45 非常識な2人
「本当に、非常識よね!」
じいじの浄化魔法問題でシャロンさんに呼ばれ、恐る恐る近寄った私にシャロンさんはため息をついた。
そうですね、シャロンさんの話では魔法は極力使わないようにしているのに、食器洗いのために浄化魔法なんて使うんだから、そう思われますよね。
「コレはいつものこと?」
「はい…いつものことです」
こんなことで嘘はつきたくないので正直に答える。
「おじいさんは何で魔法使うの?」
「便利だからです。川に行って洗うより早くてキレイに行えますよ」
シャロンさんに尋問?されている横で、シエラさんがじいじに訊ねている。
その質問にじいじは気軽に返しているが、シエラさんが首を傾げる。
「魔法使ったら魔力足りなくならない?」
「これくらいでなくなるほど少なくありません。自分の持てる力で、しかも余裕がある。なら快適になるようにすることは人間の本能ですから、それに従っているだけですよ」
のほほんとした会話のおかげでシャロンさんからの威圧がだんだん落ち着いてきた。
シエラさんナイスです!
「そうなんだ。あれって上級魔法だよね?中級じゃダメだったの?」
「屋外では中級で取れないものもありますので、念の為ですね」
「そうなんだ〜なんかすごいね!」
上級魔法を使った理由がそんな単純なことであったことにシャロンさんは驚き、肩を落とした。
念の為にってだけで上級魔法を使うとは思っていなかったよね。
「…ふふふ」
「あのシャロンさん?」
静かになったシャロンさんが小さく笑いだした。
じいじのあまりの非常識にシャロンさんが壊れたらどうしよう。
「いえ、非常識を嘆くより、ここに魔法の上級を使いこなす熟練の魔術師がいると考えるととっても幸運なことだと思い直したのよ!」
うわ〜シャロンさんは開き直ったようだ!
もともとシャロンさんは魔法大好きな人だから、当然といえば当然なんだろうけど。
考え方を変えたシャロンさんの目はキラキラ輝き出した。
多分私に冒険者のいろはを教えなければいけないという義務感が、魔法が大好きな気持ちを押さえていたんじゃないかと思う。
「ちょうど見張りも一緒だし、色々聞けるわね〜!」
「シャロン!ちゃんと見張りもしろよ!魔法談義に夢中にならないようにな!」
「わかっているわよ〜」
後方で引いた顔をしていたエイルさんが慌てて注意するが、シャロンさんはうきうき気分を隠さず返事をした。
これではダメだと思ったらしいエイルさんはため息をついてこちらを見た。
「すまない、多分シャロンは使い物にならない。見張りはできるだろうが教えるというところまで頭が回らないと思う」
「いえ、元はこちらが原因なので大丈夫ですよ」
魔法談義はじいじにおまかせして、自分だけでも見張りはしておこう!
そんな私の返事にさらに申し訳なく感じたのか、エイルさんの眉が下がる。
「本当に悪いな。今日は無理だが明日にでも俺から見張りのやり方を教えるよ」
「よろしくお願いします」
エイルさんの申し出はありがたいものなので、ペコリと頭を下げる。
色々できるようになってきたと思ったけど、普通という枠からはみ出ていることを実感するようになった。
ぜひともエイルさんに普通の見張りのやり方を学んでおきたい。
「じゃあ、先に休ませてもらうが、何かあったらすぐ起こしていいから」
「はい、おやすみなさい」
エイルさん達が馬車とテントに別れて入るのを見送って、すでに魔法談義を始めているシャロンさんたちの元へ近づいた。
ご飯の時に使用していたテーブルと椅子をそのまま使っていて役に立っているようだ。
朝食のときにも使うためそのまま置いておくことにしたのだが、見張りのときにもあっていいかもしれない。
そう考えるとテーブルと椅子もやっぱり必要なことだよね。
あとは見張りしやすいように何か準備しておこうかな?
「焚き火の横に予備の枝と、飲み物がすぐ飲めるようにコップとお湯を沸かせる用のやかんと、飲水もいるだろうから、水差しも出しておこう」
じいじとシャロンさんはまだ魔法の談義をしているようなので、周囲に気を配りながら焚き火を見ながら考える。
焚き火であれこれと何かしようとしたら、椅子に座った状態だとやりにくいかな。
毎回立ち上がって、焚き火の前にしゃがんで、また立ち上がって椅子に座るってなるよね?
「何だったっけ?キャンプ番組とかで見たバーベキューとかで使っていた火をおける台は?」
正しい名称は思い出せないけど、そんな台があったはずだ。
金属で作られていたものは再現できないけど、土で似た形を作ってその中で焚き火したら便利だと思うんだよね!別に折り畳まなくてもいいんだし!
いっちょ、やりますか!
「形を明確に、細部までイメージして。すぐ崩れない硬さにして《アースウォール》」
「ちょっと!リサちゃん!!」
後ろでシャロンさんの声が聞こえたけど、魔法を使うのに集中して細部まで聞き取れなかった。
でも集中したおかげで、テーブルの横にそれらしきものが完成した。
ちゃんと焚き火もそのまま台の中で燃えているし、台の足も太くしたから強度も大丈夫そう。高さもテーブルよりちょっと低めにしたから座ったまま作業もできる。
「うんうん!これで使いやすいよね!」
「使いやすいよね!じゃないの!!2人揃って考え方がおかしいから!」
満足して頷いていると、後ろからシャロンさんの叫び声があがった。
じいじと魔法談義に夢中になっていると思ったのに、中断して良かったのかな?
「なんで?みたいな顔しないの!近くであんなに魔力を練られたら流石に気づくわよ!」
シャロンさんは魔術師だから魔力を感知しやすいみたいだ。
でも使いやすいほうがいいと思うけどな?
「もう考え方とか判断基準が楽かどうかになってしまっているんじゃない?」
「そんなことないと思いますけど…」
修行とかでもじいじは楽な道を選ばせてくれないし、楽なことばっかりしてきたかと言われると首を傾げる。
便利にできたら〜とか考えるけど、ダメなのかな?
「今度から魔法で何かをする時は、せめて人がいないか確認してからやりなさい。常識と非常識の判断が付く前に、非常識な事を人前で何かしてしまったら、変なことに巻き込まれるわ」
シャロンさんは心配そうに私を見た。
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