98 世界樹のお願い

「さて、着いたね」

「これが、世界樹…?」


大きな木であることは間違いないけど、イメージしていた巨木より小さいと感じる。

ラノベだと見上げても先端が見えないくらいの大きさとか書いてあるけど、この世界の世界樹はちょっと大木くらい。

でも葉が光っているからただの木じゃないと言うことはわかる。

木漏れ日とは違う淡い光がとても幻想的だ。


『いらっしゃい、待っていましたよ』

「お、お話できるのですか?」

『えぇ、意思がありますからね。世界樹のオンデルカと呼ばれています』


電話で会話しているような、ちょっと反響した声が響く。

話すたびに枝が動いてさらに葉がキラキラ光っている。

世界樹というのはやっぱり特別な存在なんだな。


『そしてリサ、お願いがあるのです』

「えっ?その、私にできることなら」


突然のお願いにとりあえず無難な返事を返す。

その前に私、自分の名前を伝えた覚えはないんですが、じいじにでも聞いたのかな。


『えぇ、私を運んでほしいのです』

「えっ?」


ハコブ、はこぶ、運ぶ?

ナニを?世界樹を?


「前提知識もなしにそんな頼みをすれば相手は困るでしょう。言えば素直に受け入れるエルフではないのですから」


べしッと叩くいい音がした方に目を向けると、世界樹を叩いているじいじがいた。

しかも珍しく顔が無表情だ。


「じ、じいじ!?」

「して欲しいことがあるならちゃんと一から説明しなさい」


世界樹ってエルフに崇拝されている大事な木なのに、じいじはお構いなしにベシっベシっ叩き続けている!

まるで世界樹に言い聞かせるように、絶え間なく叩いている。

ひぇぇ〜そんなことして不敬とか言われない?!


『ご、ごめんなさい』



あっじいじのほうが偉いんですね?

世界樹が子どものように謝罪する声を聞いて気づいた。

世界樹の恩人とかなんとか言っていたし、族長であるリアさんもその様子を眺めているだけで特に注意もしていない。

不敬とか言われなくて安心したけど、世界樹をしつけられるじいじって一体…


「えっと、大丈夫です。それより説明してもらえたほうがありがたいです」

『えぇ、もちろん!巫女の代替わりの時期に私は私を生みます。その生んだ個を運んで欲しいのです』

「…種を運ぶということですか?あとどこへ?」


世界樹の説明が独特過ぎて、多分こうかな?と思う事柄を復唱して確認する。

私は私を生みますとかよく考えても、ちょっとナニ言っているかわからないですね。


「リサ様、この木偶の坊では話が進まないので、私から説明いたしますね」


世界樹を木偶の坊呼ばわりするとは、じいじ本当に世界樹より強いな〜

結局じいじが説明することになったのだが、とてつもない衝撃だった。

世界樹はこの1本だけではないらしい。

世界中に世界樹はあり、でもそれらの意思はすべて繋がっているらしい。

そして一定の周期で新しい世界樹を生み、また世界中の色んなところに根を張るらしい。

だから世界樹にしたら自分を生むという表現になったとのことだ。


「その世界樹をどこかに植えればいいの?」

「いいえ、世界樹は自分で根を張るところを決めます。なので自分で根を張りたい場所を探すためリサ様と一緒に旅をしたいということです」


一緒に旅を…?

パックちゃんみたいに別の何かに擬態して歩き回るのかな?


「擬態と言えば擬態ですね。言うよりも見たほうが早いでしょう。ほら、出しなさい」

『は、はい。この個になります!』


世界樹がそう言うと、その根本からズボッという音とともに人影が現れた。


「んしょ!よろしくな〜」

「男の子?」


土を被ったまま元気に手を上げている男の子がそこにいた。

そのままにするわけにもいかず、頭や服についている土を払ってあげる。


「この子が世界樹?」

『そう、今までの世界樹の知識はありますから、人族に紛れることはできるでしょう』


そう言われてもう一度男の子を見るが、その姿は長い耳に金髪に碧眼のエルフの子どもだ。

思わず難しい顔をしてしまう。

このまま連れて行ったらすぐにでも誘拐されそうなんですけど…!

はっ!だから一緒に旅が必要ってこと?


「大丈夫ですよ。ほら、その姿だと一緒に旅に連れていけませんよ?」

「そっかぁ。エルフの里だからこの姿がいいかと思ったけど、リサと旅する格好にしておかないと混乱するかぁ」


また心を呼んだようなタイミングでじいじは世界樹に助言する。

世界樹の男の子は腕を組んで、う〜んと考えたかと思うと大きく頷いた。


「…これならどうだ?」


瞬きの合間に目の前の男の子がいた場所に、銀髪の碧眼の人族風の青年がいた。


「ってなんか美形がいるぅぅぅ!?」

「俺だよ俺!」

「わかる、わかるけど!」


しかもただの人族じゃなくてとっても美人な青年がいることに動揺してしまう。

いや、幻覚魔法とかならわかるんだけど、姿が変わったのはどうも幻覚魔法じゃないみたい。

魔力も同じだから同じ方だと理解はしているけど、幻覚魔法でないのになんで別の美形になっているんですか〜!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る