103 冒険者登録

「こんにちは!冒険者登録に来ました!」

「…え?あ、はい。こんにちは」


冒険者ギルドに入るとクリスは一目散に受付嬢の元へ向かい元気よく挨拶をする。

恐らく今までそんな挨拶をされたことない受付嬢は戸惑いながらも挨拶を返してくれた。


「すみません。この子、とっても楽しみにしていたので。すみませんが登録の用紙をもらえますか?」


初めての冒険者ギルドでテンションが上がってしまうのはわかるんだけど、もう少し大人しくして欲しかった。

ダンジョンにある冒険者ギルドということもあって、中にいるのは冒険者は経験者ばかりのようなのだ。

そんな場所で初心者丸出しの挨拶をするクリスは目立つこと目立つこと。

同行する私たちも必然的に注目されてしまう。


「はい、登録ですね。皆さま全員登録でしょうか?」

「この子の分だけお願いします。私とじいじは既に登録しているので」

「はい、ではこちらに記入をお願いします」


既に登録していると言ったところで、こちらに向いていた視線がいくつか外れた。

全員が初心者で登録するようなら、クリスの言う定番が起きたかもしれないな。


「ねぇ?これどう書けばいい?」


クリスに言われて意識を用紙に向けて納得する。

内容は私が登録したときと同じく、名前や種族や出身地、特技などの項目が並んでいる。

名前はそのままでいいけど、その後の種族から正直に記入したら大事になる。


「代わりにに書くよ」

「お願いしまーす!」


こう言っておけばクリスが文字が書けない、もしくは苦手だから代筆したと思われるだろう。

種族は人族、出身地は近くのローウにしよう。

特技は弓矢にしておけばいいだろう。

ちゃんと弓矢も背負っているから疑われることはないでしょう。


「これでお願いします」

「はい、ありがとうございます。カードを作る間ギルドの規則を説明していますが、必要でしょうか?」


そう言って受付嬢はちらりとじいじを見た。

じいじから説明を受けているかもしれないから聞いているのだと思う。


「クリスは初めてだし一応聞いておこうかな?」

「あとダンジョン特有の規則もあれば一緒にお願いします」


クリスの初めての体験を奪うことはしたくないので説明をお願いすると、じいじからも補足が入った。

ダンジョン特有の規則は他の街では説明されないよね。

聞いておいて正解だ。


要約するとまあ常識的な内容だった。

まずダンジョン内部を独占してはいけない。

これはボス部屋も含むらしい。

当たり前のことなんだけど、ちゃんと規則にしておかないといけない事態があったんだろうなと推測する。


ただ狩り場を見つけた場合は除外するらしい。

その情報を共有するかどうかは冒険者に任せられているとのことだ。

できれば共有して欲しいけど、それを見つけた冒険者の利益を奪うわけにもいかないと受付嬢は嘆いていた。


あと他の冒険者の獲物をとらない。

窮地だと思っても助けを求められるまで手出しするのは禁止だという。

本当であれば助け合いを推奨したかったんだけど、それを理由に獲物を奪っただとか、助けたのに因縁をつけられただの問題が発生したので苦肉の策らしい。

冒険者ギルドも大変だ。


「以上になります。クリスちゃんはGランクですが、同行する人がいるのでダンジョンに入ることは可能です。このギルドの依頼はダンジョン内の採取・討伐が基本ですから基本Gランクの方は来られないのですが」


受付嬢がクリスの登録に戸惑った理由もわかった。

クリスは成人前の外見上、14歳ということにしたので未成年のGランクだ。

ダンジョンに入るにはFランク以上でないと駄目だからそのままではクリス1人でダンジョンに入ることはできない。

少なくともこのギルドに来る人はFランク以上だったのだろう。


他の街と同じようにGランクでも同行者がいればダンジョンに入れる。

クリスも私とじいじが一緒であればダンジョン内に入ることはできるし、ある程度の採取と討伐の実績を積んでいけばFランクにすぐ上がれるだろう。


「あと、この辺りで女性が安心して泊まれる宿ってどこになりますか?」

「安心して、ですか。少々お高くなるとは思いますが…」

「一応稼げているので、高くても大丈夫ですよ」


言いながら持っているCランクのギルドカードを見せた。

「あら!そういうことならいつくかご案内できます。空きがあるかは実際に確認していただく必要がありますけど」


Cランクのギルドカードを見せたことで安心したのか、受付嬢は快く3つの宿を紹介してくれた。

しかもそれぞれの場所と1泊あたりの目安料金も教えてくれるという至れり尽くせり。


「一応貼り出してある依頼を確認しましょう。採取にしろ討伐にしろ、依頼があるものを確認してとってきたほうがいいでしょう」

「そうしよう!」


クリスの修行の一貫でダンジョンに行くけど、お金もあって損はない。

じいじの言葉で依頼書を見に行く。

私とじいじはCランクだからBランクまで受けようと思えば受けられるので、Bランクの依頼にも目を通しておく。

ダンジョンであったら優先的に集めるようにしておこう。


「じいじ、ここの資料室の暗記はいいの?」

「よく気づきましたね。新しい冒険者ギルドに来たなら資料室は必ず見ましょうね」


港町リーンで冒険者登録したばかりの時に、修行のように暗記させられたことも思い出して確認するとじいじは嬉しそうに頷いた。

これ気づいていなかったらもしかしてヤバかった…?!


「今日は宿を優先にして資料室は明日にしましょう」


さっと依頼内容を確認して、その日はギルドを後にした。

いいお宿が空いているといいのだけど。

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