100 主神の名前

「クリス、クリス、僕の名前はクリス〜」


クリスはあだ名ではあるが名前をもらえたことが嬉しいらしく、エルフの里へ帰る道では自分の名前を連呼して歌っている。


「名前が嬉しいのでしょう」

「そういうものなんだね?」


世界樹は根付いたら名前がもらえるようだから、一種の成人式みたいなものかもしれない。

あだ名ではあるけど先に名前をもらえて、ちょっと大人な気分だと考えるとクリスが上機嫌なのもわかる。

1人前に認められた気がするんだよね。

前世では一応成人式を迎えていたから、なんとなくその気持はわかる。

この世界は一応15歳で成人となっているけど、平民は特に祝い事なんてしないから大人への階段が曖昧だ。

働いて食べれるようになったら1人前って感じなくらい。


「今はクリスだけど、本来は根付くときに名前が決まるんだよね?」

「そうそう!根付くときに主神様から賜るって聞いているよ!」


主神様…あのドジな神様かぁ。

神様なのにちょっとおっちょこちょいというか、間が悪いというか。

前世ではリサを巻き込み事故に合わせ、今世では記憶を思い出すまでに時間がかかり、自国の暴君から逃げられなかった。

じいじがいなかったら本当に死んでいたよね!


「リサは主神様のこと嫌いっぽい?」


クリスが心配そうに覗き込んできた。

どうやら色々思い出していたら眉間にシワが寄っていたらしい。

慌てて首を横に振って否定する。

嫌いではないけど、できれば関わりたくないな〜と思っているだけだから。

関わったらまた何かに巻き込まれそうな気がするからね。

と考えていたら急に疑問に思った。


「そう言えば、主神様には名前ってないの?」


世界樹それぞれにも名前があるくらいなのに、主神様の名前を聞いたことがないと思う。

前世だったら色んな国・時代でそれぞれの神様の名前があった。

この世界の主神様の名前がないなんてことあるのかな?


「名前はあるらしいのですが、公にはされていないですね」


やっぱり名前はあるんだ!

でもなんで公にされていないんだろう?

知らない間に神様と同じ名前になったりしない?


「勝手に名付けられないように制約はされているようです」

「そこまでするのになんで公にされていないの?」


勝手に制約するくらいなら公にしてからしたほうが影響が少ないんじゃないの?

やっぱりあの神様っておっちょこちょいなの?


「その昔、名前の発音が違うのでお互いを異教徒と思い、異教徒狩りが行われたそうです」

「発音が違うってことあったの?」

「えぇ、とても昔、言語ができ始めた頃の話らしいです。発音が違うだけでどちらも同じ主神を崇めていたのに、無益な殺生が多く発生したそうです」


言語の違いで争いが起こるなんて悲劇だもんね。

…シリアスな話なんだろうけど、ちょっとツッコミたいところがちらほら。

あのおっちょこちょいな神様のことだからとよく考えずに場当たり的に対応したとかじゃないよね?


「そういう理由があったので公にしていないのです。まあ、もう少し違う手があるのではとツッコミたくなるのは当然です」

「じいじでもツッコミたいことあるんだ」


いつもはツッコまれる方のじいじがツッコミたくなるとは!

場当たり的な対応が神様のデフォルトって訳じゃないよね…。

神様のこと知れば知るほど敬えなくなりそう。


「天変地異ほどの壮大なことが起きない限り神は干渉できませんから、そんな対応を目の当たりにする機会は少ないでしょう」

「さっき聞いた無益な殺生でも干渉したんじゃなかったんだっけ?」


名前を言えなくしたのも立派な干渉じゃないのかな?


「その争いで大陸がなくなりかけましたから、天変地異に等しいということです」

「はっ?」


大陸がなくなる争いってどんだけ大規模な戦争を起こしたの?!

人類だけじゃなく動植物や魔獣も全部滅びる状況じゃないですか!

やめて!楽しいスローライフを過ごしたいのでそんな機会が来ないことを切に願いますよ!


そんな話をしている間にエルフの里へと帰ってきた。

世界樹との顔合わせという大仕事も終わったことだし、後はエルフの祭りを楽しむため見て回ることになった。


いつもはエルフしか見かけないのに、今日は色んな種族で賑わっている。

昼過ぎということもあって食べ物を出している屋台もあるようだ。

その戦略に乗って屋台で昼食を取ることになった。


「美味しい!知識では知っていたけど、こんなに美味しいものなんだねー!!」


初めて味わう美味しさに、クリスは頬を押さえて叫んでいる。

そうだね、知っていると体験するには大きな違いがあるよね!

初めての食欲に抗えなかったのか、クリスは次から次へと屋台の食べ歩きをしていく。


「これがお肉!油が口いっぱいに溢れてくる!」

「こっちは甘い!これが飴っていうお菓子なんだね!」

「しょっぱい!これが塩味!塩と野菜だけなのになんでこんなに美味しいのー!」


何を食べても感動して大きな声をあげるクリスを周りの人たちは微笑ましげに見ている。

クリスの姿を成人前の女の子にしておいて良かったよ。

これが美形の男性だったら嫉妬から喧嘩を売ってくるような奴がいたかもしれない。


クリスが食べている傍ら、食べ物以外の屋台も見回った。

エルフの工芸品を中心に、他の種族の屋台もあり、中には何に使うかわからないものもあるが、それを見回っているだけでも楽しい。

途中私が出しているチーズドッグの屋台の様子も見たが結構な行列だったので、遠目から会釈するに留めた。


しかし、ちょっと不思議なこともある。

顔見知りの屋台もいるので挨拶しながら見て周っているのだが、クリスのことについて誰も質問してこない。

世界樹に会いに行ってから1人増えているのに、里に住んでいる人からは疑問に思われていないようだ。

もしかしたらエルフには世界樹の見分けが着いたりすんだろうか?

世界樹を敬っているっていうし、遺伝子レベルで世界樹を見分けるスキルが備わっていても不思議じゃないかも。

騒ぎにならないならいいんだけど、やっぱりこの世界は不思議なことだらけだな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

記念すべき100話!続けられていることにびっくりです!

ちなみに、じいじの名前は出てきていませんが主神様ではないです。念のため。

どうにか更新が間に合って良かった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る