紅茶狂い
何か、どっと疲れた。
学生の身には余る疲労を、全て込めてため息をつく。
目の前に
このゲームにまともなNPCは存在しないのか? 見た目ロリの実年齢が俺より上な師匠だったり、見た目ロリの吸血鬼のお嬢様だったり……。見た目ロリ多くね?
ブルハさんも見た目詐称だしさぁ! まともなのはおやっさんだけだよ!
何故か怖気を感じたので、これ以上考えるのはやめておくが。
サラ(何か敬称を付ける必要を感じなくなった)は紅茶を飲みながらにっこにこしている。
一体全体どういう思考回路を経たのか、どうやら俺は彼女の中で「イザベル様の準信者」扱いされているようだ。マジで何で?
訳の分からない長文羅列の最中に、さり気なく布教された気がするが、しっかり断ったよな?
それに対して反応もしていたはずだ。
どうして準信者になっているのか。こいつ紅茶飲みすぎて、頭侵されているんじゃないだろうな。
俺が今飲んでいる紅茶だが、これまたこの教会で育てた茶葉を使って作っているらしい。
しかも、メイドバイサラ。
何か恐ろしいもんでも混入されているんじゃないのか、とその話を聞いた時に思った。
神様パワー的なピリピリは感じるので、間違ってはいないんじゃないかな。
そして、せっかく茶葉があるんだから緑茶でも作ろうと考えて、少し貰おうとしたんだが。
僕「あのー、この教会でお茶っ葉作ってるんですよねぇ? だったらぁ、ちょっと貰っていいですかぁ? もちろん、クエストの報酬でぇ(仔猫のような愛くるしさ)」
サラ「良いですよ。でも、何に使うんですか?」
僕「緑茶でも作ろ――」
サラ「は? 何か言いましたか? 久しぶりに会話したせいで、耳が錆びついているのかもしれません。神聖なるイザベル様の茶葉を使って、おぞましい液体を作るなど仰っていませんよね? イザベル様は、こよなく紅茶を愛してらっしゃいました。それはもう、四六時中飲んでいるほどに。私は、それに感銘を受けたのです。イザベル様が飲むというならば、紅茶というのはこの世界で最も優れている飲み物であるということの証明なのです。そのように神に愛された飲料を作るためには、やはり神に愛された茶葉が必要でした。それを探し出すため、私は世界を探し回り、それに二年の歳月を費やして発見したのです。その後この教会を建設し、栽培を始め、はじめは知らなかった紅茶の作り方を、職人さんに師事して学びました。こうして出来上がったのが、この紅茶です。この話を聞いてなお、緑茶などというおぞましい液体を作ろうなどと思うのですか? そもそもここで育てている茶葉は、祝福のおかげで紅茶にしか加工出来ません」
僕「ヒェッ」
何だろう、あらゆるところに地雷埋めるのやめてもらっていいすか?
緑茶の話を出した途端に、目からハイライト先輩が退場して、口から怒涛のように噴出する紅茶に対する愛。というか行き過ぎた信仰心。
先程のやり取りに多少の脚色はあるが(俺がスラスラ喋っているなど)、 何とサラの発言には一切の手を加えておりません。オーガニックです。これほど意味のないオーガニックは存在しないだろうな。
錬金術を生かして、緑茶を作ろうとした結果がこれだよ。
クエストの内容を聞く前のウィットに富んだ会話で、何故ここまで疲れなくはいけないのか。
そもそも紅茶以外に加工できない茶葉ってなんだよ。それ本当に茶葉か?
