78 盗賊の拠点

離れたところから、そっと穴倉の様子を伺う。

街道に出たグループが失敗したとは気づかれていなさそう。

入り口付近に立っている人も、周りは見ているけど暇そうに欠伸しているし。


「前回は拠点を潰しに行くまではできませんでしたけど、今回はできそうで良かったです」

「あ〜首都に行く時に出てきた盗賊?」

「そうです。あれも拠点がありそうでしたが、依頼の途中でしたからね」


前回は期限のある依頼中だったから、盗賊の拠点つぶしは領主に任せたのだった。

今回は依頼も受けていないので制限がない。

思う存分潰していいってことだよね!


初めての盗賊の拠点つぶしということで、じいじの『盗賊殲滅』講座が開かれる。

拠点を見つけたらまず拠点内の人数や拠点の構造を確認することから始める。

特に捕らわれている人がいると被害がでるので、慎重に探る必要がある。

今回は探知と千里眼の魔法を使って拠点を探るのだが、その時習ったばかりの隠蔽の魔法も使用する。

相手に魔術師がいた場合、捜索されていることを感知される恐れがあるから。

ついでに隠蔽の魔法もどのくらい上達できたかの試験でもあるとのお達しだ。

慎重に、けれど素早く拠点の把握を行う。


「人数は、20…23人かな?人質はいなさそう」

「人質がいない判断はどのように?」

「全員に鑑定をかけてステータスを確認したの。盗賊なら鑑定してもいいでしょう?」


一応マナーとして勝手に鑑定してはいけないとなっているけど、盗賊などの罪人であれば罪を確認するためにそのマナー違反に当たらない。

もし人質の人がいたら、まあ助けるためだと思ってその時は諦めて欲しい。

じいじも頷いてくれたから対応はこれでいいはずだ。

隠蔽の魔法もちゃんとできているようで、じいじの顔を見るに合格ラインは突破できたようだ。


「中は意外と深いんだね。途中で二手に分かれているし。わざわざ掘って作ったのかな?この拠点」

「そのようですね。少なくとも土魔法を使うものはいるかと思っていいでしょう」


手で掘ったとしても、強度を保つため補強する必要があるものね。

魔術師がいると思っておいた方がいい。

見かけたら魔術師を優先に捕縛しよう。


「奥は行き止まりだね」

「正面から入っても勝てるとは思いますが、正々堂々、全員を相手にする必要もありません。効率のいい方法を取りましょう」


そう言って、じいじは入り口近くの見張りをすぐ昏倒させると、穴倉に向かって霧状の魔法を放つ。

そして入り口を大きな岩で塞いでしまった。


「眠りの魔法を放ちました。実力がないものは1日寝たままでしょう」


下っ端は相手せず、幹部またはボスだけ相手にすればいいようにしたらしい。

たしかに街道で盗賊を捕縛したままだ。

ローウに引き取り依頼をしているので、その時に一緒に運んでもらったほうが二度手間にならない。

数分経って、入り口を塞いでいた岩に少し穴を開けて中の様子を伺ってみる。

感知できる範囲の人は地面に倒れているから、眠ったということだろう。

あれ?これってもう全滅していない?


「じいじ?全員寝ちゃった?実力のない人だけじゃなかったの?」

「実力のある者がいなかったと言うことでしょう」


じいじは何も問題ないと言わんばかりの笑顔で答えた。

実力のある者って、それってじいじから見て実力がある者って意味だったの?

それならほとんどいないのでは?

実力者が残っているかもって身構えていたのは無駄じゃん!

…いや、慎重に行動することはいいことだし、じいじ基準の実力者がいなかったっていうのもいいこと!

悪いことは何もない。

だから問題なんてないよ!なかったんだよ!

プラスに考えようと脳に暗示をかけている側で、じいじは素知らぬ顔で入り口を埋めていた岩を退かしていた。


「人数は程々多いですからね、魔法で捕縛して行きましょう」


そういうと植物魔法で寝ている盗賊たちを蔓で縛り上げていく。

そして蔓は空中に盗賊を持ち上げ、じいじの後を付いて運んでいく。

縛り上げた盗賊を運ぶくらいできるかと思ったけど、何もすることがない。


「じー」

「…言いましたでしょう?効率のいい方法で行きましょうと」

「効率良すぎて私がすることがないんですが」


じいじにツッコミ力を込めた視線を効果音付きで向けてみた。

流石のじいじも無視することができず説明するが、何もできない不満を口を尖らせてアピールする。


「大丈夫ですよ。この先二手に分かれていたでしょう?私は右側を行きますのでリサ様は左側に行って、盗賊の捕縛と盗品の回収をお願いしますよ」

「おぉー!それが残っていた!良かった!お宝の回収任されました!」


そういえばこの穴倉には道が2つあった。

じいじの実力者発言でうっかり頭から飛んでしまっていたが、分かれて作業した方が効率いいもんね!

ちゃんとすることがあるとわかってやる気が復活する。

ついでにじいじのように植物魔法を使えるように練習しよう。


「じゃあここから別々だね!」

「はい、それぞれ回収が終わりましたらここに集合いたしましょう」

「了解!」


じいじと元気よく別れ、意気揚々と左側の道を進んでいく。


「第一盗賊発見!」


正確には第一者ではないのだが、私が一人で発見したのが一人目だと言うことで納得してほしい。

それほどテンションが上がっていたのだ。

ということで(?)早速植物魔法の練習だ。

いつも使っている方法は蔓を縄のように使っていたけど、それじゃ捕縛だけになってしまう。

その後は自分で運ばなくてはいけなくなる。

じいじのように捕縛しつつ、運搬もできるようになりたい。


「えっと、じいじのように縛ったら蔓を切らずに持ち上げるように」


思い出しながら魔法を練る。

しかしその一瞬、空中に蔓で捕縛された盗賊を思い出して、食中植物に捕まった虫みたいだと思ってしまったのが悪かったのか。


「《グラスバイン》…あ!」


見事に子どもの背丈ほどある植物らしきものが横に立っていた。

どこぞのゲームに出てくるパックンする花によく似た植物が。

これ見ようによっては植物の魔獣に見えない?


(フルフルフル)

心の声を読んだかの如く、花の部分を横に振って否定しているように思える。

えっと、この魔法そのまま使っていいのかな?

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