47 野営終了 

じいじの横で静かに聞いていたシャロンさんが悩ましげに呟いた。

シャロンさんは悪人じゃないから知ってもいいんじゃないかな?


「シャロン殿に知られても大丈夫だと判断しておりますのでご安心ください」

「よかったわ」


知られたからには生かしておけない!っていう展開じゃなくて、シャロンさんも安心したようだ。

まあそうなる前にじいじは対策するだろうから、心配することじゃないけど。


「それにリサ様の修行中に気づかれる可能性があるので、先にお伝えした次第です」

「練習中だと魔力を感知される可能性が高いものね!だからシャロンさんだけ伝えたの?」

「そうですね。あと魔法関係の判断はシャロン殿に一任されているようなので、リサ様が何かしていてもシャロン殿が静観しているのであれば、気にする者はいないかと思っております」


緋色の獅子と知り合ってそんなに時間が経っていないのに、そこまで判断できているなんてすごい!

私がわかったことは、エイルさんがモテ無自覚で、リンダさんがエイルさん好き、ラウルさんが口下手、シエラさんは食いしん坊で、シャロンさんは魔法大好き。


しかし今回の合同依頼が緋色の獅子のパーティーで良かったな。

魔術師のシャロンさんは魔法大好きだから知っても黙っててもらえそうだし、他の人は気づかないかスルーしてもらえそうだし!

まさにちょっと教えられない魔法の練習にぴったり!


…じいじはいつ魔法の練習に活かすことを考えていたんだろう?

合同依頼がないとできないだろうし、魔法に理解のある人じゃないと怪しまれて練習どころじゃないだろうし。

ん?それって…。


「…まさか?」

「それは言わぬが花ですよ?」


誰にでも教えるわけにはいかないけど同行者がいる時でないと練習しづらい魔法に、程々信用できる人材で、練習ができる野営ありの依頼なんて本当に偶然?

むしろこの依頼を手配したのは…。


「言わぬが花ですよ?」

「はい!」


条件反射で返事をしてしまったが、心の声に念押ししないで!

周りからみたら、主語を離さない意味不明なやりとりしている不思議な光景だよ!


「さて本日はやり方をまず説明しますね?」


心の声に突っ込んでおきながら次はスルーするし。

チートじいじがやることだし、もう、考えるだけ無駄だよね。


その夜は交代の時間が迫っていたので、人避けの理論だけ学ぶことになった。

ちなみに私たちが寝るテントはいつの間にかじいじが準備していたので、見張りの後はいつもの快適な就寝時間になった。


「おはようございます〜」

「おう!おはようさん!」


朝起きて身支度してテントを出ると他の皆さんは既に起きていた。

朝食もじいじが準備していたようで、パンと温かいスープが置かれている。

予定通りに起きたとはいえ、何にもできていないようで申し訳なくなる。


「今日の朝ごはんも美味しいよ」

「できたてのパンが食べれるなんて、有り難いわね」


じいじのアイテムボックスに入れてあったパンを出したんだろうな。

できたてパンはふっくらしていて美味しいよね〜

スープに野菜と干し肉を入れているとはいえ、パンとスープだけの朝食というのも物足りない気がする。

何か追加しようかな?じいじのアイテムボックスにあるものでもいいけど、何かすぐ追加で作れるものがいいかな。


「じいじ、卵とチーズもらえる?」


そう言いながら自分のマジックバッグから塩とブラックペッパーを取り出す。

じいじから食材を受け取ると、ボールに卵を割り、塩とブラックペッパーを入れてかき混ぜる。

その間、じいじは私のしたいことを先読みして、かまどに火を入れて、通常の倍以上にもなる大きな中華鍋の中にバターを入れている。


「そろそろどうぞ」

「ありがとうじいじ」


温まった鍋に溶いた卵を流し込み、鍋を持つ手を魔力で強化しながら鍋を動かす。

素早くかき混ぜていくと溶けたバターと卵が混ざり合い、美味しそうな匂いが辺りに広がる。


「おぉこの匂いは〜」

「いや!その前に女の子がそんな大きな鍋振るえないからな!普通!強化しているからって普通しないからな!ってかそんなでかい鍋どこで買ったんだよ!」


後方からシエラさんの喜びの声が聞こえる。

わかる!バターと卵の組み合わせにハズレはないよね!

エイルさんのツッコミの声は敢えて無視する。強化しないと美味しいものは作れないんだよ!大量に作るには大きくないとできないんだよ!

よだれが出そうになるのを押さえながら、半熟スクランブルエッグになったところに細切れにしたチーズを入れて、オムレツの形を整えたら完成。


「じいじ〜」

「どうぞ」


名前を呼んだだけで、じいじはさっと大きなお皿を準備してくれるから助かる。

最後の一振りと鍋を大きく上に振りあげて、飛んだオムレツはじいじの持っていたお皿に無事着地した。


「はーい、追加でオムレツできました!」

「大きいー!これ食べていいの?!」

「いやいや!何その連携!何でオムレツを作るのに何でそんな超絶技巧を使うのの!?」


ドンとテーブルに置いた巨大オムレツにシエラさんが期待を込めた視線を向けてくる。

エイルさんも負けじと何で何でと突っ込んでくるが、先程と同じように無視をする。

美味しい料理には体力と技術が必要なのは当たり前なのだ。


それにしてもシエラさん、この量を見て食べていいと聞くのはどういうこと?

流石にじいじと2人で食べる量じゃないですよね?全員分まとめて作ったつもりなんですが、シエラさん的には少ない量に感じるのでしょうか?


「もちろん、皆さん全員で食べますよ!」

「やったー!じゃあ早速!」

「待てシエラ!まずは7等分にしてからだ!じゃないとお前食べるだけ食べるだろう!」

「えぇ〜エイルのケチ!」


無視され続け、文句を言われてもめげることのないエイルさんは、シエラさんの言葉を無視してサッサとオムレツを切り分けてしまった。

オムレツを作りながらチラッと見ていたけど、シエラさんはさっきまでパンとかスープをおかわりしていたのに、さらにオムレツを1人前以上食べる気だったらしい。

シエラさんの胃の中身はブラックホールか。

今までの野営とかの食事はどうしていたんだろう。


「あーこれこれ!サンドイッチにも挟んであったやつ〜」

「美味しいな〜あー野営とは思えない食事だ」


美味しそうに食べる姿に安心して、私も一口食べる。

サンドイッチのときも美味しいけど、できたてのチーズオムレツのトロ〜リは格別だ。

芳醇なバターの香りとピリリとアクセントにブラックペッパーの香りと味が広がる。


「さあさあ、美味しいご飯だけど、時間が迫っているわよ!食べ終わったらすぐ出発よ!」


味わって食べていたらシャロンさんから注意の声が飛んできた。

置いていかれないように慌てて朝食を飲み込んで、出発の準備を進めた。

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