俺は再び天井を見上げ、サラと今後付き合っていくことは可能なのだろうか、と本気で考えていた。
これからも赤ポーションを必要とするならば、この教会に足を運ぶ必要があるだろう。
しかし、ここへ訪れればこんなやり取りを交わすことになる。
そんなん俺の精神が持たんわ。自前で用意するか。
体感時間では三年ほど経過したような感じがするが、実際はサラと出会ってまだ三十分しか経っていないという狂気。
不思議と、ピリピリは更に弱まったような気がした。
「それで、クエストの内容なのですが……」
サラは、申し訳なさげに眉を下げる。
自分の都合に巻き込んで、クエストを受けさせたことに罪悪感を覚えているのだろう。俺はそれによって上質な薬草が得られるのだから、気にしなくても良いんだが。
まぁ、人が良いということか。なお、彼女の信仰する神様が関わった場合を除く。
「悪魔達によって、ここの教会が襲われているという話はしましたよね? まとめてしまえばそれだけで、その悪魔達を倒して欲しいのです」
真剣な表情で、頼み込んでくるシスター。
その悪魔達ってアルレー教徒だったりしない? なんてボケ(割と本気)をかませる空気ではない。
俺は彼女に合わせて、シリアスな空気を纏いだした。
それにしても、悪魔か。
教会に入ったときからピリピリしているから、おそらく俺も悪魔の中に含まれるのだろう。
そんな存在に悪魔討伐を頼むなど、大丈夫なのだろうか?
まぁ、俺としては欲しいものが手に入るし、悪魔なのに悪魔ハンターをするなんていう中二御用達のムーブが出来るから構わないんだが。
「悪魔というのは、存在するだけで悪なのです。なので、接近すれば私のような職業に就いていなくても、判別できると思います」
マジすか? 貴方の目の前に悪魔いますよ?
急に話が怪しくなってきたな、と半眼になる。全身を覆い隠すほどの真っ黒なローブと、顔が見えないほどの前髪のせいで見えていないだろうが。
「悪魔達の潜む場所は既に見当がついています。しかし、私は戦闘力が低くて……。出来れば、自分で立ち向かいたいんですけど。この教会を長い時間空にするわけにもいかず、申し訳ないのですがポチさんに頼んでいるのです。本当にすいません」
ぺこり、と。
彼女は、頭を下げた。
どうにも、こうして素直に頼まれると弱い。
人と関わりが薄いために、あまり頼み事をされる回数は少ないが、これでも小さい頃は結構色々していたのだ。お手伝いをしたり、買い物に行ったり、アンパンを買ってきたり、牛乳を買ってきたり…………物買いすぎじゃね? それと何かパシリっぽいし。
微笑ましいと思っていた記憶が怪しくなってきたので、慌ててそれ以上考えるのをやめた。
「………………」
黙って立ち上がると、サラはびっくりしたように目を向けてきた。
急に黒ローブの不審者に上から見下されたら、そりゃそうなるか。
俺は震える喉を整えて、何とか声を出そうと努力した。首のあたりにぷるぷるとした感触を覚えて、少しリラックス。
「それで、その、場所は?」
「…………っ」
頑張って言い切ることが出来た。
サラがぱあああああああああっ、と目を輝かせる。
だが、そんな表情をしないで欲しい。
悪魔に勝てるとは限らないし、俺はとても弱いのだから。
最近は修行の成果もあって、それなりに戦えては来ているが、スライムとの勝率も百ではない。
であれば、おそらくスライムなどよりも強いであろう悪魔に、勝てる保証はない。
が、この強さの原因であるDEXに極振りしていなかったら、この場所まで辿り着かなかったであろう。
もしも錬金術師にならなかったら、おやっさんのところに行かなかった。
そうなると、ブルハさんとも出会わず、この教会の存在を知ることすら無かった。
それを考えると、DEXに極振りしてよかったのかもしれない。
少なくとも、後悔はしていない。
ここで再び固く誓った。俺は、今後もDEXにステータスを振り続ける。
直接的な強さには繋がらないし、敵はどんどん強くなるけど。ここまで来たんだ、もう曲げられない。もしかしたら、この先もいい出会いがあるかもしれない。
STRとかに極振りしたほうが良かったのかもしれないが、もう迷わん。
一先ず、俺が間違っていないことを証明するためにも、悪魔共を殲滅しますか。
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