落ち着いてお茶を飲もう
二人組の美少女が、俺の近くで気の抜けるような会話をしている。
ゲームなのだから、自分の好きなようにキャラメイクできるとはいえ、やはり見た目が整っている人が相手だと緊張してしまう。
何だか彼女達の話が終わりそうにないので、サラから貰った茶葉を使って、紅茶を作ることにした。
このゲームの中の紅茶は淹れるのがとても簡単で、茶葉と入れ物さえ用意すればボタン一つで完成する。
色々貰って悪かったなー、と思いつつ、凄いおしゃれなティーカップに紅茶を出現させた。
モクモクと立ち上がる湯気。鼻に抜けていくいい香り。
火傷にだけは気を付けて、慎重にそれを啜った。もしも状態異常【火傷】になってしまったら、スリップダメージで死んでしまうかもしれないからな。まぁ、街の中は安全地帯だからダメージを喰らわないんだが。
ラインとの修行のとき、明らかにスライムの攻撃よりも強力なものを与えられて、HPが全損しなかったのが証拠だ。
…………うーん、美味しいけど、サラが淹れたものよりはどことなく劣る気がする。
紅茶に詳しい訳ではないが、何か香りというか味というか……よく分からないが、彼女のもののほうが美味しかった。やはり職人に弟子入りしたとかいう狂ったエピソードを持っている奴は違うな。
そもそも、システム的に普通に紅茶を作ることが出来るのだ。それにはおそらく、【料理】スキルだとかそういうのが補正としてかかるのだろう。DEXって関係あるかな?
「だから、私はPKされたことなんて気にしてないって! ほら、この人だって今の状況に困って――紅茶飲んでる!?」
「いい香り」
「確かに! ……って、そうじゃないでしょ! どうしてこの状況でお茶を飲んでいるかについて話すべきだよ」
おや、どうやら彼女達の話は終わったようだ。
勝手に紅茶を飲みだすなんて、非常識だったかな。
多分、今の俺だったらドラゴンの前だろうと落ち着いてお茶飲めるぜ。……いや、落ち着いては無理かな。ガクブルしながら、お茶啜ってると思う。それ滅茶苦茶こぼしてるだろ。
何故かアヤネと呼ばれた方のプレイヤーが叫んでいるが、何かあったのだろうか。
後ろの方で結んだ茶髪をブンブンと振り回して、「私は納得していませんぜぃ」と主張している。
それに対してルナと呼ばれたピンク色の髪の子が、どうどうと落ち着かせていた。動物かな?
それにしても、対象的な二人である。
アヤネの方は茶髪のポニーテールで、活発な運動少女って感じ。
実際、表情がコロコロ変わるし。まぁ、運動少女が百面相なんて、俺の偏見なのだが。
ルナの方は、初めに目を吊り上げていたとは思えないほどの無表情っぷり。
いや、勘違いだったのか? 今見ていると、彼女が目を吊り上げるだなんて想像できない。それよりかは、自分が見間違えたと言われたほうがまだ納得できる。
再び話し出して彼女達を見て、いつまでここに立っていれば良いんだろう、と憂鬱になった。
ねぇ、貴方達が騒いでいるせいで、周りの人たちが物珍しそうにこちらを見ているんですけど。
陰キャコミュ障を舐めるな? 死ぬぞ。
そもそも、今の状況がよく理解出来ないのだが。
どうして俺は、美少女を二人も相手にして、お茶を振る舞っているのだろうか。
緊張して口が乾き、紅茶を啜って潤わせる。ちらりと前髪の隙間から彼女達の様子をうかがってみると、ティーカップ片手に談笑に興じていた。
「――だから、この人は殺すべき」
「待ってよ! どうしてそんな乱暴な結論に至っちゃうの!?」
「だって、この人はアヤネを殺した」
「うん」
「だから、報復として殺しても許される」
「許されないよ!?」
談笑なんて可愛いもんじゃねぇわ。
その会話のあまりの内容に、背中から脂汗がナイアガラの滝。
いやぁ、それにしても、サラに茶葉とともにいくつかティーカップを貰ったときは、こいつ、俺が誰かにお茶を振る舞うとでも? ぼっち舐めんなよ……なんて思っていたものだが、意外と早く振る舞う機会が来たなぁ。
俺は遠い目をしながら、あんまり美味しくない紅茶を啜る。
再び話しだした彼女達だったが、ルナと呼ばれた方のプレイヤーが、「私もお茶が飲みたい」なんて言い出したから提供したら、流れでアヤネの方にも渡すことになり。
立ちながら飲むのもあれだから座ろう、という雰囲気になり近くにあったベンチにてお茶会開かれり。
わーお、まとめてみたが全く理解出来ない。
ルナの方は、怒りを抱いているのか抱いていていないのかよく分からないな。
怒りの対象がお茶を飲んでいたら、自分にもよこせと要求したり。そのくせ、現在俺の処刑を主張している。てめぇ、今使ってるティーカップのは俺のだぞ。しかも茶葉もだ。サラに貰った大事なものだから、割らんといてね(穏便)。
内弁慶にすらなれないクソザコナメクジとは俺のことよ。
「もう、私のことはいいから!」
「それじゃあ納得できない。せめて、PVPくらいはさせて欲しい」
「えぇ…………まぁ、それだったらいいのかな……?」
えぇ……(困惑)。
どうして貴方が決めるんですか?(正論)
とは言っても、加害者である俺が文句など言えるはずもなく。
そもそもコミュ障だから発言すらできず。
どういうことなのか、気が付いたらルナとPVPをすることになっていた。
いや本当にどういうことなの……。
◇
PVP。
つまりはプレイヤー対プレイヤーのことで、このゲームに置いてはプレイヤー同士が承認することで、特別なフィールドに転送されて勝負ができるシステムのことだ。
観戦なども可能で、実際にアヤネがお茶を飲みながら楽しそうに野次を飛ばしている。
「ルナー! 頑張れー!」
それを右から左へ聞き流しつつ、正面へ向き合った。
そこに立つのは、もちろん桃髪の少女。
彼女は魔法使いっぽい服装――つまりはローブ。おそろいだね!(クソキモムーブ)――をして、使えなくなってしまった杖を片手に持っていた。
あぁ、懐かしいなぁ、杖。俺も前まで使ってたんだけどな。STRが足りなくなって、装備できなくなっちゃったんだよな。
ため息を付きそうになるが、戦闘が始まってしまったため、仕方なく構えた。
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