吸血
昔はすごく近い距離感だったのに、今じゃ遠い。
友達みたいなやつだったのに、気がついたらもう近づけなくなってしまっていたんだ。
「……まぁ死に戻りのことなんだけどさ」
武闘会だったからね。死ぬわけにはいかないね。
ちょっと前まで死にまくっていたけど、最近じゃとんと負けていなかった。
だから調子に乗ってスライム相手に無双しようとしたら負けました。
これが即堕ちニコマってやつですか…………? 需要ないんだよなぁ。
以前は日差しを遮るアイテムがなくて苦しんでいたものだが、今はローブがあるから大丈夫。
落ち着いて死に戻りポイントから離れると、丁度空いていたベンチに腰を下ろした。
「ふー……」
負けた。
とてもすごく負けた。
どれくらい負けたかと言うと二体くらいしか巻き添えに出来なかった。
アイテムが不足していたのも原因だろう。
この恨み、如何にして晴らすべきか。
普通だったら何も考えずに挑戦して負けるところだが、頭のいい俺はそんなことしない。
勝てる戦いだけするのがマイブーム。卑怯だと罵られようとも構わない。勝てば官軍負ければ賊軍なのだァ! つまり勝てば何をしてもいいってことですよね。スポーツマンシップってなんすか?
しかし、錬金術師としてアイテムを創ろうにも素材が足りない。
かと言って素材を集めていたら新鮮な怒りが鮮度を落とす。そうなってしまえば復讐など無味無臭のつまらないものになってしまうのが目に見える。
であれば今この瞬間に復讐に走るしかないのだが……。
「あっ」
まだ試していないことがあった。
俺は急いでステータスを表示する。
そして目当てのところを見ると、やはり
【吸血】
種族変化してから一回も使ったことのないスキル。
いつか使おうと思っていが一回も使う機会のなかったアレだ。
吸血鬼的にはいちばん大事なように思えるが。俺は平和主義な吸血鬼なのだ。
さて、これを使ってみたらどうだろう。
多分字面的に回復系スキルではないだろうか。そうならば戦っている最中にHPを回復し、さらなるスライムを地獄送りに出来るのだが……。
「やってみるか」
よし、とやる気を一つ。
腿を打って立ち上がると、街の外を目指して歩き出した。
何処からか向けられる謎の視線には気が付かないままで。
◇
「五年ぶりだな……」
「きゅー」
別に時間など全く経過していないが、気分の問題で。
俺とスライムは風邪の吹きすさぶ草原にて応対していた。
負けるわけにはいかない。ちっぽけなプライドが「スライムを殺せ!」と叫んでいるのだ。
首置いてけ、なあ、スライムだ!! スライムだろう!? なあスライムだろうおまえ。
「行くぞ、我が宿敵よッ!!! 【吸血】ッ!」
「きゅーっ!?」
俺はスライムに向かって走り出した!
さて困った。
まるで使い方を知っているかのように叫んだが、【吸血】スキルの使い方など知らん。
というかスライムに血なんてあるの? プルプルしている身体には赤い液体は流れていないが……まぁ水色かもしれないけどね。
そんな不安とは裏腹に、身体は勝手に動く。
おそらくスキルを使うときのアシスト機能だろう。これがないと現実で「吾剣豪でござる」みたいなやつ以外はゲーム内で剣を振り回せないからな。
後少しでこちらに攻撃してくる、という気配を見せるスライムに、自然と腕が吸い付いていく。
ぴた。
少しひんやりとした体表に触れた後、ぼんやりと腕が暖かくなった。
「これが……【吸血】……?」
その、なんだろう。
吸血というよりかは……エナジードレインというか……。
はっきり言って吸血鬼らしくはないと思う。
いや、吸血鬼=首筋から血をちゅーちゅーマンは偏見だけどさ。
俺が何となく変な顔をしていると、急に異変が起こった。
『条件を満たしました。種族【吸血鬼】の本格化を開始します』
「ふぁっ!?」
周りに誰もいないと思ったら耳元でアナウンスバーン!!!
びっくりするわ。今回は致命傷で済んだけど、これからは気をつけないとな。
「……………………」
なーんて、現実逃避をしてみるが。
先程聞いた言葉はやけに耳に残り、嫌な予感が襲ってくる。
本格化。
本格化ねぇ。
ほーん、本格化…………。
「絶対厄ネタじゃん……」
どうして俺はいっつもこんな目に合うんですか?(純粋無垢な少年の目)
僕なんにも悪いことしてないと思うんですけど。ただスライム相手にストレス解消したり、ちょっと人には言えない方法で爆殺したり……どうして!!
と、まぁ。
とか油断していたところ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
「誰だよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
突如空から降ってきた等身大まっくろくろすけに襲われた。
勿論逃げた。
スピードが足りなくてとっ捕まった。くっ、殺せ! いや殺さないで(懇願)。
頑張って逃げる。
この感覚。
俺はじっとりとした汗をかきながら、まるで自分のような真っ黒な格好をした不審者と立ち向かう。
最近感じていた視線の持ち主は、こいつか。
武闘会とかそれよりも前とか、どっかから見られているような気がしていたんだ。
目の前に来てようやく理解した。
つまりこいつは、ずっと前から俺のことを観察していた――――――――――――ガチ恋厄介ストーカーということだな!?!??(混乱状態)
「馬鹿者。違うわ」
ふわっ、と。
俺の意思が介在することなく、首根っこを掴まれて身体が浮いた。
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