引っ張った。

 じゃあしょうがない、おやっさんのところにも後で行けばいいだろう。



 ――でも、おやっさん達から貰ったアイテムは、結局なんだったんだろう。



 ブルハさんから貰ったものは結構使えたのだが、おやっさんに貰った短剣は役目が来なかった。

 いかにも「すぐ出番が来ますぜ」みたいなオーラを発していたから、ダンジョンで使うのかと思っていたのだが……。

 ま、悪魔とか出ないほうがいいか! そもそも俺自身が悪魔みたいなもんだしな!



 俺は前を進むラインを追って、小走りに駆け出した。



 ◇



 ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい。



 相変わらずの馬鹿でかい音を立てながら、ラインの家の扉が開く。

 もうさ、立て付けが悪すぎるから修理したほうがいいんじゃない?

 当然そんなこと言えるはずもなく、ボロボロの家の現状を黙認した。

 ごめんよ、救えなくて……。



「……。ポチ、お前道場に行ってろ」



「え?」



 俺がお家くんに謝罪をしていると、ラインがちらりとこちらを見てきた。

 道場には荷物もなにもないはずだが……。

 というか自分はアイテムボックスに全て入れているので、準備もなにもないんだよなぁ。

 必要なのは彼女だけで、荷物は俺に持たせるものとばかり思っていたんだけど。



 ここで修行していたときの仕事といえば、雑用ばかりだったからな。

 今も「掃除しなきゃならないのでは?」とウズウズしている。

 これが職業病か……。悲しいね、これが社畜だよ……。



 しかし周りを見ても、あまり汚れているように見えない。

 一ヶ月も空けていたんだぞ? 妙だな……。

 もしかしてラインが街に戻っていたときにちょくちょく掃除をしていたのだろうか? 絶対にありえない(食い気味)。だって家事できなそうだもん、家のお師匠。



 そんな疑問をいだきつつ、彼女の言葉に逆らえない俺は、黙って道場の方へと足を向けるのだった。

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