83 冤罪

「お前たちは昨日の!」


ずっと固まっていた兵士の人が、ハッと気づいたように人差し指を向けられて叫ばれた。

そう昨日門であった兵士の人だ。

昨日も思ったけどちょっとこの兵士の人って階級が高いのかな?

追加の兵士を派遣することを決めていたり、牧場主の部屋にノックもなしに入ってきたりしている。

そんなことを考えている間に兵士はさらに声を荒らげた。


「部下に聞いたぞ!盗賊の手下だと!そして仲間割れの末仲間を売ったと!」

「何でそんな話に?」


いや本当に何でそんなことになっているの?

盗賊の仲間なんてとても侵害だ。

これでも常識外れなことはしても人倫に反することはしていないのに。


「シラを切る気か!今すぐ捕縛するぞ」

「ちょい待ち!それ、ちゃんと証拠あるんだろうな?言いがかりで冒険者を捕縛するなんてこと、許さないぜ?」


こちらが反論する前に冒険者の方が講義の声を上げた。

偉そうな兵士に意見できるなんて冒険者の方も上役だったりする?

兵士の方も無視することができないのか、当事者を放置して2人の言い合いは続く。


「証拠は…ないが、それでも怪しいだろう!」

「はぁ?ドラゴン退治できるような奴が盗賊なんてする必要ないだろう!更に言えば着ている装備はそこら辺の鎧より頑丈だぜ?そんなの盗品にあったのかよ?」

「しかし、襲われていたところ助け、半日かからず盗賊を捕縛したんだぞ?そんなこと、普通はできないだろう?」

「ドラゴンを倒す冒険者が普通なわけないだろう!」


筋が通っている冒険者の説明に、兵士のあまりにも考えなしの発言をする。

流石にイラッとしたのか冒険者が声を荒げる。

そしてドラゴンについて切々と説明する。


「いいか、ドラゴンっていうのは天災なんだよ天災!冒険者でも複数のAランクパーティーが集まっても、追い払えるかどうかっていうくらい脅威なんだよ!例えこの街の兵士が1万いても勝てない。国の軍隊率いても討伐できるかも怪しい、そんな存在なんだよ!ドランゴっていうのは!」


いかにドラゴンが恐ろしい存在なのか冒険者の熱のこもった説明に兵士はひたすら狼狽える。

ドラゴンってやっぱりそういう存在なんだね。

兵士1万人いて勝てないドラゴンをじいじ1人で、しかも一撃で仕留めた。

うん改めてじいじはチートだと認識しました。


「そのドラゴンを討伐できる冒険者が盗賊なんかするかよ!盗賊するくらいなら国盗りしたほうが遥かに大金を手に入れられるわ!」


言っていることは冒険者側が優勢だ。

というか当たり前の話だ。

盗賊なんてしなくてもそもそも稼げるし。

大体盗賊の仲間なんかじゃないんだから。

盗賊やっている暇があるなら魔法の1つで練習するし。

劣勢だと理解しつつもそれでも受け入れることができない兵士は苦し紛れに反論する。


「しかし、身元も不明な流浪の冒険者など」

「冒険者だからって下に見る発言は見過ごせねぇな」


あー冒険者だからといって全員が流浪な訳じゃないのに。

地元で冒険者になる人もいるんだから、冒険者だからって身元不明ってわけじゃない。

私だって一応隣国の村の出身っていう証明書もあるし。

追い詰められたためか、元々そういう思考なのか、かなり偏見を持った言い方をしたため状況は一触即発な雰囲気になる。


「ちなみにその身元不明な流浪な冒険者と言われたリサ様の後ろ盾は、こちらになります」

「は?」


じいじがサッと目配せをしたので、リンダさんから受け取ったあの証明書を出した。

それをじいじが兵士の目の前に差し出す。

商業ギルドでは効果が発揮できなかったが、今回はどうかな〜くらいの気持ちで出してみたのだが。


「…こ、れは!あっ!えっと!…た、大変申し訳ございません!!」

「は?」


捕縛捕縛と騒いでいた兵士が例の証明書を認識した途端、いきなり土下座した。

あまりに予想外の動きに思わず目を見開くが、じいじは満足そうに頷いて証明書を返してきた。

じいじの反応を見るに、どうやら後ろ盾の正しい効果はこれで合っているらしい。

いや、人が土下座するくらいの後ろ盾ってどうなの?

その効果を目の当たりにして本当に受け取って良かったのかとちょっと不安に思う。

そんなカオスな状況でなんと牧場主さんが部屋に戻ってきてしまった。

そして土下座している兵士と不機嫌な様子の冒険者を見て驚いている。


「ギルドマスターと部隊長がどうしてここに?というかどうして部隊長はなぜ土下座を?」


状況がわからないと牧場主は冒険者と兵士と私たちを見比べている。

うん、経緯を知らないと疑問に思う状況だよね。

土下座を指摘された兵士は「いや、あの」と呟きながら立ち上がった。

冤罪を吹っ掛けていましたなんて説明できないもんね。


しかし、冒険者はギルドマスターだったんだ。

確かにドラゴンの対応に普通の冒険者が来るはずないか。

街で一番強い冒険者か一番上役が来るに決まっている。

考えればわかることなのに、そこまで頭が回らなかったなと反省する。

今回はちゃんと対応してくれるギルドマスターだったから良かったけど、次からはちゃんと気をつけて対応しないとね。

全てのギルドマスターがいい人とは限らないから。


「そりゃドラゴン騒ぎがあったんだから、駆けつけるに決まっているだろう」

「あの巨体は街の端からでも見えたからな」

「それは…ご足労かけました」


あの巨体が空に浮かんでいるんだから、遠い場所からでも見えるよね。

あっそれでここに来たのか。

じいじがドラゴンを落としたから姿が見えなくなって慌てて状況を確認しに来たのだろう。他の場所に移動したならいいけど、いや、それでも何処の方向に行ったかは確認しないといけない。

他のところに行ったから終わりじゃなくて、その行った先が破壊される可能性があるから確認は大事だ。


「謝ることじゃないぜ。これは冒険者ギルドを任されているからな。やらなきゃいけないことだ」

「住民の安全確認は重要なことだ。被害も少ないようで良かった」


ドラゴンの脅威も去って、名産の放牧場の被害状況も確認できたためか、先程までいがみ合っていた雰囲気から一転穏やかな会話になる。

だが、だからといって暴言を見逃すじいじではなかった。

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