101 体験
お祭りを堪能した翌日、早速旅に出たいところだったが、一旦見送ることにした。
問題はもちろん、クリスだ。
昨日の屋台での行動で明らかになったことだが、クリスは知識はあっても体験というものをしたことがない状態なのだ。
それは食べ物に限らず生活全てにおいてのことだった。
族長の家に泊まることになったのだが、そこで浴びたシャワーにも大興奮。
シャワーに入るのは汚れを落とすためという認識はあるのだが、実際入ってみると植物の習慣なのかすべて吸収してしまったのだ。
今回は族長の家だったから問題ないのだが、同じ様なことが起きたら絶対に怪しまれる。
ということで、滞在を延長してクリスに色んな体験をさせることになった。
「今日の朝ごはんも美味しかった〜」
「食事に関しては慣れてきたようですね」
「ご飯を食べる度に叫ばれるのは困るもんね、慣れてきてくれて良かったよ」
ご飯にも毎回味を変える工夫をして、甘み・辛味・渋みなど色々味に慣れてもらった。
そして今日体験するのは旅をする上で必須の戦闘訓練!
魔獣はもちろん盗賊やドラゴンとも出会ったことがある経験上、必須と言わざる得ない!
「魔獣との訓練はダンジョンで行うことができるでしょうから、先に対人訓練から行いましょう」
「対戦するのはじいじ?」
「えっおじい様が相手するの?!」
クリスはすごくびっくりしているが、じいじが一番上手に手加減してくれると思うよ。
戦闘の知識はあるようなので、1回対戦すればすぐ身体が覚えて動けるようになるらしい。
1回で済むならじいじは最適な対戦相手だ。
1回で大体の動きを覚えられるなんて知識チートだよね!
羨ましい限りだよ!
クリスは他の人がいいと言っていたけど、その希望は却下され、結局はじいじと対戦することになった。
これが終わらないと旅に出発できないので、覚悟を決めたクリスは涙目になりながら、弓を構えてじいじと対戦している。
最初はオドオドして、弓を放つ手もまごついていたけど、段々放つスピードも上がっていき、最後には4本まとめて放つこともできるようになっていた。
まあじいじはそのすべてを華麗に避けていたけど。
戦闘には問題がなかったけど、一部の問題があることもわかった。
「はぁーおじい様相手は疲れた〜もう戦いたくないよ〜」
「こんなことでバテていたら旅をするにも持ちませんよ」
「おじい様相手じゃないなら大丈夫だもん!」
ほっぺを膨らませてブーブー言っているクリスにじいじは呆れた表情を浮かべている。
世界樹に会ってからじいじの表情が豊かになっている気がするな。
世界樹のほうが長い付き合いなのはわかるけど、ちょっとだけ悔しい。
「大丈夫ですよ。リサ様の方がずっと大切ですからね」
「リサお姉ちゃんそんなこと思っていたの?僕もリサお姉ちゃんの方が大好きだよ〜」
じいじは微笑み、クリスは満面の笑みで抱きついてきた。
クリスが可愛く見えて、こちらから抱き返すとクリスもキャーキャー言いながら更に抱きしめてくる。
「仲が良いことはいいことですが、先に振り返りをしましょう?」
「え〜もう少しリサお姉ちゃんにくっついていてもいいじゃん!」
「旅に出ればいくらでもできますから、迅速にしましょう?」
じいじはクリスの頭を鷲掴みにして、リサから離れるように引っ張るが、クリスは離れるものかとリサにしがみつく。
じいじの力の入れ具合が強くなるほど、リサを締め付ける力が強くなっていくため、じいじは諦めてクリスから手を離した。
「リサ様から見て気になることはありませんでしたか?」
「うーん、最後の方は問題なく動けていたと思うけど、そう言えばクリスの弓矢ってどうなっているの?」
戦闘中はそんなに気にならなかったけど、今思い出すとクリスはどこからともなく弓矢を取り出して、弓を構えていた。
アイテムボックスかと思ったのだけど、なんとなく魔力の流れが違う気がする。
「あぁそれは世界樹から生み出した弓矢ですね。自身の魔力を瞬時に変換して生み出しています」
「魔力が続く限り出せるよ〜魔力で生成すれば回収も不要だしね!」
補充と回収が不要とか、弓矢の欠点がなくなるってことじゃん!
良いことだと思うけど、このままだと絶対に危ないと思って2人に説明する。
「矢筒がないことに気づかれたら絶対絡まれると思うんだ」
特に人族は魔力で矢を生成するなんてできないから、まずその弓矢が特別だと思って寄越せとか言ってきそう。
そしてそれがクリス自身の技術だと知ると、次はクリスを手に入れようとしてくる。
しかも次に行く場所はダンジョンだ。
有能なクリスをパーティーに入れようと絶対に絡んでくる!
「はぁ〜リサお姉ちゃんも色々苦労してきたんだね」
「クリス、他人事じゃないんだよ?クリスもその苦労ごとに巻き込まれるんだよ?!」
知識があるはずなのにクリスはのんびりとした感想を言っているが、もっと気を付けないと駄目だよ!
誘拐とか諸々起こってからじゃ遅いんだから!
熱弁してみるがクリスは実感がわかないようで首を傾げるだけだった。
エルフの子どもたちも私という教材を使ってまでビシバシ教えていたというのに、世界樹にはその記憶がないの!?
「とりあえず弓矢はそのまま背負って、ダミーの矢筒も準備しておきましょう。人目がつかない所であれば、先程の戦闘で問題ないでしょうから」
「そうだね!実際の戦闘を見せるわけじゃないから、とりあえず持っていますアピールしておけば絡まれる確率は低くなるかな?」
見かねたじいじが出した案で凌ぐことになった。
クリスは当事者だというのにニコニコして頷いている。
緊張感がまるでない。
弓矢のことがなくても今のクリスは美少女だし、知識はあっても経験が追いついていないから、目を離したらコロッと騙されてすぐ誘拐されてしまいそう。
常に側にいるように目を光らせておかないと!
「クリスは勝手にどこかに行かないように!何を言われても、もらっても知らない人について行かない!いいね!?」
「うん!リサお姉ちゃんから離れないよ!」
その元気な返事に若干の不安を感じながら、旅の準備を進めるのだった。
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