99 世界樹(人の姿)

「人族の女は美形の男が好きなんじゃないのぉ?」

「一般的にはそうかもしれないけど、私は嫌。知らない男性は遠慮したい!さらにいえば美形すぎるというのもある!というかその姿って幻覚魔法じゃないんだよね?」

「違うよ〜しょうがないな〜もう一回見せてあげる」


青年はぷくーと頬を膨らませるとまた瞬きの間に先程のエルフの子どもの姿になった。

認めたくなくて否定していたけど、やっぱりさっきの青年があの男の子なんだね!

でもさっきの美形よりまだ可愛い男の子のほうが安心感がある。


「リサ様が余計混乱されるから、大人しくしていなさい」

「ぎゃっ!」


じいじが男の子に肩ポンをすると男の子は飛び上がるように驚く。

その様子が先程じいじに躾けられていた世界樹を彷彿とさせ、世界樹から生まれた世界樹なんだなと漠然と納得できた。

言葉にすると混乱しそうだから男の子のことは世界樹(人の姿)と思っておこう。


「世界樹は植物ですからそもそも身体の構造が違います。木の体を変形させているだけなので子どもでも大人の姿にもなれるのです」

「変形か〜だから幻覚魔法じゃないわけだ」

「それに雌雄もありませんから、老若男女どの姿にも変えられます」

「そうっ!男でも女でも子どもでも大人にでもなれるぞ!」


じいじから黙っていろと言われていたのに、横から口を出してきた世界樹(人の姿)はじいじにアイアンクローを受けることになった。

世界樹の知識があるはずなのに幼稚な感じなのはなんでだろう。

まあいいや、じいじと戯れている間に状況を整理しよう。


木で人の形に変形しているから色んな姿に変えられる。

だから種とか苗じゃないから人の姿で一緒に旅をして終の棲家を探すってことかな。

その場合いくつか確認しないといけないことがある。


「じいじ質問です!」

「どうぞ」


未だに世界樹(人の姿)はアイアンクローされているけど、気にせず質問することにした。

アイアンクローされている原因は世界樹(人の姿)にあるから。


「食事はするの?排泄は?」

「食事をします。栄養はすべて体に溜まるため排泄はしません」

「服装も変わったんだけど、あれも世界樹の一部ってこと?」

「そうです。木の繊維部分を服に見立てています。防御力も元が世界樹ですからほどほどありますよ」


なんと便利な体!

着替えとかもすぐできていいな!

改めて世界樹(人の姿)を見る。

さっきの美形の男性の姿には驚いたが、今のエルフの男の子の姿。

他のエルフの子で慣れたのでじっと観察できる。


「指定した姿に変えることできる?」

「うん?できるぜ!」


子どもの姿であれば話しやすいけど、このままではちょっと危ない。

少しでも安全に旅をするなら今の姿ではできない。

エルフの子どもってだけで誘拐されそうだし、さっきの男の人は美形は心臓が持たないから却下。

ならば残った選択肢は成人した人族の女性がいいかな。


「それでしたら、人族の成人前の女性、髪は短め、髪色目色は暗めにしなさい」

「おー」


心を読んだかのようなじいじの指示で一瞬で姿が変わる。

現れたその姿はボーイッシュなちょっと生意気な後輩という感じだ。


「でも、美形なのは変わらないのか〜」


どうやら造形の参考にしているのは美形のエルフの人たちのようだ。

だから、まあ仕方ないかもしれない。

どのみち誘拐されるときはされるということで。

じいじも頷いているので、これでいいでしょう。


「それなら一緒に旅ができると思う」

「リサ様がいいのであれば問題ありません」

「やったー!よろしくな!」


そういうことで旅に新たな仲間が加わった。


『リサ、ありがとう。根付くまで意識の統一はできないけど、他の世界樹に会えば意思疎通はできるから何かあれば相談して』

「はーい。けど何だかこの子と性格が違う気がするけど、意識は一緒なんだよね?」

「生まれてから間もないため、知識はあってもそれを自分の物にできていないのでしょう」

「そうなんだ。世界樹って不思議だね?」


前世から比べれば魔法や魔獣とか何やかんや不思議ではあるんだけど。

姿に合わせて口調も変わってるっぽいし。

種としては植物だからそういう生態だと思うしかないけどね。


「そう言えば名前は?世界樹でも名前はあるんだよね?」


さっき紹介してもらった時に世界樹にも名前があることを知った。

ということはこの子にもあるはずなので聞いてみる。


「名前は根を張る時に決まるから今はないんだ〜」

「そうなの?それは不便だね」

名前が決まるのが根付くときなんて、本当に世界樹は不思議な生態。

言い方的に根付いたら勝手に名付けられるっぽいし。

しかし今は名前がないという目前の問題に対応しなければならない。


「う〜ん、そうだな。あだ名、あだ名付けてよ!」

「私が?」

「うん!リサお姉ちゃんにつけてもらいたいな!」


にぱっと笑う姿はとても可愛く、そんな子からお姉ちゃん呼びされると悪い気がしない。

早くも絆されそう。


しかしあだ名とはいえ、名前か。

この先の事を考えたら男女どちらでも良さそうな名前が良さそうだ。

なのでその時浮かんだ名前を呟く。


「クリス…はどうかな?」

「クリス!うん!僕のことはクリスって呼んでね!」


どうやら気に入ってくれたようだ。

じいじや族長のリアさんにも呼んでと強請っている。

あまり深く考えず口に出してしまったけど本人が納得しているならいいよね。

こうして世界樹との対面を果たしたのだった。

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ギリギリ遅刻してしまいました。次は遅刻しないように頑張ります!

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