唯一の味方
クローフィのこんな顔初めてみた。
俺は若干の驚きを動きに出さないように全力で意識しつつ(コミュ症陰キャは自分が何を考えているのか相手にバレるのが嫌)、疑問を呈するべく首を傾げた。
「……妾は、いつか死ぬ運命を背負っているのじゃ」
「……?」
「分からんと言いたそうな様子じゃなあ。どれ、説明してやろう」
疲れたような雰囲気を醸し出し、一体何処から出したのか立派な椅子に座るクローフィ。
ついでとばかりに出された机には数え切れないほどの目玉がついており、死ぬほど禍々しい。え、それ座って大丈夫なやつなんですか?
当然コミュ障にそんな事を聞く勇気はなく、朗々と紡ぎ出される彼女の話を聞く。
クローフィが生まれ落ちた時、彼女は自身が唯一の存在であることを認識したという。それは天上天下唯我独尊的な意味ではなく、吸血鬼という唯一の種族であるかららしい。
また、彼女には自分とよく似た性質を相手に付与する能力もあった。本来ならばクローフィ……つまり吸血鬼の真祖(この言い方もおかしいが)以外を吸血鬼と呼称することは間違っているのだが、その能力を使って吸血鬼を増やしていく。遥か昔には吸血鬼のみの国もあったとか。
そうして彼女は眷属を増やしていったが、ある時人間の『勇者』と呼ばれる存在が襲ってきたそうな。
まぁ吸血鬼は性質上人間を襲って血を吸ったりするから、彼らにとっては傍迷惑だろうなぁ。そんな感じで勇者に国を滅ぼされ、クローフィは何とか逃げ延びる。
しかし『勇者』が死んでから再び国を作っても、またもや『勇者』と呼ばれる存在が生まれ、何度も何度も滅ぼされた。
やがてクローフィは直接勇者と戦い、そのときに呪いをかけられた。
『お前がいくら強かろうと……殺された人達の恨みを俺は忘れない! 幾星霜の時が流れ、お前の悪意を抑えられるものが居なくなっても……決して、逃さないぞ! いつか必ず倒す! それが俺達勇者の
「………………奴らは、本当に厄介なものでなぁ。妾がちょっと眷属を増やしただけで、ヴァンパイハンターなどという訳の分からんものを作ったのじゃ」
「それで、あっ、えっと……吸血鬼は、どんどん…………減って、いる?」
「その通り。そして初めはそんな言葉など信じておらんかったのじゃ。そりゃそうじゃ、か弱き人間の言葉になど、力が宿っているはずないのだから。……が、実際に人間は妾を何度も追い詰めた。時には泥水を啜って生きながらえたことすらある」
……重い。
重すぎるよぉ!!!!!! 結構な重要NPCだからって、軽率に過去を重くする必要はないだろうが!!
しかも見てくれ、クローフィは相当疲れているのか、連続デスマーチを経験している新入社畜みたいな、濁りに濁った目をしていた。本当に嫌そうだ。
「もう、妾も疲れてなぁ……そろそろ抵抗するのをやめようかと思っているのじゃ」
「えっ、いや」
「ポチに分かるか? 寝るときに現れるような羽虫が、何度潰しても復活し……何度も何度も何度も何度も、妾を倒そうと向かってくるのじゃ」
あぁー………………それはキツイ。
夏場とか寝ようとしたときに限って虫が現れるものだが、そんな奴らが無限に湧き出てくるとなればどうだ。もうどうだって良いや、と思って諦めてしまうかもしれない。きっと今のクローフィもそんな気持ちなのだろう。
結局クローフィはその状態で、「ポチが立派な吸血鬼になる所が見られないのだけは残念じゃなあ」と言って何処かへ行ってしまった。
ゲーム的に考えれば、彼女は敵対NPCだ。だからプレイヤー達に狙われるのはしょうがないのかもしれないが……こうして何度も会話をしている俺にとっては、彼女を付け狙うプレイヤーこそ敵になってしまう。
しかし俺はコミュ症陰キャだ。彼女の話をして討伐をやめてくれるよう頼んだとしても、ろくに効果を発揮しないだろう。またはくだらない嘘を言って、場を混乱させようとしていると捉えられてもおかしくない。
「はぁ……」
ままならないものだ。俺にとっては自分のようなコミュ症と関わってくれるいい人だが、他の人にとってはアイテムを落とすかもしれないレアエネミー。
俺が守ろうとしても大して力もないモブだし、そもそもゲームでたった一人の力が、大局に影響するはずもない。
「掲示板でも見てみるか?」
確かプレイヤーが掲示板で噂になっているとか言っていたはずだ。
ため息を付きながら、ホログラムウィンドウを表示し、そこから掲示板へ飛ぶ。
『吸血鬼の真祖って何ドロップすると思う?』
『やっぱりレアアイテムっしょ。ほら、もしかしたら強力な武器の素材とか!』
『ユニークスキルとかも手に入るかもな』
『それは熱いwww ちょっと俺も真祖討伐隊に加わるわwww』
『ま、【勇者】も倒すのにやる気だからな。多分プレイヤーの三割くらいは参加するんじゃないか?』
『三割wwwwwwwwwwww』
『過去最高の参加人数じゃん。え、ラスボスかなんかのレイドバトルですか?』
「………………………………」
随分と面白そうだ。掲示板にはクローフィをクローフィとして認識している者は誰ひとりおらず、皆レイドボスだのアイテムをドロップするだけのモンスターとして扱っていた。
それが正しいのだろう。たかだかゲームのキャラクター一人、どうなったって気にすることもない。
だが。
「こんなに敵がいるんだったら……一人くらい、吸血鬼の味方が居ても良いよなぁ?」
俺は無理矢理口角を釣り上げて、萎縮する心臓に拳を叩きつけた。
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