82 チーズゲット
「本当に、ありがとうございます!」
「突然現れて、どうなることかと…」
「いえいえ、冒険者として対応したまでですから」
じいじがドラゴンの素材を回収し終わると、周りに逃げ回っていた人たちが集まってきた。
感謝の言葉に冒険者として当たり前みたいな返答をしているけど、多分じいじ以外の冒険者には無理だと思うな。
絵本に出てくるくらいおとぎ話的な魔獣なんだから、ドラゴンって。
多分だけど、本来であれば事前に準備して複数のパーティーで挑むものなんじゃないんかな、ドラゴンって。
それを単騎、一撃で倒せるのはじいじだけだと思うけど…そう遠くない日に修行の一環としてドラゴン狩りに放り込まれそうな予感がするのは気の所為でしょうか。
ガタブル。
いや気の所為じゃないよね、これまでの修行の経験からそう確信する。
とりあえずさっきじいじが実演してくれた方法を真似できるようにしておかねば…!
「ぜひお礼を」
「実はチーズと羊毛を買いに来たのです。おすすめを紹介いただけますか?」
「も、もちろんです!ぜひうちへ!」
助けられた人はものすごく感激したようにじいじを見つめた。
これでじいじが20代の若者で、助けられた人が同じくらいの女性だったら恋愛物語が始まりそうな雰囲気なんだけど、両方ともご年配の男性なのがなんとも残念。
「うちで取り扱っている最高品になります!城にも納めている自信の品です!」
案内された部屋には山のように積み上げられたチーズと羊毛があった。
じいじが助けたのはどうやら牧場主だったようで、最高の品を揃えて持ってきてくれたようだ。
その厚遇の対応にちょっと顔がひきつりそうになったけど、思い直す。
じいじが簡単に倒したからそんな脅威に思わなかったんだけど、やっぱり普通の人からしたらドラゴンって脅威だ。
その脅威から助けてもらった命の恩人に最大限のおもてなしをしているのだろう。
「どれもいい品ですね。リサ様どうでしょう?すべて購入いたしましょうか?」
「さすがに全部は、多すぎない?」
「備えあれば憂いなしですよ。次に来た時に購入できるとは限らないのですが、買える時に買ってしまいましょう」
じいじはそういうものの、目の前に並べられている量は半端ない。
チーズは一生分ありそうだし、羊毛も何十頭分と問いたくなる量だ。
一歩譲ってチーズは食べれば消費できるが、羊毛をこんなにいっぱい使う予定はないのでは。
「大丈夫ですよ。チーズも羊毛も使い道がありますから」
「じいじがそう言うのなら」
アイテムボックスがあるから場所も取らないし、腐ることもない。
じいじが言っていた使い道でも余ったら死蔵しておけばいいはずだし。
人生長いし、その内使うこともあるかも知れない。
羊毛はともかく、チーズは色んな料理にもデザートにも使えるしね!
お高いチーズはどんな味するんだろう!
さっそく昼にでも食べようかな?
やっぱりチーズを味わうならチーズフォンデュだよね!
「いえいえ!お代は入りません!これは感謝の品ですから!」
「被害が少なかったとはいえ、羊たちは怯え、柵も壊れたところがあるでしょう。お気持ちだけで十分ですから、ちゃんと購入させてください」
「なんと!強いだけでなくそんなにお優しいなんて!」
牧場主さんはじいじの言葉にとても感激している。
ご年配の男性同士でなければラブロマンスが始まりそうだったのに!
ご年配の男性同士でなければ!(2回目)
「さて欲しい物も購入できましたし、何処かで食事でも致しましょうか?」
「でしたらせめて食事はうちで!新鮮なチーズをぜひ味わってください」
とても熱心な勧誘にじいじも遠慮しすぎるのはいけないと思ったのか、その提案を受けることになった。
私の希望のチーズフォンデュも準備してくれるとのことだ!
あぁ、楽しみ!
牧場主さんが手配をしてくると部屋を出ると、並べられていたチーズと羊毛を収納する。
念のためじいじと半分ずつ分けて持っておくことにした。
放牧場に着いてからドラゴンの襲撃なんてあって慌ただしかったが、ようやく一息つけそうだ。
「ここに牧場主がいると聞いたのだが!」
気が緩みそうになったところで、昨日見た顔が部屋に飛び込んで来ました。
神様、どうあっても私に穏やかな時間をくれないのでしょうか。
「待て待て!ドラゴンがいない理由を聞くのが先だ!」
続いて何やらガタイのいい人も飛び込んで来ました。
ドラゴンのこと気にしているし、冒険者かな?
「牧場主さんはお昼ごはんの準備に行きましたよ」
「ドラゴンはすでに討伐しております」
どちらの質問にも応えられるからじいじと私でそれぞれの質問に答える。
部屋にいたのが私達で驚いたのか、回答に驚いたのか、部屋を訪れた2人は固まった。
でも冒険者の方はすぐ正気に戻る。
「ドラゴン、すでに討伐済み?まじか?」
「はい、この通り」
「っ!」
討伐したって言われて素直に信じられるものじゃないよね。
じいじもそれをわかっているから、アイテムボックスからドラゴンの頭だけチラ見せする。
ドラゴンの巨体を全部出せるほどこの部屋は大きくないしね。
冒険者はそっと近づくと、ドラゴンの頭をよく観察しだした。
じいじの許可を得て、それが幻覚などではなく、本物のドラゴンであると理解したのか、冒険者は息を吐いた。
「本当なんだな!いや〜良かったぁ!ここいらにいる冒険者にはドラゴンの討伐ができる連中なんていないからな!」
最悪の事態を免れたことがわかって、冒険者は肩の力を抜いて安堵している。
もしじいじが討伐していなければ、首都に応援要請を出すしかなく、出したとしても着くまでに1日以上は掛かる。
その間住民は地下に避難して、ドラゴンをやり過ごすしかなかったとため息をもらした。
ドラゴンをやり過ごすってことは名産にしていた放牧場の動物は食べられ、街も壊されていた可能性が高い。
そうなったら街の復興は厳しいものになっていただろう。
そう考えるとじいじがしたことって本当にすごいことだね!
「いや〜何にしてもありがとう!後で冒険者ギルドにぜひ来てくれ!報奨金も準備しておくぜ!」
どうやら報奨金までもらえるようだ。
お金はいくらあっても困らないからもらっておいたほうがいい。
じいじを見ると頷いていたので、後ほどギルドに行くことを決めた。
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