48 魔法の練習

「そういえば気になっていたんですが、護送している人の食事とかどうなっているんですか?」


冒険者の食事は準備していたが、護送している人の分は作っていない。

それに多めに作ってもすべてシエラさんに食べつくされて、ご飯が残ることはなかったから、余った分をあげたというわけでもなさそうだし。


「あーそういえば伝えていなかったわね。護送の人の分はギルドで準備されているの。それにこちらで準備しても食べるか怪しいし…」

「えっと、すっごい警戒心のある人なんですか?」


シャロンさんが口を濁すので、思いついた事を尋ねてみる。

ギルドで準備した食事しか取らないなんて、普通じゃありえない。

森の奥で研究していたっていうし、人間不信なのかな?

そう問いかけるとリンダさんが否定する。


「そういうタイプじゃないわ。どちらかといえば隙だらけでさらにシャロンタイプと言えばわかる?」

「シャロンさんタイプ…魔法大好き?」

「だ、大好き…!?」


シャロンさんといえば魔法が大好きで夢中になるイメージしかない。

そのまま素直に言うと、何故かシャロンさんがショックを受けたように驚いた。


「あはは!確かにシャロンは魔法大好きよね!まあ、研究気質よ!だから食事の時間より研究しているほうがいいタイプなのよ」


あー研究気質!聞いた事ある!

3食の飯より好きっていうやつだよね!

それならこちらが準備したものを食べるより、すでにギルドが準備している携帯食的なものを食べて研究に集中したいんだろう。


「それなら仕方ないですね」


準備しなくていいのは楽だけど、栄養的に心配になる。

でもそれは依頼外だし、しかも本人が望んでいないことをするのはお門違い。

手を出してはいけないことだ。


「何かあれば私たちが対応するから、リサちゃんは輸送と食事の準備に集中してね!」

「はーい」


いつの間にかショックから復活したシャロンさんが念押しする。

うん、何か関わって欲しくなさそうだし、ここは素直に頷いておく。

その日も盗賊や魔獣の襲撃がなく、順調に進んだ。

その移動の間、私とシャロンさんは人避けの魔法の練習をすることにした。


「理論は聞いたけど、やっぱりそれを実践するとなると簡単にはいかないわね」

「じいじが知られていない技術というくらいだから難易度はお察しだね!」


人避けの魔法だけなら展開するのは簡単だが、それだけだと発動時に魔力感知に引っかかってしまう。

そのため同時に魔力感知を無効にする方法も発動するようにしなければならない。

無効の方法が強すぎると魔力が余計に漏れるし、弱すぎると人避けの魔法の魔力が漏れる。

人の魔力量によって発動の時に込める魔力量も違うので、丁度いい塩梅がものすごく難しい。

最初の練習では魔力量がわからず、思っきり込めて発動したため、他のメンバーも魔法をを感じたらしいが、シャロンさんが「魔法の練習中よ!」の一言で納得していた。

またか、みたいな顔をされたので、シャロンさんの魔法の練習はいつものことらしい。


「このまま行けば、今日はギルドが用意した宿に泊まれるから、街の近くで一旦模擬戦をしておこうか?」

「まだ2日目ですけどいいんですか?」

「初日に野営地の使い方は教えたけど、それだけだし。毎食美味しい食事を準備してもらって逆に悪いからな」


エイルさんは苦笑するが、食事の準備はそんなに負担に思っていないし、逆に野営地では常識がないとツッコミ満載で逆にお手数を掛けてしまっていると思う。


「そんなことないと思うけど?」

「…それにシャロンは何か新しいこと教えてもらっているんだろう?」

「あれ?」


エイルさんは小声で聞いてきた。

魔法の練習としか言っていなかったのに、気づいていたらしい。


「どんな内容か知らないけど、シャロンが何か苦戦しているようだからな。いつもの練習とは違うんだろうと思ったんだ」


気づいたと言っても恐らくエイルさんだけで、リンダさんも怪しんではいるが追及することではないと放置しているようだ。

シャロンさんが新しい事ができると、シャロンさんだけじゃなく、パーティー全体の強化に繋がり、結果稼ぎに繋がるので、それを少しでも返しておきたいらしい。

律儀というかなんというか。別に後から技術料なんて請求しませんよ?


「裏があると思っていないさ。ただもらい過ぎは身を滅ぼすからね、まあ付き合ってくれると有り難いよ」


疑問が顔に出ていたらしく、エイルさんが訳を話してくれる。

ようは心持ちが悪いから付き合ってということらしい。

何となく理解はできるのでエイルさんの申し出も受けることにした。

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