44 野営の夕食

「さてさてお小言はこれくらいにして、ご飯にしましょうか?シエラに睨まれるし」

「そうだよ!とってもいい匂いしているのに、我慢して待っていたんだよー!」


すっかり食いしん坊キャラが定着したシエラさんが抗議の声をあげた。

その後ろに緋色の獅子のメンバーのみんなが苦笑して立っている。

シャロンさんの説明が終わるまで待っていてくれたようだ。


「そうだった!お鍋!」

「ちょうど食べ頃の温かさで、味も馴染んだようですよ。さて、サラダとパンも並べましょう」


放置していたお鍋だが、ちょうどよく冷めたらしい。

それに味が染み込んでいるようで良かった。せっかく作ったのに冷めて不味くなったら大変だ。


「すっごいな〜野営地で初日だとはいえ、こんな豪華な食事が食べれるとは思わなかったぜ」

「だね!お昼のサンドイッチも美味しかったし、夜ご飯も期待で胸がいっぱい…!」


メニュー的には街の食堂にありそうな内容なのに、緋色の獅子のメンバーはすごく笑顔でとても嬉しそうだ。

作った側としては嬉しいし、味も美味しいと自信を持って言えるが、そこまで喜ばれると違和感がある。


「リサはおじいさんがいるから珍しくないメニューなんでしょうが、普通はこうやってテーブルに座って、ご飯とおかずとサラダが揃うなんてありえないのよ」

「普通は携帯食とスープ、良くて初日だけパンや屋台で買ったおかずが追加になるくらいか。後は討伐した魔獣の串焼きくらいがご馳走だな」

「ひえぇ〜」


思ったより質素な食事内容に恐怖の声をあげる。

携帯食は冒険者御用達のお店で試食させてもらったけど、なんていうか小麦粉に水と塩を入れて薄焼きにしたっていう感じの物だった。

不味くはないけど美味しくもないし、食感がボソボソしていた。あれを食事と認めたくない。

それを食べるくらいなら自分で作ったクッキーを食べるほうがずっといい。


「まあまあ、そんな食欲のなるなる話は置いておいて、今は目の前のご馳走をいただきます!…おいしー!!」

「期待に添えられたようで良かったですな」


シエラさんが待ちきれないと、誰よりも早く煮込みハンバーグを頬張り、満面の笑みを浮かべる。喜んでいただけているようでホッとした。

それを皮切りに他のメンバーを食べ始め、そのまま手が止まることなく、食べ進めていく。

私もつられて一口食べる。


「あっ、中にチーズ入れたんだね?煮込んだせいなのもあって焼いたときよりすごく柔らかく伸びるんだけど気のせい?」

「煮込んで柔らかくなったのもありますが、チーズ自体も濃厚で柔らかめの種類にしておきました」


チーズの種類も違うのか、気づかなかったな。

街で見かけたのは村で飼っている乳牛のチーズだったから、そんな種類なかったと思ったんだけど?


「…じいじ?」

「美味しいでしょう?ちょっと高めの山に生息している牛から獲れるんです」


怪しんで視線を向けると、じいじはにっこり笑った。

それ普通じゃない材料ってことじゃん!

ちょっと高めとかいいながら、標高何0000mとかいう山なんじゃないかな!?


「言わなければいいことです。美味しければいいんですよ、えぇ美味しければ」

「私は何も聞かなかった〜と」


私は煮込んで食べただけ!いつもと違うチーズを使ったことしか知らない!

聞かれても私は無罪!


「美味しさのあまり、一気に食べてしまった」

「本当にね〜チーズを上からかけたものは食べたことあるけど、中に入っているとは思わなかったわ」

「あとハンバーグを煮込むのもな!ソースは上からかけるものだと思っていたぜ!」

「煮込まれていて、柔らかくてジューシーになるよね!」

「…これも商業ギルドに聞いておいてくれないか?」


一斉に期待した目で見られる。

私でも思いつくけど、実際作ったのはじいじだしな。

チラッとじいじを見てもニコニコ笑っているだけで何も答えない。


「まあ、サンドイッチの分もあるから、確認だけしておきますね」


そう言うしかなかった。

また行く理由が増えそうな気がするけど、その時はその時だよね!


「話は変わるけど、夜の見張りについて決めたいと思うのだけど?」

「あぁ普通はパーティーごとに交代するんですよね?」

「もしくは人数割だな。見張りをしたことは?」

「見張り、したことあるような、ないような…」


遠征の時はじいじの持っているテントに結界がついているから、見張りの必要がなく、そのまま寝ていた。

けれどその前に。


「じいじに修行として2日間起きっぱなしで魔獣の相手をしたことが」

「ちょっとぉぉぉ!何でそんな危ないことしてんのぉ!!」


ありますと言う前に常識人のシャロンさんが叫んだ。

うん、まあこれは非常識なことだとわかってはいるんだけど。


「自分の限界を知っておいたほうがいいですから。どんな時でも生き残れるように」


じいじ、ホホホと微笑みながらいうセリフじゃないと思います。

周りをみてください。みなさんものすごく引いた顔をしていますよ!


「まあ、なので見張りはできると思います!」

「…そうね、一晩中魔獣の相手ができるなら見張りはできるわよね」

「リサの非常識の一端を垣間見たわ」


じいじのフォローをすると、とりあえず納得してもらえた。私の非常識の発端も。

それでも正式な見張りをしたことないから、今日はシャロンさんと一緒に練習することになった。

最初はじいじと2人でする予定だったが、じいじの信用は落ちたらしく2人ですることは認められなかった。


「さて、じゃあサッサと片付けて休むか?」

「使った食器はこのタライに置いてください。お鍋もそのままで結構ですよ」

「それでいいの?」


じいじの言葉に疑問を持ちながら、メンバーは言われたとおり出されたタライに食器を置いていく。

じいじが次に何をするか気づいたので止めたかったが、一足遅かった。


《ピュリファイ》


なんということでしょう〜じいじの魔法の言葉で、並べられたお鍋とタライの中の食器はゴミひとつなくきれいになりました。

って、なんで上級の浄化魔法を使ったの…!

せめて中級のクリーンで、クリーンなら誤魔化せたんじゃないの!?


「…リサちゃん、ちょっと聞いていい?」

「…はい」


シャロンさんが笑っていない笑顔で手招きする様をみて、私は拒否権がないと悟った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る