35 魔装技

「じいじ!帰りに木の剣買いに行こうね!」

「私の持っているものをお渡しできますが?」

「いや、じいじが持っている木の剣なんて、ランクの高いトレントとかを使った木の剣とかでしょう?それ使ったら練習にならない」


お決まりになりつつあるじいじの高価な持ち物を使ったら意味がない。

絶対に魔力が通りやすいから練習にならないに決まっている!

いつでも手に入りそうなもので使えるようにならないと。


「あ~お前さんたち?」

「あっ!勝手に練習してごめんなさい!」


手合わせ前だったのに、すっかり夢中になって忘れていた。

ギルドマスターを始め、緋色の獅子の人たちが呆然としている様子に謝る。


「だ、大丈夫だが…君は魔装技が使えるのかい?」

「まそうぎってなんですか?」

「知らずにやっていたのかい?!」


エイルさんは驚いた声をあげたけど、魔剣以外では初めてしたことだから仕方ない。

とりあえず頷いた。


「いや?え?何も知らないでできるもんじゃ…?」


素直に答えたのになぜか余計に混乱している。

これはどうすればいいのでしょうか?

救いを求めるようにちらっとじいじをみた。


「魔装技とは魔力で自分の体や武器・防具を纏わせる技術の総称です。リサ様は肉体強化をすでに取得されていました。今回木の剣でできたのは、魔剣の応用を試された結果でしょう」


魔剣で感覚が掴めていたのでその内教える予定だったとのことだった。

私がいきなり試してしまったので予想外だったらしい。

仕方ないですね〜と言わんばかりのじいじに目を逸らす。

そんな大層な技術だと思わなかったし、必要ならやってみよう!当たって砕けろの精神だった。

砕けたらダメだとはわかってるけど。


「まあ、今に始まったことではありませんから。リサ様のことは突拍子もない子だと思っていただければありがたいです」

「突拍子もないのは私だけじゃないよね?!じいじだって結構やらかしていることあるでしょう?!」

「状況を把握した上で行っておりますよ?」

「確信犯かい!!」


じいじのとっても失礼な言葉に漫才のようにツッコんでしまった。

知識不足なのは自覚しているけど、突拍子もないなんてことはない、ないよ!


「まあ見た目穏やかそうな執事風の爺さんと家を飛び出してきた貴族風のお嬢ちゃんに見えるかもしれないが実力は確かだ。この間あった領主様からの依頼の遠征もやり遂げてきた」

「魔の森の奥に行ったいう遠征?」

「そうだ。輸送依頼だったが、ちゃんと自分のことは自分で守ってきた実績もある」


ギルドマスターも気になっていたのか、緋色の獅子のメンバーが私たちに言った言葉を使ってきた。

最初から魔の森の奥に行った話すれば早かったのでは?


「話を聞くのと実際に見るのでは理解が大きく違いますからね。依頼中に揉め事になっても困るから先に手合わせで教えることになったんですよ」


そういうものか~

話を聞いたけど信じられないものかな?

ここのギルドマスターは腐ってないから、ギルドマスターが言うならってならない?


「人から話を聞いても自分に経験がないことは想像がしにくいものですよ。話せば全てわかってくれるということは幻想ですね」


ちょっと辛辣なじいじのお言葉。なにか経験がありそうだけど、そこは聞かないお約束。


「ちょっとどうする?女の子は剣術の技術もありそうだし、おじいさんは魔法のコントロールが凄いし」

「広いとはいえこの訓練場で、複数のウォーターボールを操作するのって、とてつもないコントロールよ!私は無理!」

「これはわざわざ手合わせする必要あるか?」


じいじと話している間に緋色の獅子のメンバーはこそこそ話しだした。

勝手に練習してしまったが、結果オーライだったのかもしれない。


「一応1戦だけしておこうか?じいさんも言ったが聞くのと体験するのでは違うからな」

「対人戦が少ないので私がやってみたいです!」


魔獣との戦闘は多いけど、ちゃんとした対人戦は数えるほどしかない。

その上命を取らないような手加減をしなければならない手合わせをする機会は今後も少なそうだ。

じいじとの対戦?それは全力でしないとムリ!むしろ全力でしないと私があっさり倒されて怒られるコース…!


「ギルドマスターが言うのなら仕方ない、俺がしよう!」

「じゃあお願いしまーす!」


リーダーのエイルさんが相手になるようだ。

木の剣を取ったからやっぱり剣士だな?なら私も木の剣で対応したほうがいいのかな?


「リサ様、その魔装技は今回使わないように、その代わり足止めくらいの魔法は使用していいでしょう。剣術だけじゃなく魔法も使えることをアピールしなくてはいけませんからね?」


戦い方を考えるとじいじからアドバイスをもらった。

確かに使い始めたばかりの技を使うのは危ないか。


「ではお互い中央に。準備はいいか?それでは用意…始め!」

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