81 ドラゴン討伐

じいじの判断と自分の勘に従って兵士を置いてきぼりにして、ローウを目指している。

改めて考えるとやっぱり今回の盗賊の騒ぎには違和感を感じる。

盗賊は何でわざわざ2人しかいない旅人を襲ったんだろう。

見た目も一般的な服装だったし、そんなに高価なものを持っている印象はなかった。

そう考えると、狙ってあの2人を襲ったってことだったんだよね。

あの大人数の盗賊ならもっと高価なものを運んでそうな荷馬車にでも対応できそうだし。

そうなると盗賊の後ろに指示した人がいるってことかな。

となると、また面倒なことになりそうな予感…。

そんなことを考え、黙々と歩いているとローウの街の門前に到着した。


「じいじ、これからどうする?」


街に入る際に盗賊の事を伝えたほうがいいか迷う。

偉そうな兵士の対応を見るに、正直に盗賊を預けたことを伝えていいものか。

何かにつけて難癖つけられそうな気がするし。


「こういう時は全部言わなければいいのですよ」


じいじはウインクしてお茶目に笑う。

ウインクが似合うイケオジだな。

ちょっと緊張して気持ちがほぐれた。

そして私達の順番になり、冒険者ギルドカードを見せる。


「冒険者か」

「盗賊についてお伝えしたいことがあるのですが、いいでしょうか?」

「盗賊について?今日、盗賊を連行しに行っているが」

「えぇ、捕獲に協力したのですが、30人以上いるため後から連行してくるとのことです」

「30!それは規模が大きいな。向かった兵士では人手が足りないか」

「気絶している者がいるので、連行するのも大変なようで」

「そのような状況なら追加で兵の派遣を検討しよう。伝言ごくろう」

「いいえ、盗賊は見逃せませんから。何かあれば冒険者ギルドまで」


じいじは兵士に微笑んで、そのまま街の中に進んでいく。

微塵も疑われないその鮮やかな手腕はすごい。

水を差したくなくて黙って見ていたけど、やっぱりすごい。

思い返すとじいじは言葉の端々も言い切らないようにして、相手の思考を誘導していたように思える。

さらにじいじは堂々としていたから、疑う余地がないっていうのもあるかも知れない。

これが ”全部言わない” 話術か〜


「じいじと同じことをできる気がしない」


見習いたいけど、さっきの状況だと緊張して震えそう。

もしくは頭が真っ白になって何も言えなくなるかな。


「年の功ですよ。学んで少しずつ使えるようになればいいのです」


じいじは優しく慰めてくれるけど、年を取ってもじいじほど熟練になれる気がしない。

じいじの場合は年の功より経験の差じゃ…と思ったところで、考えを止める。

優しい笑顔だったじいじから冷気が漂ってきていませんか?もしかして。

うっ、迂闊な考えもしないほうが身のためかもしれない、と1つ学びました。

夕方と言うこともあり、その日は宿を確保して、寝ることにした。


翌日、冒険者ギルドに行くかと思いきや、じいじは先に放牧場に行くと言い出した。

今、冒険者ギルドに行くと嫌なことに鉢合わせしそうだとじいじの予感が言っているとか。

元々の目的もチーズを買うことなので否はない。


ローウは放牧している羊などが魔獣に襲われないように街の中で放牧している。

そのため、街の中はとてつもなく広く、伴って外壁も広い。

そんな外壁を維持できるのは放牧している羊などがすくすく育って、その分味も毛並みも高級品になっている。

チーズのついでに冬に備えてモコモコの毛糸も買えたらいいな。

そんなうきうき気分で向かった放牧場は阿鼻叫喚の地になっていた。


「うわー!」

「た、助けて…」

「逃げろー!」

「ギャァァァ!!!!」


本来であればのどかな放牧場であった場所が、今は怯える人の叫び声が響いている。

人々は逃げ惑い、放牧されていたであろう動物たちが一塊になって震えている。

その頭上に、偉そうに滞空している魔獣。


「若いドラゴンのようですね。翼を動かさず、あそこまで浮いていられるなら風魔法が得意なようですね」

「あれが、ドラゴン」


本でしか見たことなかったけど、想像していたよりゴツい。

じいじが言う通り翼は動いていないのに、空中に留まっている。

そして気のせいかもしれないけど、すっごく偉そうな表情をしている気がする。


「じいじ、どうする?」

「そうですね、邪魔ですし片付けますか。ついでに教材にもなりそうですし」

「教材?」


じいじが討伐しそうだなっていうのは思っていたけど、教材という言葉に首を傾げる。

そんな態度を気にする素振りを見せず、じいじはドラゴンを指さした。


「あのドラゴンを若いと判断したのは、このような人の領域で堂々と現れて居座っているからです。ある程度長生きしているドラゴンは無謀に人間に喧嘩を売りません」


ちゃんと棲み分けを理解しているからですと説明するじいじの言葉にへーと返す。

本でもドラゴンを退治した話があったし、負けたことを学んで棲み分けしているってことかな。


「そうなると、あのように、粋がっている若いドラゴンに手を焼くそうです」


その話の流れだとじいじはドラゴンの教育相談を受けているってことになるけど?

少なくとも実感が籠もっているから、本から得た情報ではない気がするけど、気にしないほうがいいかな。


「そういう若いドランゴがいたら見せしめに狩っていいと言われています。なので今からは倒し方のお見せしますね」


見せしめに若いドラゴン倒していいとか、ドラゴンの思考は過激すぎない?

人に頼むにしても追い払ってくださいとかじゃない?

それとも粋がっている(?)ドラゴンは身内でも手が付けられない乱暴者な感じなのかな?

じいじの説明は納得するどころか疑問が増えていく。


「それでですね、若いドラゴンは空を飛べない人間を見下していることが多いので」


そう言いながらじいじは風魔法をまとって、ドラゴンが飛んでいる高さまでジャンプする。

まさか同じ高さまで飛んでくると思っていなかったドラゴンは驚いて固まってしまった。

その隙を見逃さず、じいじはドラゴンの脳天に氷の塊をぶち込んだ。


「同じように飛んで見せて、驚いたところに氷魔法を当てると効果的です。爬虫類は寒さが苦手なので」


じいじはドラゴンを沈めると静かに隣に降りてきた。

倒されたドラゴンをまじまじとみると頭は見事に凹んでいる。

一撃でドラゴン倒したよ。ドラゴンって一撃で倒せるんだね!

しかも頭に打撃を与えるから、鱗や翼にも傷がない。

素材としては最高の状態です。さすが、じいじ!

そしてドラゴンを爬虫類に分類したことについてはツッコみません!

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