木こりと久々の死亡

 さて、どうしようか。

 クローフィの館の場所がバレたということを知ってから一時間が経過した。とりあえずトラップを設置してみたは良いものの、流石にこれだけでは心もとない。

 というかすぐに突破されるだろう。明らかに力不足だ。



「きゅー!」



 自分が全部なんとかしてやるぜ! みたいな雰囲気を醸し出して鳴いたドクに苦笑を向けつつ、俺は腰のひねりを利用して斧を木に叩き込んだ。

 STRは少ないものの、戦闘状態でなければこういったアイテムを使うことが出来る。だから柵を作ってプレイヤーを邪魔するために、木を切り倒そうとしているのだが……。



「面倒くさ」



 木こりムーブを始めて三十分。未だ作業は半分程度しか進んでいない。

 やはりゲームだからそういう職業に就いていないと、だいぶ効率が悪くなるのだろうかと考えて、もう爆発ポーションでゴリ押そうかと、危険なアイデアが頭をよぎる。

 木をゲットしたいなァ。ハァ……困ったなァ。まさかこんなに時間がかかるなんてェ……少しずつ作業は進んでるみたいだから急いで切り倒したいけど……もう疲れちゃって、全然動けなくてェ……。



 芸術は爆発だ!!!



「えいっ」



 軽い声とともに打ち出された一番、爆発ポーション。

 くるくると回って良いポジションを取りました。ですが少し危険な気も……?

 掛かっているのかもしれません。良識を取り戻せると良いのですが。

 あぁーっとここで爆発ポーション木に激突! 中の液体が晒されました!

 これは危ないですね。周りの木に引火する可能性もありますよ。



 投げてから火事の可能性に思い至った俺は焦ってドクに指示する。

 熟練のポケモンマスターのように洗練された指示は的確であり(自画自賛)、ドクはすかさず毒液を発射した。それによって火はすぐに小さくなって、火事は事前に防がれたのであった(マッチポンプ)。

 


「はぁ、これ全部自分でやるしかないのか……」



 錬金術を使って柵を作ろうとすれば、木材が結構な数必要であると表示される。

 当然木材なんて持っていないから集めるしかないのだが、集めるのがまた面倒くさい。

 いっそ柵を作らずにプレイヤー共に挑戦してみようかとも思ったが、それではあっという間に攻略されてクローフィの屋敷を攻め落とされるだろう。ゲームオーバー。



 チラチラと掲示板を確認しつつの作業。それによるとしばらくは攻勢がないようだから安心できるものの、ただ危機が先延ばしになっているというだけだ。枕を高くして寝たら寝違えるどころか首が吹き飛ぶ。

 俺が一騎当千の力を持っていれば、十重二十重のプレイヤーの軍勢に勇猛果敢に挑み、一気呵成の結果を叩き出すことが出来るのだが。実際は一気呵成に敗北。バナージ……悲しいね。



 気を取り直して木を取る作業に戻り(激ウマギャグ)、瞳を濁らせ思考を宇宙に飛ばす。これが極まった社畜の精神……! 



『木材を二十個入手しました』



 結局それから二十分ほど経ち、やっと木を打ち倒すことが出来た。

 疲れた。



「疲れた」



 疲れた。

 もうやりたくないね。もはや木こりノイローゼだよ。



「……そうだ、別に一人きりで戦う必要はないんじゃないか?」



 地面に大の字で寝そべって、自慢げに天で輝いている太陽に中指を立てていたとき、ふと思いついた。

 俺は今までクローフィを戦わせない……というか彼女の下まで訪れさせないために頑張っていた。しかし、別に自分一人で作業する必要はないのでは?

 誰か友達的なサムシングに救助を求めれば良いじゃないか……! なんて素晴らしいアイデアなんだ!

 なるほど完璧な作戦ッスね――っ。不可能だという点に目をつぶればよぉ〜〜〜。という声が心の底から聞こえてくる。まさか君は……もう一人の僕……!



 Qぼっちに誰かを頼るということは出来ますか?

 A無理です。



 糸冬 了



「はぁ……」



 大きすぎるため息を吐いてぼんやりと宙を見る。

 慣れ親しんできたぼっちぢからが悪い方向に影響するなんて考えもしなかった。

 まぁ良い方向に影響したことないけど。ウケる。



 バネのように身体を縮めて立ち上がる。微かな苛立ちを誤魔化すために首をひねって、さてどうするか、と最初の疑問に回帰した。

 理想と現実が乖離しすぎている。ここはいっそ俺がスーパーウルトラハイパーロマンチック陽キャに変身して、伝説のスーパーコミュ力を駆使して仲間を呼ぶしか……!



 ポチは仲間を呼んだ。しかし誰も来なかった。

 はいおしまい。解散解散。



「グルルルルルルルル……」



 そんなこんなで行き詰まってると、森の奥から唸り声が聞こえてきた。

 よだれが滴り落ちる音がする。飢えた獣と見た。



 じーっと木の陰を睨みつける。がさりと草を踏みしめる黒い脚が伸び、その正体を白日のもとに晒した。

 


「はっはーん、さては中ボス的な立ち位置のモンスターだな?」

「グルルルルルルルルッ!!」



 指を鳴らして人差し指を向けると、彼奴は大口を開けて滝のようなよだれを垂らした。もはやナイアガラ。

 点滴穿石と言うが、口の端からこぼれたそれは地面を少し溶かす。溶解性のよだれか。化け物かな?

 そしてなんと大きい身体だろうか。最初に見えた脚は一般的な大型犬くらいだったが、全容を見せれば五メートル位の化け物であった。上半身に対して下半身が貧弱過ぎる。



「丁度いい、ストレス解消に付き合えやゴラァ!!!」



 俺は勢いよく地面を蹴りつけ、相手に向かって飛び出した――!



 まぁ蚊を叩くように軽々と地面に叩きつけられ、一瞬でHPが全損したのだが。

 や、デスルーラ。久しいね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る