49 模擬戦1

「じゃあ、今日は一対一の模擬戦にしようか?リサが今まで対戦した事のあるタイプは?」

「剣士と一応、魔術師タイプですね」


一応じいじが色んな武器で対戦してくれたことはあるけど、それはカウントしないほうがいいだろうし。

残るはお城の兵士と魔王国の魔王と戦っただけだ。

魔王を一般の兵士と一緒にしていいか悩むところだけど、一応カウントしておく。


「なら斥候と盾、槍は今日対戦できそうだな」

「ラウルさんとリンダさんとシエラさんですね」

「そうだ、誰から行う?」


気になるのは盾使いのラウルさんと斥候のリンダさんだ。

どんな戦い方なのかいまいちわからない。


「え〜私の槍は〜?」


私の視線が2人に向いていたので、自分は見られていないと思ったのかシエラさんが不満げな声を上げる。

槍が眼中にないというより、経験があるから何となく攻撃方法がわかる。

だから戦い方もわかるから見ていなかっただけで誤解だ。


「そんなことないですよ!じゃあシエラさんからお願いします!」

「おっし!よろしくね!」


どうせ3人全員と手合わせするんだ。

やる気のあるシエラさんから戦っても何も問題ない。


「それじゃあ2人はこちらに。あくまでも模擬戦だから、大きな怪我はさせないように。動く範囲も決めたほうがいいか?」

「そうね、あまり森の中に行かれても困るし、決めておいたほうがいいわね?」

「では僭越ながら」


そう言ってじいじが手をかざすと、うっすら色のついた結界が張られた。

さらに戦う場所と見学する場所を仕切る薄い壁も存在している。


「これなら何があっても周りに迷惑をかけないでしょう。思う存分行ってください」

「おじいさん、本当にすごいね!」


よくよく見ると、この結界にも人避けの魔法が掛けられているようだ。

街から離れているとはいえ、近くで戦闘音が響いたら何の騒ぎかと思われるものね。

さっすがじいじ!


「では気を取り直して、はじめ!」


開始直後、向かいあっていたシエラさんは一歩後ずさって距離を取ると、手に持っていた槍ですかさず突きを放つ。

最初は両手で攻撃してきたが、私が避けられる速度だと気づいて、次は片手で槍を突いてくる。結構重たい槍なのにブレることなく、急所を確実に狙ってくる。

さすがCランクの冒険者!


「大きな怪我はさせないはずなのに、いいのか?急所狙って」

「大丈夫でしょう。何かあってもこちらで責任を取りますのでご安心を」


エイルさんは心配しているようだが、それは無用だ。じいじもそれをわかっている。

言っては悪いがシエラさんの技は余裕で避けられるため、急所を狙われたとしても問題ない。

じいじとの対戦ではもっとスピードが早くて、えげつない槍さばきを受けた経験がある。

最初の対戦で、避けられず剣で槍を逸らそうとして、盾にした剣がそのまま折られるという怖い経験をした。


「やっぱり、強いね!せめて、一撃くらいと、思ったんだけど、難しいね!」


突きの合間合間にシエラさんがそう呟くが、自分では強いとは思えない。

ただ、経験している内容が濃密なだけだと思う。

だってスピードも技もじいじに及ばない。いやじいじがチート過ぎるから比べちゃダメなんだろうけど。

その経験があるから、シエラさんの攻撃を受けることなく避けることができている。


「避けて、ばっかりじゃ、勝てないよ!」


シエラさんは忘れているかもしれないが、今回の模擬戦は勝つ必要はないと思っている。

相手との力量を把握して、無力化して、五体満足に捕まえることが目的だ。

このままシエラさんの体力が尽きるのを待つのもいいけど、それはいつでもできる戦法だ。

槍使いを無効化するなら、じいじの時にはできない方法を試してみよう。


「っえ!」

「武器を使う人間を無効化したいなら、その武器を封じるのが一番だな」


エイルさんが説明している通り、武器を封じるのが一番だ。

特に槍は刃がついている先端にだけ注意すれば、柄を掴むのは容易い。

もちろん力が拮抗している場合や自分より力量のある相手であれば、この方法は自殺行為になるけど。

槍を引き寄せて、横薙ぎにすると、引っ張られる前にシエラさんは槍を手放した。


「やっぱりそうするよね」

「されたことあるんですか?」


あまりに素早く手を離されたので、槍を取られた経験があるんだと思う。

それなら武器を取られた後の対策もしているってことだろう。

そう思っているとシエラさんが構えた。


「取られたから戦えないなんて言えないからね〜だからこっちにも力を入れているんだ」

「格闘ですか?」


ちょっと気になってはいたんだよね。

槍使いにしてはシエラさんは防具が多かった。防具も増えるほど重くなるから、スピードが重視される槍使いはあまりつけないはず。

それなのに腕から手を守る籠手に、足はふくらはぎを守る臑当っぽいものを付けていた。

守る役割もあるけど、格闘用であれば、おそらく相手にダメージを与えるために付けられている可能性が高い。


「まだまだ負けていないからね!」


シエラさんは接近戦に切り替わると、槍さばきと同様に連打してくる。

シエラさんは攻めの戦いを主としているらしい。

防御を取らず、攻めの一手。こちらに攻撃する暇を与えないという点ではいい考えなんだけど。

それでも攻撃するチャンスは見つけるものじゃなく作り出すもの!

攻撃を避ける際に大きく後ろに下がる。そして魔法を発動!


《グラスバイン》

「っわ!」


戦法としてはエイルさんと対戦した時と同じだが、縛る場所を全身に変えた。

足だけ縛ると変な風に転んで傷が増えてしまう可能性があるから、全身を草で雁字搦めにしたのだ。


「これなら動けないですよね?」

「これは…解けないな〜降参〜」


無理やり草を引きちぎろうとしたようだが、魔力で強化している拘束を引きちぎるためには私以上に魔力を込める必要がある。

身体強化寄りのシエラさんには無理なので、あっさり降参してくれた。

戦法がうまくハマってくれて良かった。

ただ、シエラさんとの対戦を見られていたから、次からの模擬戦ではこの戦法は使えない。


斥候のリンダさんには使用しない予定だったけど、盾使いのラウルさんはどうするか?

相手の出方を見ながら考える必要があるな。

うん、じいじが対戦を勧めるわけだ。

人が変わればその人に合わせた戦い方を考える必要がある。

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