52 模擬戦終了
ボコっ!
「後ろ?!」
背後から穴が開く音がして振り向くが、そこには穴があるだけでラウルさんの姿はない。
ということは?
「こちらだな」
前を向けば短刀を首に突きつけられていた。
今からでも抵抗しようと思えばできるが、ラウルさんがその気なら私の首を落とす事ができただろう。
その時点で私は死んでいた。
「うぅ〜降参です」
悔しいが仕方ない。それに先に答え合わせしておきたい気持ちが勝った。
「ラウルさんは魔法もですが、気配遮断系のスキルも持ってますよね?」
探知を使った際に、ラウルさんの魔力を後ろから感じたからそっちだと思ったけど、今考えるとあれは穴を開けていた魔力だったんだ。
目の前に出てきたラウルさん本人の気配は感じなかったから、おとりだったんだろうな。
「ラウルは対人特化だから仕方ないわ」
「そうそう!経験が全然違うからね!」
いつの間にか近くに来ていたリンダさんとシエラさんに諭された。
経験が足りないのはよくわかった。
ぶっちゃけ生死をかけた戦いであれば負けはしないが、五体満足で捕らえるレベルになると途端に難しくなる。
それが戦闘の経験が豊富な人であればあるほど、戦いの読みで負けてしまう。
じいじ相手ならあらゆる可能性を考え、逆に死にものぐるいで戦うので、こういう経験はできない。
「まあラウルと戦うのはいい経験になるだろうけど、模擬戦ばかりにならないように気をつけなさい」
「ラウルも戦い好きだからな、楽しめると思ったら何回も誘ってくるからな」
私はその言葉に頷いた。
強さを求めない人が盾使いなのに魔法やら隠密技術やら取得しないだろう。
やっぱり手段だけじゃなくて、それを活用できるようにならないとな。
「じゃあ今日はこの辺で早速街に行こう」
「物資の追加もしてないとですね!」
今日は街で宿泊するので夜になる前に消費した食材を中心に追加しておきたい。
あと名物料理とかあるといいな〜
*
「なあラウル、リサと対戦してどうだった?」
「勝つとは思ってなかったよ〜」
「勝ったっていうのは微妙だな」
何事もなく無事に街に入ることができた。
近くでドンパチやっていたのに、平穏な門番の対応に結界の威力を知る。
リサ達が買い出しに行くとのことで宿で別れ、ちょっと休憩していた時、不意にラウルに問いかけてみた。
シエラやリンダは負けると思っていたことは口に出さないが、ラウルが勝てるかどうかは微妙なところだと思っていたから。
エイルと対戦した時、リサは全力を出すことなく勝っていた。
武術も魔法も手数が多そうだったし、後は経験がないだけだろうなとは思うけど。
「経験が足りないのは明らかだが、多分強者としか戦ったことがないんじゃないかと思う」
「強者?逆に経験があるってことじゃないの?」
一般的に強者との戦いなら手数も戦法も豊富で、鍛えるのにはもってこいのはずだ。
それが敗因になるのか?
「強者だとリサが全力を出したとしても攻撃を流せるだろう。でもそのせいで中途半端な弱者を捕らえる事が難しくなっているんだと思う」
「リサがラウルと向き合った時に嫌な予感がしたと言ったのは?」
ラウルも全ての手札を見せたわけではないから、それについて嫌な予感がしたのかと思っていたんだけど、ラウルのこの感じだと違うのか。
「違うな。多分勝つことを優先したら俺に大きな怪我を負わせることになると無意識に判断して手が止まったんだ。ただ本人には自覚がないから嫌な予感とだけで」
「それを聞くとやっぱりリサちゃんって強いのね?」
戦いが好きすぎて、日頃から鍛えまくっているラウルに重症を負わせる可能性があるなんて簡単にできることではないはずなのに。
シャロンの問いかけにラウルは頷く。
「あのおじいちゃんもヤバいと思ってはいたけど、リサもか〜」
「違うわよ!あのおじ様が一緒にいるのに、リサちゃんが普通なはずないわ」
シャロンの言ったことにみんな頷いた。
リサの後ろで目立たないように紛れてはいるが、あのおじいさん相当の使い手だ。
シャロンは何も言わないが、教えてもらっている新しい魔法は秘技と言われるものじゃないかと当たりをつけている。
そんな使い手がずっと側にいて、色々教えているならリサが一般的な使い手のままじゃない。
「見た目はお嬢様って感じだけど、貴族にしては受け答えがへりくだっているし、平民にしたら所作がきれいなのよね。どっち付かずの不思議な子だわ」
「最初は生意気な令嬢かと思ったけどね〜家の権力で威張っているのかと思ったら、実力だったみたいだしね」
シャロンの呟きにリンダも賛同する。
髪も肌も手入れが行き届いており、服も高品質のものだった。
一見しただけでは剣術も魔法も使える猛者だとはわからないだろう。
「とりあえず今回の依頼も無事に終わらせるようするだけだ」
「そうだな!正体を探る依頼じゃない。自分たちの戦力強化にもなるし、積極的に模擬戦していこうな!」
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