80 妖精と契約
「パックちゃん、私と一緒にいたい?」
(コクコク)
「でもその姿だとずっと一緒にいることできないんだよ」
(フルフルフル)
「一緒にいるために小さくなれないかな?」
(…コク)
詳しくは説明せず、わかりやすく伝えるとパックちゃんは理解してくれたようだ。
頷いた後にギュッと体を縮める動きをすると、ポンッと軽い音がして、パックちゃんの姿は某ゲームに出てきたお花の敵の姿から虹色の一輪の花に変わっていた。
「おぉ!可愛い!」
「これなら飾りに見えるでしょう」
じいじがパックちゃんを掴むと、私の胸ポケットにパックちゃんを差し込んだ。
これなら造花をアクセサリーにしているって思ってもらえるかも!
「パックちゃん!すごいね!これなら一緒にいられるね!」
(コクコクコク)
パックちゃんも心なしかいつもより嬉しそうに頷いている。
あ、動いているところを他の人に見られたら、怪しまれるかな。
他の人がいる時は別の場所に移動させるか。
とりあえず他の人がいる時は動かないように伝えておく。
「じいじ、あと契約はどうするの?」
「契約は完了しておりますよ」
よくわからなかったけど、契約と言っても難しいものではなく、契約する両者が一緒にいたいと願えば契約が完了するという。
私が一緒にいるために小さくなってと願って、パックちゃんがそれに応えたから契約が完了というわけだ。
「これからはパックとお呼びしても?」
(コク)
じいじが呼び方の確認をしてパックちゃんは頷いた。
じいじが呼んで、気づいたけど、名前パックちゃんで良かったのかな。
つい某ゲームの花の敵キャラが思い浮かんでしまったばかりに…。
まさか妖精だと思わずそのまま呼んでしまったから。
「パックちゃん、名前変える?」
(フルフルフルフル)
「えっ、気に入っているの?」
(コクコクコク)
どうやらパックちゃんという名前が気に入っているようだ。
良かったのか、悪かったのか。
本人が気に入っているなら、まあいっか。
「念のため、パックは他の人に見えないようにしておきましょう」
「うん、それがいいね」
じいじがそういってパックちゃんに隠蔽の魔法をかける。
これでパックちゃんのことは私とじいじ以外には見えないらしい。
隠蔽の魔法って魔力を隠すだけじゃなくて、指定したものを隠すことができるんだ。
さらに私とじいじだけは見えるようにするとか、じいじはどれだけ高度な魔法を使うのか。
魔法は記憶が戻ってから重点的に教えてもらってはいるが、まだまだ知らない魔法がある。
隠蔽の魔法だって、やっと自分の魔力を隠せるようになってきたところだ。
じいじが知っている魔法をすべて学ぶまで、あとどれくらいの時間がかかるだろうな。
途方もなく感じてちょっと遠い目になってしまう。
「さて盗品は後で確認するとして、盗賊を渡してしまいましょう」
「うん。あっ盗品で気になったんだけど」
盗賊たちの拠点を出て、街道に向かう途中、盗品の中に、武器や絵画や置物などの大きいサイズの物がなかったことを伝えた。
じいじが進んだ道の方に保管されていなかったかと聞いたが、盗賊が使っていた武器くらいで盗品はなかったとのことだった。
じいじが隠し部屋を見過ごすわけないので、あの穴倉には大きいサイズのものはなかったってことだろう。
小物専門にしては盗賊の人数が多い気がするし、別に保管していたり、すでに売却したとかかな?
じいじも違和感があったらしく、盗賊を兵に渡した後に盗品を改めて確認しようと話した。
*
街道に近づいていくと、街道に似合わない張り詰めた空気が漂っていた。
あれだ、盗賊を受け取りにきた兵士が周りを警戒しているせいだ。
盗賊を受け取りにきた割には緊張が半端ないんだけど、なにかあったのかな。
「…誰か来ます!そこ者止まれ!」
兵士の言葉におとなしく立ち止まる。
盗賊らしき人を20人以上グルグル巻きして連れてくる人なんて怪しいよね。
その気持ちはわかるから、ちょっとくらい横柄な態度を取られても大人しくしておく。
すると兵士たちの奥から現れたちょっと偉そうな兵士が出てきた。
「お前たちがその盗賊を捕まえたのか?」
「そうですが、なにか」
「…ふん。とりあえずローウまで来てもらおうか?」
兵士の言葉にじいじは目を細めながら応えた。
なんだろう、ちょっと不穏な感じがするんですが。
もともとローウに行く予定だったからいいけど、問答無用の雰囲気に眉をひそめる。
「とりあえず、拠点にいたと思われる残りの盗賊を引き渡しますね」
微妙に兵士の指示にはぐらかすようにじいじは応えて、盗賊を捕まえている縄を渡した。
盗賊たちはまだ眠ったままなので、盗賊を受け取ったものの盗賊を動かすことができない兵士はその場から動けない。
寝ている20人以上の大人を動かせるって脅威だよね。
じいじは風魔法でちょっと浮かせていたから、大して力はいなかったからいいけど。
周りを見ても盗賊を運ぶものもなさそうだ。
捕まえた盗賊は歩かせるつもりだったのかな?
「では先にローウに行っておきますので」
「お、おい?」
周りの兵士を見渡すと困惑した表情を浮かべているだけで、私たちを引き止める気はないみたいだ。
強制同行みたいに言ったのはあの兵士の独断なのかもしれない。
盗賊を捕まえただけで、犯罪を犯したわけじゃないし、引き止めたら引き止めたで越権行為だよね。
「では、盗賊の輸送お願いします」
じいじがそう言いながら街道で捕縛していた盗賊の囲いを崩すと、周りにいた兵士たちは驚いた声を上げた。
盗賊が注目されている内に私とじいじは足早にその場を去る。
ここにいたら更に余計なことに巻き込まれそうと勘が告げている。
今まで散々巻き込まれてきた私の勘が!
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