一日目終了
「夜が、明けて行く――」
俺は少しずつ明るくなっていく空を見上げながら、不思議な感情を抱いていた。
湖から生えていた木はもそもそと動き、ゴキブリもかくやという速度で引っ込んでいく。
もしやこいつ、木人間よりもステータス高いな?
アレを放って置くと、また同じ修行をしなければならないので燃やしてやろうかと爆発ポーションを持ち出したが、ラインの視線が怖かったのやめた。
もしもあのまま犯行に及んでいたら、きっと殺されていただろう。
「何なら私が相手してやる」とか言って。
地面に大の字になっている。
空が白くなってくるのと同時に、俺の顔も白くなる。
だって吸血鬼だもん。
朝とか……その、陽キャくらい苦手。
つまり下手すると死ぬレベルだ。
「おー、木は帰っちゃったか」
さっきまでどこかへ行っていたのか、ラインが首を回しながら帰ってきた。
彼女は何故か、馬鹿でかい尻尾らしきものを引きずっており、まるでナメクジの這ったあとのような溝ができていた。
えっ、ナニソレ。
「……どうした、そんなに物欲しそうに見つめて。安心しろ、これは私達の朝ごはんだ」
「……っ、……!」
「はっはっは、嬉しそうだな」
てめぇの目は節穴か!
どう見ても横に首振ってるだろうがよ!
その尻尾、見た目トカゲのあれじゃん。
切れてもしばらくビクンビクンしてるあれじゃん。
え、食べるの? それ。
朝ごはんで? 健康的でいいですね。ボクはいらないです。
ラインが嬉しそうに火の準備をしているのを見て、俺は逃亡することを決めた。
いくらゲームの中だからって、そんなゲテモノ食えるか! 俺は帰らせてもらう。
「どこ行くんだ?」
「どこにも……行か、ないです……」
そうしたらね、ラインにフード掴まれたよ。
逃げられん。どんな握力してやがるんだこの幼女。
一応これでも吸血鬼ぞ? STRゼロですけど。だから逃げられないんじゃん。
流石に旅慣れているのか、彼女は非常にスムーズに火を起こす。
俺も魔法使いの端くれなので火の一つでも言葉によって起こしたいものだが、いかんせん魔法を覚えていない。
使えるのはどんな用途があるのかわからない、対象を黒くするだけのモノ。
PVPのときにドクに付与して、自分の手の内を隠すという使い方をしたものの、今の所それ以外は思いつかない。というか新しい魔法手に入れられないのかな。
待ってるだけというのも暇なので、アイテムボックスから茶葉を取り出して紅茶をいれる。
あーあ、どこぞの狂信者のせいで、すっかり紅茶が好きになってしまった。
でも紅茶を嗜む吸血鬼はおしゃれなのでヨシ!
「……何かいい香りがすると思ったら、なんだそれ」
「え、あの、紅茶、です……」
「ふーん、それ結構良いやつだろ。前に貴族にもらった茶葉よりも質が良い」
マジで?
俺はまじまじとカップを見つめる。
あの狂信者、まさかそんなに栽培の腕が良かったなんて……。
好きこそものの上手なれ、やつか。
「さて、ポチ。食べながらでいいから聞いてくれ。武闘会の話なんだけどな……」
ものすごい良い匂いがする。
全体から油を滴らせ、火を激しくさせるその光景は、見ている者の食欲を刺激する。
もちろんそれは俺も例外ではなく、思わずつばを飲み込んでしまった。
二つの意味で。
「どうだ? 美味そうだろ?」
「……そ、そっすね」
なるほど、確かに美味しそうだ。
この肉の正体を知ってさえいなければ。
――トカゲなのよね、これ。
ラインの弁によると正確にはトカゲではないらしいが、同じようなものだ。
そして俺はトカゲ――恐竜みたいなものを食べる趣味はない。
それなのにも関わらず強制的に食欲を刺激してくるせいで、唾を飲み込んでしまう。
あと一つの理由は「えー、これ食うんか……」ってげんなりしてるから。
「いただきます…………」
もはや諦めの境地だよね。
多分この肉を口にするときの俺は、真理を悟った猫みたいな顔をしていたと思う。
ぱくっ。
もぐもぐ。
じゅわ〜。
「あっ美味しい」
「だろ?」
普通に美味しかった。
その反応を見てラインが得意げに笑う。
なんか悔しい。
「んで、武闘会なんだが」
曰く。
それは自分の実力に自信があるやつが参加できるもので、基本的に誰でもエントリーできるらしい。
そして武闘会は『強さ』ではなく『技術』を見るもので、特殊な魔法によってステータスを一定にするとか。つまり俺のステータスでもいい勝負が出来る……?
正直、絶対に勝てないと思ってた。
なんて言ったら怒られそうだから、言わないけど。
言えないけど。
わりぃ、やっぱ(コミュ障)つれぇわ……。
その武闘会は国中から参加者が集まり、優勝でもしようものなら絶大な名声を得られるとか。
え、それなのに俺に優勝しろと……?
あ、そうなんすね……がんばります……。
「大丈夫だ、お前は天才だよ。私の技術をこんなにも早く習得できるのはポチくらいしかいないさ。……ま、弟子を取ったのは初めてなんだけどな!」
萎縮している俺を見て、ラインが励ましてくる。
て、天才……? マジっすか……?(承認欲求モンスター)
かー、やっちゃいますか??
――優勝。
「でも調子に乗るなよ。参加者は皆勝つために努力してきてる。油断して勝てるほど甘っちょろいものじゃない」
「……はい」
――っぶねー、滅茶苦茶油断してたわー。
めったに人に褒められないから、すげぇ調子に乗ってたわー。
怖い怖い。
これがあまり人と関わらない者の末路か。
「きゅー!」
「あぁ……一緒に頑張ろうな」
ローブの中から顔を出して、やる気に満ちた声を上げるドク。
その反応に思わず笑みを浮かべ、俺は頭を撫でた。
「あー、その、悪いんだが……」
「?」
「そのスライムはポチのテイムモンスターだろ? 武闘会には参加できん」
「――――――」
「きゅー……(悲しげな声)」
マジでか。
バッチリドクと一緒に参加する気満々だったんですけど。
え? じゃあ俺一人で参加しなきゃいけないの?
武術とかやってる人って皆陽キャでしょ?(偏見)
その中に入らなきゃいけないんでしょ。無理だよ。
――あまり陰キャを
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