102 出立

「さて、忘れ物はないか?」

「はい!もらったものはすぐアイテムボックスに入れたので忘れ物はないと思います。でも本当にもらっていんでしょうか?」


旅に出る準備を始めると、お世話になった人たちから色々な餞別をもらった。

族長のリアさんと拡張魔法の先生であるリディさんからはそれぞれ弓矢と杖をもらった。

リアさんからもらった弓矢は魔法以外の長距離方法もあったほうがいいだろうと言われ、リディさんからもらった杖はいざという時に魔法を増幅させることのできる杖があった方がいいと言われ受け取る事になった。

もちろん両方とも世界樹を使用しているから、例え物理攻撃に使ったとしても問題ないと笑顔で言われたが、杖はともかく弓矢で殴るようなことが起きないといいな。


洋裁の先生であるノーラさんからは普段着に使えるワンピースから可愛い下着類、寝巻きに果ては寒さ対策にと防寒着までもらった。

もちろんクリスの分も。

どの洋服も世界樹とドラゴンの素材を混ぜてあるから防御力は抜群だ。

最初は遠慮していたが、寝込みを襲われるとも限らないし、ダンジョンの中には地形や気温が異なる階層もあるからと説得され受け取ることになった。


薬草栽培の先生であるリップさんから加工済みの薬草から、持っていない薬草の苗を大量にもらった。

そのためワーキングスペースを拡張して、ヒール草以外の薬草も育てることになった。

石化の異常を回復するためのレアな薬草まであった。

じいじもいるし異常回復魔法を使えば大丈夫と言ったがやっぱり説得されてしまった。


リップさん曰く、予想外のことはいつでも起きるから、何かあった時にすぐ使えるように下準備を怠らないようにすることが大事だと熱心に言われれば否定もしづらい。

最終的には育てすぎてもアイテムボックスに収納しておけばいいだけなので、こちらも受け取ることになった。


その他にもお守りや食料など色々渡されてしまい、少しの間途方に暮れた。

お世話になりっぱなしな上にこれ以上受け取るのもと思ったが、好意なのだから「甘んじて受け取りましょう」とじいじからも言われる始末。


「お礼ならまた来て旅の話をしてくれたほうが嬉しいよ」

「そうそう!ここは穏やかで過ごしやすいけど、その分刺激は少ないからね〜楽しみに待っているよ」

「…ありがとうございます!絶対にまた来ますから!」


お土産話をという言葉に前世の祖父母を思い出してしまう。

お盆とかお正月とか会いに行ってはお菓子やらお小遣いやらもらったな。

思い出し泣きしそうなのを堪えて、また会えると思って大きく手を振って笑顔でお別れを言う。

こんな風に名残惜しくなる別れは今生初めてだ。

本当にエルフの里はいい場所だった。


「じゃあダンジョンがあるヴェッレットに行こう!じいじお願いします!」


最初に訪れた森のトンネルの入り口に到着すると、じいじにお願いする。

するとあっという間に街道のすぐ側まで転移した。


「はあーさっすがおじい様!転移魔法を使えるなんて!」


初めて体験した転移魔法にクリスは大はしゃぎだ。

その気持ちはとてもわかる。

本当に夢のような魔法だもんね!


クリスも魔法は使えるが、転移魔法は使えないと聞いた。

何千年と受け継がれた知識を持つクリスが使えない転移魔法を使えるなんて、さすがじいじ!


「騒ぐのはそれくらいにして、早く行きましょう。クリスの身分証も作らないといけませんから」

「そうだね」


クリスは一応エルフの里発行の身分証もあるんだけど、人族の今の姿ではエルフの身分証は怪しまれてしまう。

ダンジョンのある街に行くことだし、冒険者ギルドでさっさと登録することに決めた。


「冒険者ギルド初めてだな〜聞いた話だと僕たちみたいな若い女の子とかだと、冒険者は女子供でもできるほど甘くないんだよ!とか難癖つけられるんでしょう!楽しみ!!」

「難癖つけられるの楽しみなの?!」


街に入るために並んでいた列でクリスがそんなことを言い出したから驚いた。

ほら、後ろに並んでいたおじさんにも聞こえたようで訝しげにこっちを見ているよ。


「それで難癖してきた冒険者を追い払うまでが鉄板なんでしょう!」

「うーん」


クリスの言うことも一理あって完全否定し辛い。

小物、ダンジョンの街に来たばかりの若い女2人に年配者1人なら、言いなりにできそうだと思われるかもしれないけど、ここはダンジョンの街だ。

そんな小物すぐにいなくなりそうだけど。

でも今までの経験上、そんな小物にすぐ当たることもあるかもしれない。

絶対と言い難いのが何ともな〜


「まあその時はその時です。その場合は冒険者ギルドの流儀に従いましょう」

「はーい!」


じいじの発言に、こちらを訝しげに見ていた後ろのおじさんが目を剥いたよ。

じいじは黙っていれば穏やかな紳士だし、まさか粗野な冒険者みたいな解決案が出てくるとは思っていなかったんだろう。


ヴェッレットの街は街中にダンジョンを抱えていることもあり、周りの外壁は今まで見た街のどれよりも分厚く、街全体を囲い込んでいる。

唯一の出入り口が今並んでいる門になる。


ダンジョンがあるためか、並んでいるのは冒険者か商人らしき人ばかり。

クリスの入場料を払って、じいじと私は冒険者のギルドカードを見せて街に入る。

そして門のすぐ近くにある冒険者ギルドに向かう。


冒険者が多いから先に宿とか確保しておきたいところだけど、どうせならその宿の情報も冒険者ギルドで聞いてしまう。

Cランクだし、お金はあるからちょっとお高い宿でも泊まれる。

むさ苦しい冒険者がひしめく宿には絶対泊まりたくないもんね!

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