104 …どなた?

ギルドの受付嬢に案内された3軒の宿に向かう。

それぞれ空きと値段を確認しながら受付の対応を見ていく。

どうせ泊まるならコスパがいいところがいいからね!

受付嬢が紹介するだけあってどの宿も対応がいい。


「3軒見てまわったけど、どの宿に泊まる?」

「対応は1軒目が良かったかと。ギルドからも近いですし」

「2軒目はいい匂いしていたよ〜ご飯が美味しいと思う!」

「3軒目はダンジョンに近いのがいいよね。ダンジョンから帰ってきたらすぐ休めそう」


三者三様いいところがあるので、どの宿に泊まるか決めかねている。

運がいいことにどの宿も空きがあるということも、決めかねている理由の1つだ。


「その3軒でしたら、2軒目のご飯が美味しいところがおすすめですよ」

「…どなた?」


後ろからの声に振り向くと、これまた美形のエルフの男性が立っていた。

エルフの里でも見たことがないので顔見知りではないので思わず尋ねる。


「失礼しました、アードリアンです。リアンと呼んでください」

「はぁ」


アードリアンのリアンさん、やっぱりエルフの里でも聞いた事ない名前だ。

戸惑いながらとりあえず話を進めてみることにした。


「えっと、2軒目の宿がおすすめということですね?」

「はい!対応も悪くないですし、みなさんならダンジョンも余裕そうですから、多少ダンジョンに近くない宿でも大丈夫でしょうから。ご飯の美味しい2軒目がいいかと」

「はぁ」

「それに僕も泊まっていますからね!」


どうしよう。

初対面の私たちの力量わかっている上でのアドバイスみたいだけど、リアンさんが泊まっているからという理由がわからない。

僕も泊まっているから同じ宿に泊まりましょうなんて言われたら、普通なら変た、ゲフン。

不審者扱いして然るべきなんだろうけど。

でも不審者なら何かしら行動しているはずのじいじが今のところ何も動いていない。


「その言い方だと僕たち一緒に行動するっていう感じ?」



考え込んでいる間にクリスが何の躊躇もなく質問してしまった。


「えぇもちろんです!みなさまは初めてのダンジョンだとエアーディリア族長に聞きました。微力ながら力になれればと」


リ ア さ ん が 原 因 か!?


「リアの紹介なんだね〜エルフだから悪人じゃないと思ったけど、それなら安心だ!」

「おぉっと!その説明を忘れておりました!だからリサさんから疑いの目で見られていたわけですね!」


疑いの目で見られていることに気づいていたにも関わらず笑顔を崩さなかったの?!

マイペースに加えて精神が強すぎません?!


「改めましてアードリアンです。よろしくお願いします」

「よろしくね!」


疑われていたというのに、爽やかな笑顔で握手を求める精神、すごい。

里にいたエルフの人もマイペースな人が多かったけど、その中でもかなり独特な人のような気がする。

そしてクリスもそんなことを気にせず挨拶をする。

チートなじいじと無邪気なクリスと鋼の精神のリアンさんという、ちょっとどころかものすごい独特なパーティーになりそう。


「リサ様もその一員であることをお忘れなく」

「じいじ!私は普通だよ!」


私の返事にじいじはやれやれと首を横に振るんだけど、それには抗議したい!

経歴は独特だけど私の感性は常識的です!


「お話は終わりましたか?では宿にまず行きましょう!それから詳しいことを話しましょう」

「はーい」


やっぱり鋼の精神の持ち主だよねリアンさん!

そしてクリスは素直に返事をしているけど、普通だったらそんな不審者に素直についていかないよね?

リアンさんがエルフだからその対応なんだよね?

リア族長の名前が出てきたからそんなに警戒心がないだけだよね?

これから声を掛けられても勝手についていく事とかないと思いたいけど…。

これがフラグにならない事を祈るのみ。


リアンさんの提案の通り、2軒目のご飯が美味しい宿に泊まることになった。

どれくらいダンジョンに潜るかわからないけど、とりあえず10日間予約しておく。

途中で予定が変わったら返金もしてくれるそうだからその点は安心だ。


「明日からの予定を確認したいのですが、明日からダンジョンに潜りますか?」


宿の食堂スペースをお借りして早速今後の打ち合わせを行う。


「どうしようか?明日は資料室で暗記の予定だったよね?」

「ここのギルドの資料室はダンジョンと近隣の情報も含まれているので、すべて見るのは厳しいかもしれませんね」

「そうなんですか!」


確かに普通の冒険者ギルドなら近辺の情報とか大きな街の情報が資料室にあった。

ここはダンジョンがある冒険者ギルドだからダンジョンの情報も追加され、資料室の情報量も膨大なんだろう。

ピンポイントで欲しい情報をくれるなんてありがたい!

前みたいに全部の資料を暗記なんてなったら時間がどれだけあっても足りない気がする。


「あとダンジョンの情報でもランクによって制限はありますが、57層までの攻略情報が公開されています。ダンジョンに初めて潜るのであれば上層部分の資料だけに絞って見たほうがいいと思いますよ?」


ヴェッレットのダンジョンに潜っているだけあって、冒険者ギルドのことも詳しいようで色々説明を聞くことができた。

ここのダンジョンがどこまで攻略されているとか、まったく気にしていなかったから、ダンジョンの情報を全部確認する羽目になったかもしれない。


「その情報助かります!」


本当に!

情報収集は怠らないようにって言われていたのに、エルフの里でゆったりしていたからかすっかり頭から抜けていた!

気をつけないとじいじからツッコまれたらお仕置き修行が始まったかもしれないよ。

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