97 世界樹への道

そしてお祭り当日。

朝、突然のサプライズから始まった。

今日は晴れの日ということで、じいじが新しいドレスを準備していた。

いつものワンピース風の防具姿もいいが、折角の祭りなのでいつもより着飾りましょうと。

ミントグリーンのミニドレスに白や黄色の小さい花の刺繍が施してあってとても可愛い。

着替えた姿を見て、パックちゃんは白い花の髪飾りに形を変えてくれた。


「ドレスに合わせてくれたの?」

(コクコク)

「ありがとう!」

「それなら少し髪もまとめましょう」


じいじはそういうと、三つ編みを作るとそれを緩く巻き上げ、髪飾りになったパックちゃんをそっと耳上に飾った。

じいじって髪のアレンジもできるんだと驚いた。

この世界の人はどちらかというと男尊女卑で、髪結いや洋裁などは女性がすることで男性がすることは基本ない。

だけどじいじは知っている限り、武術・魔術・調薬・錬金・洋裁・料理など様々なことができる。

そして今回の髪結だ。

じいじにできないことってあるのかなと首を傾げたくなる。


「いいですね。いつも以上に可愛らしい姿になりましたよ」

「いつも以上なんて照れるな〜ありがとう、じいじ」


褒めてもらった姿でお祭りの日に参加できるということもあってか、とてもワクワクしている。

特別な日に特別な格好。

こんなにワクワクするのは今生で初めてではないだろうか。


「さあ行きましょう」

「はーい!」


まずはじいじと族長のリアさんと一緒に世界樹に会いに行くことになっている。

人族の一生を掛けてでも会えるか会えないかという貴重な体験なのだという。

ラノベとかでは大きな大木のイメージなんだけど、この世界の世界樹はどうだろうか。

葉とか枝とかも特殊な素材みたいだから、やっぱり特別な存在なんだろうし。

お話とかもできたりするのかな?

じいじに連れられて外へ出ると、白い衣装を着たリアさんが待っていた。


「あら〜素敵な姿になったわね?その髪飾りもリサに似合っているわよ」

「リアさんもきれいです!それは伝統的な衣装だったりするんですか?」


リアさんは上品に微笑むとその場でくるりと回って見せた。

そして左手で裾を上げ、右手を胸の前に掲げ軽く頭を下げた。

リアさんの衣装も相まってどこか厳かな空気が流れる。


「これがエルフの伝統的な挨拶ね。まあこの服を着るときくらいしかしないんだけど」


かしこまった雰囲気から一転、いつものリアさんの雰囲気に戻った。

その様子にリアさんはやっぱりエルフの族長なのだと思う。


「一応世界樹へ続く道に入るまではいつもよりかしこまった態度でよろしくね?世界樹は見かけの態度で不興を買うなんてことないだけどね〜」


困ったものだよと肩を下げるリアさんをみると、どこにでも偏見を持った輩がいるようだ。

族長であるリアさんが注意しても聞かないとか、自分をどれだけ偉いと思っているんだって話だよね。


「どこでも色々大変そうですね」

「数がいればそれだけ個性が出てくるからある意味仕方ないことではあるよ。とはいえリサは主神様の加護があるから、そんな連中も口出しはできないから」


主神様の加護があると偏見を持った輩が口出しできないとは?

意味が通じているようで通じていないので更に尋ねるとちょっと不思議な考え方だった。

エルフにとって神にも等しい世界樹。

その世界樹を生み出したのが主神様。

だからその主神様の加護を持っているリサは不可侵の存在だという。

説明されてもその独自の考え方は理解できなかった。

不可侵という扱いなら、そういうものと割り切って、関与しなければいいかな。


「なーに、ぶつくさ言ってきても無視すればいいさ。あんまり酷い言葉ならこっちで叩きのめしておくからね」

「お手柔らかにお願いします」

「ふふ、リサは優しいね」


リアさんはそういうが、どちらかというと面倒事に巻き込まれたくないから、手加減して欲しいのだ。

その場は良くても、後から「あの時の屈辱!」なんて言って逆恨みしてくるヤバいやつもいる。


穏やかなエルフにそんなやつはいないのかもしれないが、念のため警戒しておいて損はないはずとリサは考えた。

リサは悠長にそんな事を考えていたが、エルフにもいるのだ、そんな奴が。

族長のリアにぶつくさ言っている輩がいると言っている時点で、逆恨みしそうな奴がいることに気づいていなかった。


「さあさあ、行きますよ」


世界樹への挨拶をこれ以上遅れさせないためじいじが先へ促す。

遅れるわけにいかないことは分かっているため、じいじに案内されるまま足を進めていく。


「こんな道なかったよね?」

「お祭りの日だけ通ることのできる道だよ」


中央の南側は森であったはずが、里の入り口にあったような森のトンネルになっていた。

そこへ迷いのない足取りでそこに入っていく。


「ちなみに別の日にこの森に入っても世界樹には会えないよ。道はあくまでも見かけだけだ」


つまりこの森の道は転移魔法と同じ原理なのか。

だから別の日に南の森を探しても世界樹に会うことはできない。


「明日以降にエルフの子どもたちが探検する微笑ましい姿が見られるよ。あと、どこからか話を聞きつけた強欲な者たちが南の森に入っていくのは滑稽で面白いよ」


カラカラと本当に楽しそうに笑われているのですが、それは笑い事ではないと思います。

強欲な人が森に入ってきていいんでしょうか。


「大丈夫だよ。そういう輩は子どもたちの狩りの練習になるから」

「なるほど」


わざと強欲な人を里に入れて、子どもたちの修行に使っているんですね。

エルフは穏やかな性格ですが、森の中で生きている狩猟民族でもありますもんね。

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