79 お花のパックちゃん

このまま使用してもいいか戸惑っていると。

(コクコク)

先程と同じく返事をするように花の部分を縦に振ってきた。

まあ自分の魔法だし、害はないかな?

捕縛も移動もできそうなのでそのまま当初の予定通り盗賊を捕縛して運んでもらうことにした。


左側の道の奥はじいじが言っていたように、今まで盗んだ物の保管場所だったようだ。

盗難防止のためなのか重要な場所だからなのかわからないが、配置されていた盗賊の数は数人だった。

盗賊の大半はじいじが捕縛しているだろうなと遠い目になる。


そんなことは置いといて、お宝の回収だ!

丁度置き場の整理をしていたのか、ドアの鍵はかかっていなかったのですぐ中に入れた。

中に入ると手前にはわかりやすくお金の入った袋が山積みになっている。

その奥の箱には貴金属、小型の武器などが分けられて入っていた。

なんかイメージする盗賊のお宝と違うような。

なんていうかもっと、武器とか防具とか純金製の置物とか、お金持ちの家に飾ってありそうな物があると思ったのに。

片手で持てそうな大きさの物しかない。


小規模や盗賊を始めたばかりだったら小物類が多いのも仕方ないけど、人数といい拠点といい、そういう感じではないと思う。

大きいものは他の場所に隠してあるのかと思って何度も確認したけど、隠し扉みたいなものもなかった。

矛盾している状況に疑問に思うけど、ないものに時間を潰しても仕方ない。

もしかしたらじいじの方にあったのかも知れないし。

そう思い直して、アイテムボックスにお宝をサクサク収納して、待ち合わせ場所に向かった。

ちなみに私が隠し部屋を探したり、お宝を収納している間、お花のパックちゃん(命名)は静かに入り口で待っていました。



「じいじ〜」

「おかえりなさい」


待ち合わせ場所にはすでにじいじが到着していた。

その後ろには蔓ではなく黒いグルグル巻きにされた盗賊たちだと思われるものが転がっていた。

目算で20人ほど、盗賊のほとんどはじいじの方にいたらしい。


「リサ様、その後ろの花は?」

「パックちゃん?じいじの魔法をイメージしたら出てきた」

「そうですか、…そうですね。いかがしましょうか」

「あれ?」


いつもなら受け流すじいじが何やら混乱している…?

混乱まではいかなくとも何か迷っている?

珍しいこともあるもんだ。

そんな思いで見ていると、パックちゃんはツンツンと肩を触ってきた。


「パックちゃん、こっちはじいじね。私の保護者」

(コクコク、ペコリ)


パックちゃんは意志があるみたいに、じいじに挨拶をした。

魔法って生物を作り出せるんだっけ?

生物を生み出すイメージは錬金術だと思っていたんだけど、疑似魔法生物だったら可能なのかな?


「ご丁寧にありがとうございます。とりあえず盗賊を預かりましょう」


その言葉を聞いてパックちゃんはグルグル巻きにしていた盗賊をじいじに渡した。

ちゃんと言葉を理解しているよね。

それに素直で、いい子だな〜


「なるほど、言葉を理解することまではできていると」

「じいじ?」

「リサ様、先にその妖精について説明しましょう」

「妖精?!」


どうやらパックちゃんは妖精だったらしい。

私の魔法なのか怪しいと思ったけど、やっぱり私の魔法じゃなかった!


「妖精といっても生まれてそう時間が経っていないのでしょう。リサ様の魔力に惹かれて近づいてきたかと」

「全然気づかなかったけど」


じいじの説明によると妖精は周りの魔素を取り込んでいるので、風景と馴染んで見つけられないものだと。

美味しい魔力を持っている者に近づいて漏れている魔力を取り込んでいく。

何度も魔力を取り込んでいくと妖精はやがて成長し、お返しに『妖精の祝福』と言われるちょっとした幸運なことが起こるらしい。


「つまりパックちゃんは妖精の祝福ってこと?」

「いえ、妖精の祝福はあくまでも幸運なことが起こるだけです。この妖精はリサ様の魔力ではなく魔法を取り込んだのです」


魔力ではなく魔法を取り込む?

そんなことができるのか不思議に思うけど、できている結果が眼の前にあるのでできるのだろう。


「植物魔法とも相性が良かったのでしょう。魔法を取り込んでそのまま実体化してしまったようです」

「パックちゃん、元の妖精に戻れない?」


パックちゃんが魔法を取り込んでしまった自業自得なところはあるかもしれないが、まだ生まれたばかりの赤ちゃんだと考えると誤飲は致し方ない。

それよりもその誤飲のせいで一生このままというのは可哀想だ。


「リサ様が魔法を解除すれば元の妖精に戻れるでしょうが、その妖精にその意志はないようです。さらにいえば仮契約状態です」

「仮契約?」


契約とは通常魔獣などと行う従魔契約のことで、相手が服従した時に相手と契約したいとアピールしている状態が仮契約らしい。

精霊などでもまれに契約を希望するものがいるが、妖精の段階で、しかも生まれてすぐ知能の低い状態での仮契約は聞いたことがないとじいじは説明する。


「それってパックちゃんが離れたくないよって言っているの?」

「そうです。思考は単純ですから一緒にいるくらいの考えしかないようですが、どう説得したものか」


じいじは珍しく困っているようだ。

契約してもいいんだけどこのままだと街にも入れないもんね。

魔獣と間違えられそうだし、目立つから絶対トラブルが発生しそう。

説明しようにも赤ちゃんに人の街に入るためには〜とか説明してもわからないよね。

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