53 リーヴォルの服飾店
無事に食材を購入することができ、宿に戻った。
魔法の練習をしたかったが、宿でやると魔力が漏れて他の宿泊客に迷惑をかけるかもしれないので我慢する。
ワーキングスペースを使うことも考えたけど、後でシャロンさんにどこで練習したのか問い詰められる姿が浮かんだので諦める。
今回はじいじも急かさないし、急いですることではないと思っておこう。
「さて、宿で何をしようか?」
薬草の栽培も進捗を確認するだけで、すぐ終わってしまった。
今まで空いた時間があれば修行などを行ってきたので、空き時間に何をしていいかわからない。
「リサ〜いる〜?」
「シエラさん?はーい!います!」
「良かった!リンダとご飯の時間まで買い物に行くけど一緒にどう?リーンとはまた違ったものが売ってあると思うよ?」
「ぜひ!」
悩んでいたところに丁度いいタイミング!
誘ってくれたシエラさんに思わず飛びついた。
「あっ?じいじはどうする?」
「女性だけの方が楽しめるでしょう。欲しいものがあれば遠慮せず買ってきてください」
「わかった!行ってきます!」
じいじにも優しく送り出してくれた。
やっぱりじいじでも女性の買い物に付き合うのは大変なのかな?
でも女性だけで買い物なんて今生初めてでワクワクする!
ウエストポーチ型のマジックバッグを忘れずに持ってシエラさんと部屋を出た。
「ここはリーンから入った他国産の素材とか、国内の布とかが集まるから縫製に力を入れている街なの!服とかお薦めなんだ!」
「ちょっと高いけど品質重視で買うならこの街がいいわ。首都で買うよりお買い得だし、肌触りが良いから!」
シエラさんとリンダさんに連れられて入ったのは、店構えがシックで高級そうな店だった。
ちなみにシャロンさんは魔法の研究を優先したため案の定買い物に来ていない。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた声の店員さんが出迎えてくれた。
やっぱりちょっとお高いところだと店員さんの品もいい。
「どのような品をお探しでしょうか?」
「そうね、薄くて通気性のある肌着をお願いしたいわ」
「私は革の手袋!丈夫で滑り止めがあって、可愛い飾りがあるものがいい!」
「私は特にないので、先に2人のものをお願いします」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
店員さんは2人の要望の品を取りに行った。
私は誘われただけなので特に欲しいというものがなかったけど、せっかくおすすめしてもらったんだからと店員さんが戻る前に飾ってある服を見て回ろうかと考えていた。
「リサはいつもその服だよね?防具とかはいらないの?」
顔合わせの時から同じワンピースと覚えていたのかシエラさんが首を傾げた。
街中だったら防具をつけないこともあるが、依頼中もワンピースのまま防具を付けていないことが不思議だったようだ。
「これじいじからもらったんです。防御力が高いからと」
チートじいじからもらった物理と魔法どちらにも耐性があって、しかも汚れにくいチート的なワンピースと聞いている。
洗濯も浄化魔法か水魔法で洗えばあっという間に新品同様になるので、基本はこのワンピースを着ている。
「そう言えば、外で模擬戦したのに、土埃とか全然ついていないわね?」
「すっごい!それ絶対高いよね!」
リンダさんがワンピースが汚れていないことに目ざとく気づいて、シエラさんは興奮したように飛び跳ねた。
「どうされましたか?」
「騒いですみません」
「あっ!ごめんなさい!リサの服がすごいって盛り上がってしまって」
候補の洋服を持ってきた店員さんに慌てて謝る。
他に人がいないからといってもお店で騒いでいいことではない。
「お客様の服ですか…ん?お客様ちょっと服を触らせて頂いていいでしょうか?」
「えっと、はいどうぞ?」
店員さんは襟をそっと持ち上げると、じーっと服を見つめる。
それにシエラさんはワクワクした表情で、リンダさんは無関心を装いながらチラチラ見ている。
「これは…!お客様こちらをどちらで!?」
「貰い物なのでちょっとわからないです」
「貰い物!?こちらを!?」
魔獣の繊維を練り込んであって、Bランクの魔獣の攻撃なら防げるって言っていたから高いものなんだと思っていたけど、店員さんのあまりの驚きぶりにこっちが驚く。
そういやリーンのギルドマスターも何かもの言いたげだったような気がする。
「そんなに驚くなんてやっぱりすごいものなんだ?高いってことだよね?」
「高いとかそういうレベルではありません!」
シエラさんの質問に興奮していた店員さんのテンションが爆あがりした。
襟を掴んでいる手は離してしてくれたものの、目はギラギラして声を荒げる。
「使用されているのはミスリルスパイダーの糸とボイリングシープの毛です!森の奥や火口付近、もしくは上級ダンジョンの下層でしかとれないとーっても貴重な素材なんです!!」
「そう、なんですね」
店員さんがすごいヒートアップしているけど、私はそんな貴重なモンスターの素材が使われているとか聞いていないので、相槌しか返せない。
そんな私の反応なんて関係ないと言わんばかりに店員さんはさらに声を荒げる。
「2つを合わせることで、物理、魔法どちらにも高い防御力を持たせていると思うのですが、この2つを布として織るのもとても技術の高い職人の腕が必要です!服として縫い合わせるとかもう、どれだけ腕のいい職人ができるとお思いですか!国お抱えの職人でも難しいかと!」
店員さんの勢いがとどまることを知らず、私たち3人を置いてきぼりにさらに言い募っていく。
「さらにさらにとっても耐性があるので通常の染料では染められないはずなんですが、それが均等に!斑なく染められています!見たところ世界樹の葉をベースに染められていると思いますがこれもとっても貴重なんです!エルフの伝手があっても譲ってもらえるかもらえないかくらい貴重な品なんです!そんな貴重なものがふんだんに使用された服は高いどころじゃないんですよ!手に入れることもできない、正に幻!国宝以上の伝説的なものなんです!!」
「国宝以上…!」
店員さんの叫びにも近い思いの丈に呆然としてしまう。幻とか国宝以上とか伝説とか言われて顔が引きつる。
金属の鎧より防御力が強いからって毎日着ていた服がまさかそんなとんでもないものだったなんて知らなかったよ!!そんな大層なものをポンと渡してくれるなよーじいじ!!
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