57 保湿剤のモニター

「さてどうしましょうか…買わないという選択肢はないけど、価格を決めておかないと買うこともできない」

「困ったね〜」


女性なら諦められるものではないだろうからな。

保湿剤を作った切っ掛けも、洗顔後の自分の肌があまりにもカサカサになったためでもあるし。

しかし今は依頼中で、さらに朝食もまだ取れていない状況。

あまり時間は掛けられない。


「よし!ではこうしましょう!」


マジックバッグから3本取り出して、女性陣に目の前に差し出す。


「お一人に1本ずつお渡ししますのでまず使ってください!」

「ダメよ!こんな大切なものタダでもらうわけいかないわ!」

「そうだよ!冒険者仲間でも、これはだめ!」


ちゃっかり者だと思っていたシエラさんからもダメ出しを食らってしまったが、私が伝えたいのはそうではない。


「タダじゃないですよ!この保湿剤が私以外の人にも効果があるか試して欲しいんです!」

「試す?」

「そうです!薬草を使用しているとはいえ、これは薬ではありません!万人に効くかわかりません。だから売る前に試して欲しいんです!」


モニターだと説明すれば、価格のことは考えなくていい。

それに実際問題売った後に効果がなかったり、何か欠点が見つかったら大変だ。

これならお互いメリットがあるでしょう!


「…そういうことならもらうわ」

「うんうん!それならもらうね!」

「首都に着くまでには感想まとめておくわ!」


保湿剤がもらえるとわかると女性陣はとても喜んだ。


「あとできれば、というかぜひというか、レシピを商業ギルドに登録して欲しいわ」

「それは必要ですね。商業ギルドで登録すれば販売価格の目安も教えてもらえるだろうし」


ちゃんと価格を確認しないと女性陣に追加を渡すことができなくなる。

ただ、少し懸念しているのが、今まで取り扱いのなかったこういった美容品がどんな扱いを受けるかだ。

ノベル定番の豪商や貴族の横槍が入らないかちょっと心配だ。


「ちなみにこういう美容品って高貴な方の騒ぎの火種になったりしませんよね?」

「「「あっ!?」」」


恐る恐る聞いてみると女性陣はそれがあった!と言わんばかりの声をあげた。

やっぱり美容品って火種になりそうなものなんですか。


「まずいわね。下手なところに出すと独占される恐れがあるわ」

「商業ギルドに行く前に後ろ盾作ってから持って行ったほうがいいかな?」

「…リサ、美容品って他にも何か作れたりする?」


他の美容品っていうと思いつかないけど、保湿剤の種類を増やすことはできる。

今渡したものは主に顔に使用しているが、全身用に使用できるものや逆に目元や唇用に特化したものを作ることもできる。


「それなら首都に着いてからでいいから準備してもらえない?それを持って後ろ盾をもぎ取ってくるわ!」


いつになく感情の起伏が激しくなっているリンダさんの言葉に納得して頷く。

面倒なことをお任せできるならありがたいです。

何か巻き込まれそうなら、商業ギルドにレシピは販売せず知り合いにだけ販売していけばいいし。

最悪、販売価格もなんならリンダさんに決めてもらってもいいしね。

その日は出発の時間も迫っていたので、急いで朝食を食べ、馬車に乗り込んだ。



その頃、食堂に取り残された男性陣はとりあえず朝食を食べることにした。

しかし朝食を食べた後も、女性陣が降りてくる気配がなく、待っている間なんとなく雑談が始まった。


「おじいさんはリサが心配じゃない?」

「いえ、大体何をされているか予想がつきますので」

「えっ?何してるんだあいつら?」

「女性にとっては死活問題でしょうから、詮索しないほうがいいですね」

「おっ?そうなのか?」


ラウルは言われた内容を理解しているようで理解できていなかった。

ただとりあえず詮索しないほうがいいとだけ認識した。

そんなラウルを横目にエイルは気になっていたことを思い切って聞いてみた。


「気になってはいたんだけど、リサって本当に村娘なの?どこかの豪商の娘とか貴族の隠し子とかじゃないよね?」


リサはなんでもないように言っていたが、普通の村娘が隣国で冒険者になるなんてまずないと思う。

その上あの身体能力だ。冒険者じゃなくても他に生きる方法は色々あると思うんだけどな。


「村娘だったことは間違いありませんよ。環境は最悪でしたが」

「そうなのか?苦労したんだな〜」

「そうなんだな」


何でも熟すから苦労とは無縁な印象を受けるが、シャロンが最初に言っていたように魔法の素質があるのに剣術から教えるというとんでもない遠回りの経験をしている。

最初はどこかの貴族の隠し子が俺たちに近づくために今回の依頼を受けたのかと思っていたが、リサの対応からそんなことはまったくないことがわかった。

そういう目的でないと分かれば、メンバーが打ち解けるのも早かった。

リサたちの非常識な振る舞いに突っ込むことが多すぎて警戒する暇がなかったともいうが。


「閉鎖的な環境だったので、こちらでは色々な人と触れ合って色々な経験を欲しいのですよ」

「そうか」


おじいさんはそう微笑んでお茶をすする。

いい話だと思うが、色々な人と色々な経験に俺たちは入っているのだろうか?

入っているとしたら、このおじいさんはどこまで俺たちの事を把握しているのだろう?


「私たちは依頼を全うするだけ。それだけですよ」


俺の心を読んだような言葉に思わず固まる。

偶然、偶然だよな?人の心が読めるとかじゃないよな?

自分に言い聞かせるように繰り返していると、おじいさんににっこり微笑まれた。

偶然!偶然であってくれ!そんな意味深な笑顔とかいらないから…


疑心暗鬼になりそうな心を落ち着かせ、女性陣が早く来ることを願った。

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