58 首都ラーナル

朝からひと悶着あったものの、とりあえず宿を無事に出発した。

その日の準備しておいた昼食や夕食も好評で、またしてもレシピの登録を頼まれた。

別に凝ったものを作ったわけではないのに、ちょっと不思議に思う。

お米や調味料があることを考えると、過去にも日本からの転生者がいてそれらのレシピを広めているはずだ。

実際にハンバーグや唐揚げといった定番のレシピはは広まっているし。

なのに家庭で作れそうなレシピがが知られていないようなのだ。偏っている気がするんだけど気のせいかな?

これも首都の商業ギルドに行ってから確認した方がいいかもしれない。


その日もじいじの魔法のおかげか、魔獣や盗賊に襲われることなく野営地に到着した。

そして初日に約束していた見張りのやり方をエイルさんから教わったのだが、今までやっていた方法が普通でないと突っ込まれたのはご愛嬌だ。

その後も順調に進んで行った。


「何でだろうな〜」


もうそろそろ首都が見えるとなった頃、エイルさんがぼやき出した。

ぼやくと言うと語弊がある気がするが、何で何でと呟くのだ。


「通常であればあと数日かかる道のりのはずなんだ。なのに遠くとはいえ、もう首都が見えるのなんでだろう」


首都に来るのは初めてなのでよくわからないが、エイルさんの体感ではこの日数で首都に到着するのはおかしいことのようだ。

順調すぎて逆に怖いと言い出す始末。

心当たりといえば、やっぱりじいじが展開していた人避けの魔法だろうか?

旅をする人が少ないと行っても、行商や冒険者はいるはずなのに、殆ど出会うことがなかった。

その他遭遇したのはキオッシャの街の近くで盗賊に襲われたくらいだろう。

それも人避けの魔法をじいじに代わって私が実践練習をしていたから遭遇した可能性が高い。

じいじの魔法に漏れがあるとは思わないし。


「それね〜理由は何となくわかってはいるんだけど、どうしようかしら?」

「エイルさんに話さないんですか?」

「リサちゃん、気軽に話せる内容じゃないでしょう?それにおじ様にも許可を取らないと」


シャロンさんも早く首都についている理由に検討がついているようだ。

私としてはブツブツいうエイルさんがうるさいから話していいと思っている。

知ったところで、じいじをどうにかできると思えないし。


シャロンさんとじいじが話した結果、依頼が終わって他の人に盗み聞きされない場所であれば伝えて良いことになった。

確かに誰かに聞かれるような場所で話されて、噂になっても困るからそこは押さえておかないとね!

シャロンさんがエイルさんにそれを伝えると、顔を引きつらせてじいじを見たけど、何かあったのだろうか?


それはともかく、やっと首都に着いた。

首都の中は今まで見た街よりも人が多く、建物がキレイに並んでいる印象だ。

これ、お城から見たらさぞ絶景だろうな。


「早速ギルドに行って、依頼を完了させましょう」


キョロキョロしていた私に微笑ましい顔をしてシャロンさんがギルドへ促す。

首都のギルドは門の近くに設けられていた。

これは街中に魔獣の素材を運び込むのをあまり歓迎されない上に、素材の鮮度が落ちる可能性もあるので門の近くに建てられたようだ。


「はい、依頼は完了ですね。お疲れさまでした」


護衛と輸送の依頼達成を受付に報告し、無事に完了の手続きが済んだ。

受け渡しの際にじいじがあまりに多くの素材を出すので、その収納量の大きさに驚かれ、ギルド直属にならないか交渉されるといった騒ぎもあったが、無事に完了することができて良かった。


「あのう、リサさん達がよろしければ、Cランクへのランクアップを行いませんか?」

「Cランク?」


Cランクって行ったら、リーンのギルドマスターがこの輸送依頼の報酬にどうかって提案してきていたけど、いずれ取れるから不要だってじいじが断っていたはず。

こっそり報酬として入れていたのかな?

でもそれって不正にならない?いや、ギルドマスターの権限でできるのかもしれないからまずは確認だ。


「冒険者登録してから数ヶ月しか経ってないんですが、そんな簡単に上がるものなんですか?」

「Cランクというのは中堅の冒険者の証といっても過言ではありません!だから簡単には上がらないのですが」

「ですが?」

「討伐と採取の規定数は元々リーンで達成されていて、今回の護衛依頼で盗賊の捕縛もされているのでCランクの資格ありとなりました!」


おめでとうございます!と受付のお姉さんが笑顔で答えてくれた。

ギルドの規定に則っているなら遠慮する必要はない。

じいじもその内にあがると言っていたのも、あとは盗賊の捕縛だけと知っていたからだろう。予定よりちょっと早く達成できただけであれば、有り難くCランクにあげてもらおう。


「じゃあ」

「おいおいおいおい!」

「ちょっとおかしいんじゃないのか!?」


お願いしますの言葉が出る前に不躾な声が割り込んできた。

振り向くとすぐ後ろに並んでいた男3人が発した声らしい。

こっちを睨んでくるけど睨まれる覚えはないので、無視して受付のお姉さんにギルドカードを差し出す。


「ランクアップお願いします」

「承りました!」

「って!無視するなよ!!」


無視するなというが、知り合いでもなければ面識もない人の事を聞く必要もない。

だいたい、ヤジしか飛ばしていないのに、話しかけているつもりだろうか。

こんな奴は無視するに限る。

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