自己紹介
一応言っておくと、俺はコミュ障だ。
普段あまりにも高いコミュ力を発揮しているせいで、もしかしたら俺のことを陽キャだと思っている人がいるかもしれないからね。
ここで断っておく。
そして、陰キャである。
当然女子との会話など不慣れであり、初対面かつ異性の相手と十分くらい会話を持たせろなど言われようものなら、爆発四散して死ぬ。
それくらいには陰キャなのである。
それを踏まえて、今の状況を見ていこう。
俺の目の前にいるのは、緑髪の少女。
自明の理だが初対面である。
私に異性の知り合いがいるとでも? 少しはいるが片手で数えられるほどだ。
正面にぷかぷかと浮かんでいる彼女はそれに含まれない。
加えて、彼女はこちらとの対話を望んでいるようだ。
俺は望まないので帰ってもらっていいすか? 鎖国しましょうねー。
「………………」
「………………」
なんてこと言えたら、楽なんだろうなぁ。
言えないからコミュ障なんてやってるんですよ。熟練の陰キャ舐めないでもらえます?
彼女と出会ってから、約五分。
面白いものでも見るような感じでラインがにやにやしているのを尻目に、俺たちは向かい合っていた。
その間会話は一言もない。
どうやらこちらの性格を理解し、向こうから話し出すのは自重してくれているようだ。
気まずすぎるぜ。
このままずっと見つめあっていても何も変わらないので、何とか会話を切り出そうとするが、口が重い。
緑髪の少女は、「期待してます」みたいにキラキラした目でこちらを見てくる。
やめて、そんな目を向けられたら死んでしまう! 吸血鬼に日光を当てる、もしくはアンデッドに聖水をぶっかけるような行為だぞ、それは!
「……あ、あー、……えと、いい天気ですね?」
「……? えぇ、そうですね」
ひゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!
恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!
彼女は俺の言葉に不思議そうに空を見上げたあと、優しく微笑んだ。
やめてくれ、その優しさが致命傷になる。
そもそも「いい天気ですね」とか夜に言うことじゃねぇだろ。
クソ、ここらへんの間合いがわかっていないあたり、ホント生粋のコミュ障であること自覚してしまう。
「あっ、その……お、お名前は……?」
「ないです」
「ない」
「はい」
「な、なるほど」
なるほど、ないと来たか。
これは斬新な返しですね? 解説のポチさん。
えぇ、そうですね。今ポチ選手が繰り出したのは「相手の名前を尋ねる」という初対面のときだけ使える会話デッキの技です。しかしそれに対して斜め横の返答をすることで、こちらの反応を見ようというのでしょう。
策士ということですね。
そういうことですね。
「あ、あー…………俺……僕の名前はポチといいます」
「存じております」
「あっ、そっすか」
「いい名前ですよね」
「そ、そっすか?」
えへへ。
「えと、その……失礼なんですが、……その、種族的な……あのー、奴を、教えていただいても?」
「精霊です」
「精霊」
「はい」
「それは、えと、その……あれですか」
俺は震える手で、湖から生える木を指差す。
「そうなりますね」
彼女は……精霊の木の精霊らしい。
なるほど。
ほぉ。つまり。
――散々俺がボコボコにしていた相手ということですか!?
土下座とは、日本人が多くの時間をかけて完成させた究極の謝罪である。
その威力は凄まじく、公衆の面前でかませば相手の方が「頭を上げてくれ」と言ってしまうほどだ。
いや、中にはそれを見てニヤニヤする奴とかいるかもしれないけどさ。
一般論として。
さて、今俺の前にいるのは精霊さんである。
名前はまだない。
彼女に対しては、彼女の生み出したであろう眷族的な奴を爆発させたり、燃やしたり、毒を流し込んだりと、少しだけお茶目な悪戯をしてしまった。
こちらとしてはモンスターが相手なのだから何も思う必要はないはずだが、いかんせん意思疎通が可能となってくると話は別。
正直目の前の彼女が怖くて仕方ない。
MK5(マジでキレる五秒前)ではないのか? 俺は訝しんだ。
それなので、俺は怒られる前に土下座を繰り出すことで、その感情を消してしまおうという策士プレイをしようとしていた。
さり気なく膝を曲げ、流れるように土下座に移行しようとしていると。
「あ、私怒ってないですよ?」
「!?」
「いや別に心を読んだとかじゃなくて。土下座しようとしてたら誰だってわかりますよね」
なんと先に土下座を潰されてしまった。
クソ、それじゃあ彼女の怒りをなくせないじゃないか――なんだって?
怒っていない?
マジで? 自分で言うのも何だけど結構なことやってたぞ。
それなのに怒っていないとか、女神か何かじゃないのか?
というか、俺の体さばきは多分それなりだ。
それを利用して土下座をしようとしていたのに、まさか事前動作だけで見破られるとは。
まだまだ修行が足りないな。
そんなことを考えていることがバレたのか、彼女は苦笑した。
「まぁ……あなた達の修行につきあわされていたら、嫌でもそういうところは鍛えられますよ」
「…………?」
修行。
はて、俺は彼女と戦ったことなどないはずだが。
それに『あなた達』とは……?
「ポチ、そいつはあの木の精霊だから、私達の修行を常に見てるんだ」
「見てるというか見させられているというか。それどころか参加させられているというか。戦ってるのは私じゃないですけどね」
つまりどういうことだってばよ。
ラインが説明してくれたが、あまり良くわからなかった。
うーん、こういうことだろうか。
【精霊さん、モンスターを召喚する】→【俺が戦う】→【何らかの方法で経験値的な奴を精霊さんが得る】
「あぁ、あの子は私の分身みたいなもので……倒されると、私のところに戻ってくるんです」
そう言って、彼女は木人間を指差した。
ふむ、あれは精霊さんの分身だったのか。じゃあ成長したら精霊さんみたいになるのかな。
…………うん? ということは、木人間は木人間ちゃんということで、今までの修行を思い返してみると。
――それってリョナ……ってコト!?
俺は自分が気づかないうちに、ものすごいプレイをしてしまっていたことに目眩を覚え、そのまま地面に大の字に倒れ込んだ。
……これ、ゲームにとんでもない称号つけられたりしないよな。【嗜虐趣味】とか。
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