RTA
あの筋肉鳥ことシャドウバードには毒耐性がないらしい。まぁ普通に生きてる生物にはそんなもの必要ないよね。ただでさえ外敵がいなさそうな見た目してたし、なおさら必要なさそう。
そしてそのおかげで乱獲ができそうだ。
一体目の鳥を倒してから約十分。俺はシャドウバードを探して彷徨っていた。
ちなみに竜骨はドロップしなかった。こういうリアルラックが必要なものは苦手なんだよね。リアルコミュ力とかが必要なものも。例えばVRギャルゲーとかね。
ドクは随分と楽しげにポンポン跳ねている。でも何故楽しそうなのかって言うと鳥を自ら分泌する毒液で死に至らしめることが出来るからなんだよね…………怖い。
初めて眷属に対して恐怖を感じた。こころなしかロウもいつもより細くなっている気がする。
そのままぼーっと歩いていたが、一向に見つかりそうにない。
最初のやつも発見するのに時間がかかったから仕方がないのかもしれないが。
でもレアなモンスターを探すのってあんま好きじゃないんだよなぁ。某メタルなスライムとか。探す時間でストーリー進められるよな、って考えたら時間がもったいなく感じて。
レベル上げすら最低限。これはRTA走者の鑑。別にRTAやったことないけど。
「あ、いた」
そんなこんなでドクのご機嫌を伺い続けて結構な時間が経過。
草原に一陣の風が吹き、ざわざわと草を揺れさせる。
視界の隅に筋肉の影が。こんなところに酔狂なボディビルダーでもいない限り、あれはシャドウバードだろう。一体どこにシャドウ要素があるのかと話題のアレだ。
ドクは早くも「殺らせろ……殺らせろ……」みたいな感じで戦闘モードに入っている。
俺は出来る限りあいつと戦いたくないので静観の構え。
でもスライム一体であの巨体に挑ませるのも心もとないので、行くしかないのだろう。
嫌だが。とても嫌だが。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜…………」
筋肉しか取り柄のない鳥頭討伐RTA、はぁじまぁるよぉ。
「おらぁ!」
「!?」
まずは裂帛の気合を響かせ奇襲します。こいつは自らの肉体に絶対の自信を持っているのか、基本的に弱い相手に対して警戒というものをしません。狼に対しては警戒していたので、俺はそれよりも雑魚ということですね。舐めやがって…………黄泉の国に送ってやるからな? 移動費はそっち持ちだ。
奇襲に気がついたときにはすでに回避できない距離になっています。しかし当たったとしてもダメージにはなりません。せめて少しでもHPを減らせるように神に祈りましょう。もしかしたらクリティカルが入るかも。まぁ俺の場合はDEX極振りだからほぼほぼ確定ですけどね!
「グルルルルルルルルルルアアアアアアアアアアア!」
そして攻撃をしますと、このように大きく口を開けて威嚇をしてきます。怖いですね。
こちらは情けなく尻もちでもついてあげましょう。そうすることで相手のちゃちな自尊心を守ってあげることが出来ます。冥土の土産ってやつです。丁重にもてなしましょう。
まるで歯科検診でもするかのように空いた口の中にドクをシュウウウウウウウウウウウウウ!
はい、これで工事完了です。シャドウバード討伐にかかった時間は三十秒でした。頑張ればもっと詰められたと思いますので、これから一秒に集中してやっていこうと思います。
そして。
ぽん、と。
ポリゴンと化したシャドウバードの跡地に残ったアイテムが。
期待に満ちた目をそこに向けてみると、いかにも「それっぽい」骨があった。
「おぉ……これが噂の」
拾い上げてみると、結構軽かった。大きさとしては俺の前腕くらい。
まぁ骨だから軽いのかな。それにしたって軽すぎるような気もするけど。カルシウム取ってるぅ?
ジロジロ観察してみるけれども骨以外に情報を得ることは出来なかった。
ホログラムウィンドウで説明を見てみても、【竜骨】シャドウバードから手に入れられる。しか書いてないもん。
「とりあえずこれで一個目かー。あと九個集めないといけないの嫌だな」
どっかに筋肉鳥の巣でもあれば良いんだけど。
そうそう都合のいいことは起きないか。あいつが毒耐性を持っていなかったおかげですぐに倒せるのだから、これ以上を求めたらバチが当たっちまうよ。
よいしょ、と立ち上がって伸びをする。
ゲーム内だから関節がなったりはしないが、不思議と身体が軽くなったような気もする。
ドクは楽しげにシャドウバードがいた場所でぴょんぴょんと跳ねていた。早く次の獲物をよこせという催促にも見えて、俺の背筋が凍る。
ドクさん、あなたそんなキャラでしたっけ?
首を捻るも、前ダンジョンで苔を食いまくってたときとかも楽しそうだったと思い至る。
ペットは飼い主に似ると言うけど、どうして彼はこんなふうになってしまったのだろう。もしもその言葉が本当だとしたら、飼い主である俺が戦闘狂とかモンスターをいじめて楽しむようなヤバいやつになるんだが。
きっと生まれ持ったものなのだろうね。
再び歩き出して鳥を探す。
見渡す限りに敵影はないが、多分すぐ見つかるだろ!
◇
「おぉ、おかえり」
「…………ただ、いまです」
ぜぇはぁぜぇはぁ。
扉に体重を乗せながら、俺は肩を上下させていた。
額から流れ落ちる汗がうざったい。ドクもそれを嫌ってか、普段はローブの中にいるのに現在は離れてクローフィのもとにいる。NTRか……脳が破壊されちゃう……!
さて、結局あの後。
鳥は見つかったものの数が多かった。どれくらい多かったかと言うと雨が降った後のミミズくらい多かった。一体どこから出てきやがったと舌打ちを付きそうになったが、考えてみると逆にチャンスとも言える。こんなにいっぱいいるのだから、全て倒せば試練クリアできるっしょ! と。
その時は、そんなふうに軽く考えていた。
しかし問題発生。どうすればあいつらを各個撃破できるのか、というものだ。
いくら毒耐性がないと言ったってあの数だ。一気に来られたら流石に対応できない。というか一人では一体相手でも殺される。
ならば一体一体倒していこう、と方針を立てたが、いかんせん奴ら離れようとしない。個の力が強い生き物は群れになりにくい気がするんだが、奴らはそれはもうべったりだ。
だから困った。どうすれば良いのかと。
で、そんなときに。
「きゅー!」
ドクが単騎で群れに突っ込んでいってしまった。おそらく我慢が出来なかったのだろう。この戦闘狂さんめっ! 滅ッッッッ、だぞ☆
「ドクさあああああああああああああああああああああああん!?」
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