77 街道のトラブル

美味しいチーズを手に入れるぞ!と意気込んで早々に新しいトラブルに出会いました。

いや、何もしていないんだけどね。

ただ、美味しいチーズを手に入れるために首都を出ただけなのに。

着いたローウの宿でぼんやり1日を振り返る

ことは首都を出るために並んでいた時から始まったように思う。



首都の隣の放牧地帯を目指すため、朝早くから首都への出入り口に並んだ。

港町リーンから首都に来るまでは馬車で来たので実感がなかったが、徒歩で並んでみると首都へ出入りする人はやっぱり多い。

列に並ぶ人も多く、どの人も早く出たいためか、ギリギリまで詰めて並ぼうとするので、前後のパーソナルスペースが狭い。

こう密着するとスリとかできそうだなと一瞬頭を過ぎったが、流石に門番が近くにいる状況で犯罪をする人はいないと思い直したところに。


「誰か!スリだ!!」


誰かが上げた声に辺りは騒然となる。

こんな密集状況でそんな騒動が起きれば、暴動となりかねないのに。

スリという声が聞こえた人は大事なものを抱きしめて辺りを睨みつけている。

巻き込まれるかも知れないから、いつでも反撃できるように構えて警戒したけどそれ以降は何も起きなかった。

門番の人も落ち着くように声をあげ、周囲は一旦それで落ち着いた。

スリが捕まったのかもわからないまま、列は並び直され、そのまま首都を出ることになった。

これ盗賊とかに見られたら一発でどこに高価なものがあるかわかってしまうんじゃないかな。

そう思ってしまったからなのか。


「その懐に持っている貴重品を出せ!」


首都から1時間ほど歩いたところで殺気を感じ、じいじと一緒に気配を消しながら近づいてみると、複数人に囲まれる2人の旅人がいた。

盗賊が襲うのは実りのある商人の馬車だと思ったのだけど、そうでもないのか。

それとも別の目的があるのか。

巻き込まれたくはないけど、だからって盗賊を見逃すほど落ちぶれてはいない。


「じいじ、とりあえずさっさと片付けよう」

「はい」


美味しいチーズが待っているのだから、時間をかけたくない。

どちらに非があるかは明らかだから、わざわざ声掛けすることもなくその場で魔法で拘束する。


《エアーバイン》

「な、なんだ!っ!」

「え?」


拘束した盗賊をじいじがすぐに気絶させていく。

じいじの動きが早いので旅人には目に突然拘束された盗賊が倒れていくように見えるだろう。

驚かせるつもりはなかったけど、助かった代償だとでも思って欲しい。

そう思っている間にじいじがすべての盗賊を沈めた。


「大丈夫ですか?」

「ひぃ!…あっ、すみません」

「いいえ、怪我とはないですか?」


後ろから急に声をかけたため、旅人さんをさらに驚かせてしまったようだ。

パッと見た感じでは怪我はしていないようだけど念のため確認する。


「はい、大丈夫です。あ、ありがとうございます!」

「困ったときはお互い様ですから」

「いいえ!盗賊に会ったら命がないものだと。本当にありがとうございます」

「盗賊の捕獲は終わりました」


怪我の確認をしている間に、じいじは倒れていた盗賊を縄で縛って一括りにしていた。

さっすがじいじ!行動が早い!

囲んでいたより人数が多い気がするけど、近くに潜んでいたのかな?


「じいじお疲れ様!この盗賊はどうする?」

「中々の人数がいたので、何処か拠点があると思われますので」


拠点があるなら潰しておいたほうがいいだろうと提案された。

放って置くのも気分が悪くなりそうなので、拠点を潰すことに決定した。

悩むのが、今捕まえている連中をどうするかだ。

この場所は首都と向かっている放牧の街ローウとの中間あたり、どちらに連れて行くにしても徒歩で1時間かかってしまう。

ここに放置もできないし、困った。


「盗賊の対処はお任せください。お二方はどちらに行かれる予定でしたか?」

「わ、私達はローウに」

「ではローウに着かれましたら、門番に報告していただけますか?」


そう言いながらじいじは、捕縛した盗賊たちの周りをアースウォールで囲っていく。

さらに天井まで作っている念の入れよう。

これなら空を飛ぶ魔獣が来ても襲われることはないだろう。


「冒険者が盗賊を捕縛したので迎えをお願いしたいと」

「は、はい!」


完全に囲い終わったじいじがいい笑顔で言付けを依頼する。

突然出現した土の囲いに旅人さんは驚いているんだけど。

まあ盗賊を逃さないということは伝わるだろうから、ツッコミはしない。


「さて、拠点を潰しに行きましょう」

「は〜い」

いつの間に拠点を把握したの?!というツッコミもしません!

じいじだから、ササっと盗賊から聞き出すのもお手の物だろうし、拠点が近ければ探索魔法で聞き出す前に把握していたかもしれない。


「あちらですね。わかりますか?」

「う〜ん微かに?」


じいじが指差す方に向かって、街道から森に入っていく。

木々の間に獣道のように見える箇所があるが、地面をよく見ると人の足跡が微かに残っている。

結構な人数いたはずなのに、これだけしか残っていないってことは、下っ端ばかりの盗賊じゃないってことかな?

じいじがあっさり捕縛したから盗賊たちの腕前がいまいちわからない。


「使える人間が数人いる程度でしょうか。冒険者クラスでいえば、せいぜいCから良くてBランクくらいでしょうか」

「私とじいじはCランクだけど?」

「一般的なCランクですよ。Aランクの魔獣が討伐できるならそもそも盗賊なんてしていないでしょう」

「えへへ、だよね!」


じいじをからかってみたものの、正論で返されてしまいました。

ノッてくれるかと思ったけど残念。

まあじいじも冗談だとわかっているから笑って返してくれるけど。

そんなのほほんな空気で歩いていると、盗賊の拠点らしき穴倉が見えてきた。

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