59 ランクアップ

「調子に乗ってんじゃねぇ!」

「女だからって手加減しないぜ!」


3人の内の1人が後ろから手を伸ばしてくる気配に面倒だなと思い、スッと横に避ける。

すると男は見事に片手を空振りして勢いよく前の方へ倒れかかったけど、どうにか踏ん張って転げるのを回避した。

でも転けなかったとは言え、手を伸ばして中腰になっている間抜けな格好に笑いがこみ上げる。

一応本人の目の前で笑うのも失礼かと思ったけど、間に合わず少し吹き出してしまった。

それが聞こえたらしく踏ん張った男は鬼の形相でこちらを睨みつけた。

一触即発とおもいきや。


「お待たせしました!」


受付のお姉さんはそんな状況に気づいていないのか、爽やかな笑顔を浮かべてギルドカードを持ってきた。


「Cランクの説明は大丈夫ですか?」

「はい、Dランクとそんなに変わらなかった気がするので」

「待てよ!何で俺が話しかけているのにそのまま進めるんだよ!」


いや、だって聞く必要ないから無視しているに決まっているんじゃん。

無視されている時点で気付けよってちょっと毒を吐きそうになったので口を押さえる。


「大体、登録して数ヶ月のこのガキがCランクに上がるなんておかしいだろう!」

「話を聞かれていたのであれば、知っていると思いますがCランクに必要な依頼数は達成されています。あなたが口を挟むことではありません」


受付のお姉さんは笑顔を一転、無表情で割り込んできた男に言い返した。

しかも勝手に盗み聞きしておいて割って入ってくんじゃねぇと冷たい視線付きで。

さすがギルドの受付をされているだけある。こういった輩のあしらい方が上手だ。

口調は丁寧なのに表情と声色で不信感を伝えている。

それに怯んだ男は矛先を私に向けてきた。


「それになぁ、冒険者の先輩に向かってその態度はないんじゃないか?」

「先輩?何も教えてもらってないし、教えてもらう気もないのに先輩はないな〜。女一人に突っかるのに、男三人いなきゃ声もかけられない肝の小さい男たちに尊敬できるところなんて皆無だもん」

「寄生でCランクになった奴が何言ってやがる!」

「寄生?」


受付のお姉さんが依頼数が達成できているという説明を他の冒険者の成果を奪ったと決めつけたようだ。

頭が悪いようだ。じゃなきゃわざわざギルドの受付で騒がないか。


「…私の実力でCランクになった訳じゃないと?」

「そうだろうっ!さっきの別のパーティーの獲物を自分が狩ったと言って提出してランクあげているんだろう!!」


どうやら緋色の獅子のメンバーと一緒にいるところを見ていたらしい。

それにしたって短絡的すぎない?

こんな冒険者ばっかりじゃないと思うけど、受付のお姉さんの苦労が偲ばれる。


「バカじゃないの?盗み聞きしていたら知っているでしょう?リーンの街で規定の依頼数を達成しているって。緋色の獅子とは首都への道までの合同依頼だっただけでリーンの街では一緒に依頼したことないよ」

「じゃあ、獲物を金で買って提出したんだろう!金を払えばランクが買えると思うなよ!」

「その発想が出てくるってことは、もしかしてしたことがあるの?」


確かに買おうと思えば、討伐されたものを自分が買い取って討伐したことにすればできなくはない気がするけど、それって絶対損するよね?

そこまでして冒険者ギルドのランクを上げる意味ってあるの?


「そ、そんなことあるか!」

「態度に出しすぎでしょう…」


やったことあるんだな。それでやってもランクが上がらなかったから文句が出ているんだろう。Cランクで文句が出るくらいだからDかEランクかな。

他から買い取りして、討伐したと提出しても上がらないってわかっているなら、私がCランクに上がるのも金で買ったわけじゃないってわかるだろうに。


「自分が矛盾していること言っているってわかっている?それに冒険者ギルドの受付前でそんなこと言っていいの?実力もない冒険者をギルドはCランクにあげようとしているって。見る目がないギルドだと、公言しているんだけど気付いている?」

「そんなこと言ってない!」


そういう風に言っているようにしか聞こえないよ!

何で短絡的で安易にしか考えないのよ!


「そんなつもりじゃなくてもそう言っているようなもんなの!周りを見てみなさいよ!」


この騒動でギルド職員も注目している。大体軽蔑した視線で。

受付のお姉さんなんてとかさっきよりひどいブリザードを発しているんだよ!

私に向けられていないのにすっごく怖いのに、よく文句なんて言えるよな。


「自分たちのランクがあがらないからって、関係ない私のランクが上がることに文句を言わないでよ!自分のランクがあがらないのはそっちの努力不足でしょう!?」

「お、俺たちだって頑張っている!」

「頑張る努力が違うでしょう!新人に文句いう時間があるなら、ギルドにある薬草や魔獣の図鑑を全部覚えるとか、そういう努力をしなさいよ!」


なんかものすごく腹が立ってきた。

今の実力をつけるのに、私だって死ぬか生きるかのギリギリの生活をしてきたんだ。


「どんなことをしていいかわからないならギルドの人に聞いてみればいいでしょう!ギルドだって使える人が増えれば自分たちの収入に繋がるんだからよほどのことがなければ助言くれるはずよ!それとも相談してもダメだったわけ?!」

「そ、相談したことない…」

「だったらしなさいよ!ギルドの人だって鬼じゃないんだから、森を突っ切って真っ直ぐ行くから止まらず魔獣を狩っていきなさいとか寝ずに魔獣を討伐しろとか、10分でヒール草を10束集めてこいとかそんなこと言わないでしょう!ですよね!お姉さん!」

「そんなこと言いませんよ!なんですかその内容!」


ほら見たことか!と絡んでいた連中にドヤ顔を向けると、すごく青ざめた顔で見られた。

お姉さんも鬼みたいなこと言わないって言ったのになんで怯えた顔になるの?


「わかったら新人に絡んでる時間なんてないよね!この件はこれで終了ということで!」


受付のお姉さんからギルドカードを受け取り、サッサと緋色の獅子のメンバーがいるところに向かった。

そう言えば隣にいたじいじは何も絡まれていなかったんだけど、もしかして自分だけ人避けか視線誘導の魔法を使用していたのかな?

一緒に対応してくれればと思うけど、きっとこれも経験ですとか言って笑って流される未来しか浮かばない。

私も人避けとかの魔法が使えるようになれば、こんな面倒なことに巻き込まれないかもしれない。

首都でも魔法の練習を集中して行うことを誓った。

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